捨て犬が優秀なセラピードッグに。動物介在療法の可能性について、プロに聞いた

体や心に不調を抱える人々に寄り添って精神状態や身体動作の向上を促すセラピードッグ。その活動と可能性は広がっている。二人のプロフェッショナルに動物介在療法を受ける効果や、 活躍を広げる背景について聞いた 

体や心に不調を抱える人々に寄り添って精神状態や身体動作の向上を促すセラピードッグ。その活動と可能性は広がっている。二人のプロフェッショナルに動物介在療法を受ける効果や、 活躍を広げる背景について聞いた 

一人ひとりの悩みにセラピー犬が寄り添う

捨て犬が優秀なセラピードッグに。動物介在の画像_1

セラピー犬とともにカウンセリングを受けることができる「セラピールームHESOTEN」。動物の力を借りて、人の精神的、肉体的な健康状態を向上させる動物介在療法を行なっている。HESOTEN代表の根本麻里さんに話を伺った。

「一般的に人は、動物とふれあうことで、オキシトシンというホルモンが脳内に分泌されるといわれています。オキシトシンは、信頼関係や共感性を高めると同時に、不安や恐怖を緩和する作用があります。

実際に犬とふれあっていると、血圧が安定したり、心拍数が落ち着くなどの身体的な変化が見られます。
また心理的には犬に寄り添ってもらえることで安心感を得られたり、社会的には、犬がいることで会話が生まれたりといった効果があります」

クリニックは昨年9月にスタートしたばかりだが、子どもから大人まで幅広い年齢層の人が来院。近隣の住民だけではなく、噂を聞きつけてやってくる遠方の利用者も多い。

「お子さんの場合、ストレス反応で爪を噛んだり、髪をむしったりするケースがあって、お母さんと一緒にわんちゃんに触れながらお話をしたりします。回を重ねると、引っ込み思案だった子が犬の名前を呼んだり、自分からさわったりと、自発的な行動が見られるようになります。

言葉の発達が未熟な子どもにとって、言葉を使わないアプローチができるセラピー犬の存在はとても大きいですね。また出張もしていて、先日はNPOの団体とともに不登校の子どもたちがわんちゃんと一緒に歩くという集団セラピーをやりました。『セラピー犬が来るよ』と聞いて、初めてその活動に参加できた子もいるので、セラピー犬の存在が、確実に社会参加のモチベーションになっていると感じています」

その一方で、大人の患者さんも少なくないという。

「特に男性で、ジェンダーバイアスから内面の弱さを吐露することに抵抗があったり、緊張してカウンセラーとの対話に難しさを感じている人も。でも、犬がいると場が和むし、究極、話さなくても場がもちます。

長年、家から出られなかった方は『セラピー犬に会いたい』と定期的に外に出るようになりました。また、対人緊張や対人不安で悩んでいた方は、犬とのかかわりが安心の土台となり、学校に再び通えるようになったり面接をクリアして就職されたりする方もいて、犬との関係を支援につなげられていると実感しました」と根本さんもその効果に手ごたえを感じている。

HESOTENで働くセラピー犬は、フレンチブルドッグやラブラドールなど犬種はさまざま。「一般家庭で飼われている犬で、飼い主さんと一緒に出勤してきます。セラピー犬になるためのトレーニングは、HESOTENや家庭で行い、認定資格を取得。ハンドラーは飼い主さんが務めています」とのこと。

「動物介在療法は、まだ日本ではマイナーですが、今後もっと広がっていってほしいなと願っています」

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HESOTENのセラピー犬、リリくん(フレンチブルドッグ・6歳)とラテくん(ラブラドール・5歳)

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HESOTENのセラピー犬、リリくん(フレンチブルドッグ・6歳)とラテくん(ラブラドール・5歳)

DATE
東京都江東区亀戸2の45の7 コスモリード亀戸 1F
03-6215-8514
営業時間:10時〜18時 無休
https://kokoronotomarigi.com/hesoten/

根本麻里さんプロフィール画像
セラピールームHESOTEN代表根本麻里さん

臨床心理士・公認心理師・動物介在セラピスト。数年前からボランティア活動として病院や施設、学校の相談室などをセラピー犬と訪問。その経験を経て、2025年にセラピールームHESOTENを都内にオープンした。

捨て犬が優秀なセラピードッグに。チロリが教えてくれたこと

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国際セラピードッグ協会の創始者・大木トオルさん。1970年代にアメリカに渡り、東洋人ブルースシンガーとして成功を収める一方、日本のセラピー犬育成のパイオニアとして、50年近くその活動に携わってきた。きっかけは、アメリカの友人に言われた一言だった。

