ほかのアニマルレザーとはひと味違う、繊細でエレガントなマテリアル。イールレザーアイテムは、今シーズンのひそかなトレンドになっている
ほかのアニマルレザーとはひと味違う、繊細でエレガントなマテリアル。イールレザーアイテムは、今シーズンのひそかなトレンドになっている
イールレザーアイテム
セルジオ ロッシ クリエイティブディレクター ポール・アンドリュー うなぎについて大いに語る
イールレザー素材をモードなシューズへ。サステイナビリティとクラフト、アートにまたがるイール=うなぎの魅力について、余すところなく答えてくれた
イールレザーは持続可能かつ美的観点からも優れた素材
――動物性レザーやエキゾチックレザーと比較しながら、フィッシュレザーであるイールレザーの特長を教えてください。
ポール・アンドリュー(以下P) イールレザーは多くの点でユニークです。何よりもまず、持続可能な素材であること。ワニやトカゲなどのエキゾチックレザーとは異なり、食用であり、すでに食品産業の一部です。これは特別な輸送許可が不要であり、その調達方法がより責任ある生産の実践に沿っていることを意味します。また、コスト面でもはるかに手頃です。オーストリッチレザーなどのエキゾチックレザーほど高価ではありませんが、同様に印象的なビジュアルアイデンティティを提供します。
美的観点では、イールレザーは軽量でしなやかな質感と柔らかな光沢が特徴です。天然繊維構造により、その薄さにもかかわらず驚くべき強度を備えています。この軽さ、耐久性、光沢の組み合わせが、厚みのある皮革では実現が難しいエレガントで精密なディテールの表現を可能にします。
――イールレザー素材にどのような魅力や可能性を感じていますか?
P イールレザーの魅力は、美しさと実用性、そして倫理や社会的責任への意識が融合する点にあると思います。食品産業の副産物であるため本来なら廃棄される素材を再利用しているという点で、現代のラグジュアリーにおいてますます重要な意味を持つアプローチでしょう。
イールレザーは時代を超えたモダンさを備えています。繊細でありながら独特な質感、柔軟性によりシューズやアクセサリーの彫刻的なフォルムに最適です。
長年愛されてきた流麗な質感が創作意欲を刺激する
――セルジオ ロッシのアーカイブにも多く見られるイールレザー素材。ブランドとの関わりを教えてください。
P セルジオ ロッシにとって、イールレザーはクラフツマンシップの新たな表現を探求する機会、つまり伝統的な素材をまったく新しい感覚へと昇華させる機会が得られる素材です。また、創始者であるセルジオ・ロッシ自身が愛してやまなかった素材でもあります。非常に特色のある素材であり、多用するブランドは多くはありません。そうした意味で、イールレザーはセルジオ ロッシのデザイン言語の一部として、控えめながらブランドのシグネチャーになっています。
――今シーズン発表した「SURGE」ブーティにはイールレザーが用いられていますね。この発想の源は?
P 創作背景には、クラシックなブーツシルエットを意外性のある海洋素材で再解釈したいという想いが根幹にありました。私は常にイールレザーの繊細な質感と自然な光沢に魅了されてきました。水の流れや動きを思わせる流動性と躍動感を想起させる特性に心を動かされます。
このデザインは有機的な美とモダンなミニマリズムを融合させ、イールレザーを柔軟性と弾力性のメタファーとして活かしています。その繊細な質感と光を反射させる表面が、優雅でありながら静かに革新的な感覚を醸し出すシューズを生み出しました。また、流動的なフォルムと、構造化された彫刻のようなラインが交わる2025年秋冬コレクションの建築的なムードとも完璧に調和しています。
――具体的に、イールレザーというマテリアルがこのデザインにもたらしたものを教えてください。
P イールレザーは本来細長い形状のため、靴に適したパネルを作るには複数の革を継ぎ合わせる必要があります。われわれデザイナーは目指す視覚的リズムに応じて水平方向または斜め方向に配置を選択できるわけですが、私はイールレザーの直線的な質感をよりダイナミックでモダンな方法で際立たせるために、ここでは斜めの構造を採用しました。パネルを斜めに裁断・接合することで光と影が美しく織り交ぜられ、素材本来の変化を伴う輝きを引き立てながら、まるで本物のエキゾチックレザーのような錯覚を生み出しています。この構築プロセスにおける技術はブーツの柔軟性と立体的な輪郭を向上させ、構造的でありながらしなやかなシルエットを実現します。イールレザーの特性である薄さと高い強度により、厚みを出さずに精巧なパネル構造を実現し、セルジオ ロッシの美学に不可欠な洗練された細長いフォルムをかなえる素材なのです。
イギリス出身。シューズデザイナーとして2013年に自身のブランドを設立。サルヴァトーレ フェラガモを経て’24年にセルジオ ロッシのクリエイティブディレクターに就任。







