「うなぎの回遊」をテーマに、市民と演劇作品をクリエーション中。うなぎの一生を考えるとはどういうことか。参考書籍とともに語ってもらった。

劇作家・演出家 石神夏希が選ぶ、うなぎを考えるブックガイド

「うなぎの回遊」をテーマに、市民と演劇作品をクリエーション中。うなぎの一生を考えるとはどういうことか。参考書籍とともに語ってもらった。

静岡県舞台芸術センター(SPAC)で市民との演劇制作プロジェクトを進行している石神夏希さんは、これまでも地域に根ざしたサイトスペシフィックな作品を手がけてきた。

「静岡県西部に多く暮らすブラジルルーツの方たちの視点と言葉を通じ、今の社会や世界について描き出そうと考えています。そこに演劇的なフィクションの力を与えるのが、静岡県民にもなじみ深い〝うなぎ〟というモチーフでした。メンバーは10代から50代まで、異なる背景をもつブラジルルーツの方とSPACに所属する俳優とスタッフ。うなぎを食べる習慣のある日系ブラジル人キャストもいますし、うなぎを食べた経験がない20代の日本人スタッフもいます」

現在は2026年4月の発表に向け台本づくりの最中。チームによるリサーチに、ウナギ研究者の海部健三教授も監修に入っている。

「互いのルーツについての語り合いや、静岡の川などでニホンウナギの生態調査を見学。『頑張って旅をしてこの川にいるんだ』と、どうしてもうなぎ一匹の一生に自分の物語を重ね合わせてしまうわれわれと、個体ではなく『種』としてうなぎを捉える科学者。視点の違いも面白く感じられたことのひとつでした。人生の中で大きな距離を旅する人々と、時間をかけて海から川へ、そして海へと旅する回遊魚のうなぎ。ぴったり重なり合うわけではありません。しかし一度、うなぎの目を通して人間を見てみると、どうして移動をするのか? ふるさととは何か? 自分たちはいったいどこで生まれ、死にたいんだろうか? という普遍的な問いが生まれてきます」

『旅するウナギ 1億年の時空をこえて』

『旅するウナギ 1億年の時空をこえて』

黒木真理・塚本勝巳著 東海大学出版会/4,180円

ウナギを、自然科学、社会科学、人文科学の3つのジャンルに分けて詳解する「うなぎこれ一冊」。ウナギの一生、ウナギ漁や養殖の様子、江戸時代のウナギの文化的資料など、図版もふんだんでわかりやすい。

『日本のウナギ 生態・文化・保全と図鑑』

『日本のウナギ 生態・文化・保全と図鑑』

海部健三 ・脇谷量子郎著 内山りゅう写真 山と渓谷社/4,950円

日本におけるウナギの川や河口域での生態を写真で紹介。また、保全のための自然環境について、食文化や歴史、世界のウナギをめぐる状況も知ることができる。2024年刊行のジャーナリスティックな図鑑。

『ウナギのいる川 いない川』

『ウナギのいる川 いない川』

内山りゅう著 揖 善継監修 ポプラ社/2,640円

日本の川で生きるウナギは何を食べ、どんな生活をしているか。彼らが住みやすい環境とは何か。豊富なカラー写真とともに、身近な環境をウナギの生態を通じて知る。児童書だが大人も読みやすい一冊。

『結局、ウナギは 食べていいのか問題』

『結局、ウナギは 食べていいのか問題』

海部健三著 岩波科学ライブラリー/1,320円

生態学者の観点から考える、ウナギをめぐる論点を一問一答形式で、明快に解説。生態系と環境問題、海洋資源の持続的利用に関する社会問題など、多様な要素を整理し、現在の状況と判断材料を伝えてくれる。

『世界で一番詳しい ウナギの話』

『世界で一番詳しい ウナギの話』

塚本勝巳著 飛鳥新社/1,380円

世界で初めて、天然ウナギの卵を西マリアナ海嶺で採取することに成功した、東京大学大気海洋研究所のチームリーダー、塚本勝巳による集大成。ウナギの謎を解明するサイエンスアドベンチャーとしても読める。

『グランパシフィコ航海記』

『グランパシフィコ航海記』

東京大学海洋研究所 編 東海大学出版会/3,080円

東京大学海洋研究所が編集した、ウナギの生息する東京湾〜マリアナ海溝〜オセアニアをめぐるビジュアルブック。科学専門書ではなく詩的な文章と美しい写真が続き、ウナギの旅のイメージが喚起される。

『アフリカ にょろり旅』

『アフリカ にょろり旅』

青山 潤著 講談社文庫/671円

アフリカに生息するウナギ目の採集を求めるウナギ研究者たちの珍道中を描いたノンフィクションエッセイ。個性あふれるキャラクター揃いの海洋生物研究者たちがウナギにかける途方もない情熱に、抱腹絶倒。

『ウナギが故郷に帰るとき』

『ウナギが故郷に帰るとき』

パトリック・スヴェンソン著 大沢章子訳 新潮社/2,420円

ニホンウナギと同様に長い文化的歴史を持ち、絶滅を危惧されているヨーロッパウナギについて描いた世界34カ国で絶賛されたベストセラー。世界から見たウナギの位置づけ、物語を認識するスウェーデンの作品。

『ウナギと人間』

『ウナギと人間』

ジェイムズ・プロセック著 小林正佳訳 築地書館/2,970円

ワールドワイドな観点で考えるノンフィクション作品。ウナギをめぐって、ポンペイ島のトーテム信仰から米国のダム撤去運動、産卵の謎から日本の養殖研究まで、幅広く取材。世界の中のウナギが見えてくる。

『日本うなぎ検定 クイズで学ぶ、ウナギの教科書』

『日本うなぎ検定 クイズで学ぶ、ウナギの教科書』

塚本勝巳・黒木真理著 小学館/1,650円

ウナギとアナゴの違いは? 養殖ウナギと天然ウナギはどちらがおいしい?など、ウナギについての生物学的、文化的な図解とともに知識を丁寧に解説。クイズ形式で考えることで、世代を問わず理解が深まる。

『ウナギいきのこりすごろく』

『ウナギいきのこりすごろく』

ダウンロード版 日本自然保護協会

海に生まれて川で生き、再び海に還り産卵し、死んでいくウナギの旅には、環境の過酷さや捕食、被食の危険がいっぱい。そのウナギの一生を追体験できるすごろくゲーム。サイトから無料ダウンロード可能

石神夏希プロフィール画像
劇作家・演出家石神夏希

1999年より演劇集団「ペピン結構設計」を中心に活動。国内外でコミュニティのオルタナティブなふるまいを上演する演劇やアートプロジェクトを手がける。2025年よりSPACのシーズン作品でのディレクションを務める。

©SPAC photo by Natsumi Makita 

『うなぎの回遊 Eel Migration』
『うなぎの回遊 Eel Migratioの画像_12

SPACは静岡県立の劇場を拠点とする劇団。市民参加プロジェクトである本作は、リサーチを踏まえて「移動と生殖」をテーマに創作する。2026年4月に静岡市で上演予定。

©SPAC photo by Ryuichiro Suzuki