「あるとき『キミのライフワークは何か?』と聞かれたんですね。音楽は仕事であって、それとは別に人間ならライフワークを持たなければダメだと。そんな折、近所の高齢者施設を訪ねる機会があったのですが、80年代当時、アメリカではすでにセラピードッグが活動していたんですね。それを見て、自分のライフワークはこれだと思いました。子どもの頃に飼っていた犬との楽しかった思い出も気持ちを後押ししてくれました」

当時の日本では動物介在療法など、ほとんど知られていなかったが、根気強く普及に務め、セラピー犬の訓練所や組織作りに奔走。さらに一匹の犬との出会いが大木さんの活動を前進させていくことになる。

「チロリという名の雑種犬です。あと一日遅れたら保健所のガス室で殺されてしまうところでしたが、とても勇敢で愛情深い犬でした。それで私はチロリをセラピードッグとして育ててみようと考えたのです」

賢いチロリはトレーニングを見事クリアして優秀なセラピー犬に。多くの人たちを勇気づけた。

「それまでセラピードッグといえば、選ばれた特別な犬だけがなれるものでしたが、チロリのおかげで捨て犬からセラピードッグへという新たな道が開かれたのです」

現在、国際セラピードッグ協会には訓練中の犬も含めて50頭ほどの犬がいるが、そのほとんどが殺処分を免れた捨て犬たち。協会で定められた訓練を経てセラピー犬として、高齢者施設をはじめ、障害者施設、ホスピスや刑務所、被災地など、さまざまな場所で活躍している。

「協会が定めたセラピードッグになるトレーニングは45教科あります。基本の歩行だけでも速足、杖を使う人との歩行、車椅子との歩行など細かく分かれていて、訓練には時間がかかりますが、多くの捨て犬たちが立派に活動しています。

中には被災地で行き場を失った犬もいます。東日本大震災のとき、福島の山間部を放浪していた『むさし』は、狩猟用のワナにかかって右前脚を失い、捕獲されていたところを私たちが救出しました。その後、健康を取り戻し、今ではセラピードッグとして活躍しています。人に捨てられた犬が、人を助けているんですね。感慨深いものがあります」

それでもまだ日本では年間1964頭もの犬が殺処分されていることが気がかりでならない。

「私の願いはセラピードッグがもっと普及するのと同時に、殺処分される犬がなくなることです。本当の意味で人間と動物が共存できる国になってほしいと思っています」

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ここではハンドラーは専門の職員が担当。車椅子との歩行を指導する大木さん(左)

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写真提供:(一財)国際セラピードッグ協会

(右)育てたセラピー犬たちとくつろぐ大木さん (左)折れた左耳がキュートなチロリ。その功績は、絵本『チロリ』でも広く知られている。2006年没

大木トオルさんプロフィール画像
(一財)国際セラピードッグ協会代表大木トオルさん

国際セラピードッグ協会創始者・ミュージシャン・弘前学院大学客員教授。ブルースシンガーとして日米で活躍する傍ら、セラピードッグ育成の先駆者として、教育カリキュラムを確立。高齢者施設などでの福祉活動に尽力している。

コラム ① どうしたらセラピー犬になれるの?

警察犬や盲導犬とは違い、さまざまな犬種がいるセラピー犬。
「カウンセリングでは、対象者に合わせて適切な犬種のセラピー犬を選んでいます。たとえば大型犬は、ずっしりしていて安心感がありますよね。子どもが40キロのラブラドールを枕にして寝転がることも。また小型犬は高齢者のベッドなどにも乗せられます」(根本さん)

犬をハンドリングする「ハンドラー」は飼い主が務め、セラピー犬としてのトレーニングは各家庭に任されているというのが一般的。さらにセラピー犬としての認定書を取得すると活動の場が広がる場合も。人見知りしない、無駄吠えしないなど犬の適性もあるが、自分の愛犬をセラピー犬に育てることも可能だ。訓練は早い時期に始めたほうがいいので、すぐに行動を!

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国際セラピードッグ協会で活動するゆきのすけは東日本大震災の被災犬だった。写真は保護された当時のもの

コラム ② 働く犬のワークライフバランス

セラピー犬は働きすぎて疲弊していないだろうか? そんな心配をする愛犬家もいるかもしれないが、杞憂なようだ。

「仕事をしているとセラピー犬も結構疲れてしまうので、活動は3時間を超えないようにシフト制にしています。わんちゃんがのんびりしていないと、患者さんも安心できないので、犬がリラックスできるように心がけています」(根本さん)。前出のJAHAの活動では、獣医療従事者が同伴してセラピー犬たちの健康を管理していた。また、国際セラピードッグ協会では、セラピー犬を早めに引退させ、施設でゆっくり過ごせるようにしている。「目の病気をして盲目になった犬もいれば、足腰が立たなくなった犬もいますが、最期まで協会で面倒をみて看取っています。それが私たちの責任だと思っています」(大木さん)

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活動中はおとなしいが、休憩中は根本さんと戯れたり、お気に入りのソファに寝転んだり、気ままにくつろぐラナ

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