図書館/読書サポート犬に向けて、本を読み聞かせる子どもたち。 「図書館に犬」の時代がやってきた
セラピー犬の中でも最近、注目されているのが「読書サポート犬」。子どもが本を読み聞かせるのをそばで静かに聞いてくれる犬のことだ。
もともとは移民の多いアメリカで、英語の読み書きが苦手になってしまう子どもたちのために生み出されたプログラム。子どもと読書をつなぐ取り組みとして日本でも図書館などが「読書犬活動」を実施している。
「学校で本を読むのが苦手な子も、読書サポート犬相手だとのびのびと読み聞かせてくれるんです。間違えても犬は笑ったりしませんから」と言うのは、愛犬メグ(チワワ・7歳)が読書サポート犬として活動している飯田良枝さん。メグは日本動物病院協会(JAHA)の認定を取得したセラピー犬だ。
「あるとき、お母さんから離れられない引っ込み思案の男の子がいて、本もお母さんに読んでもらっていたんですけれど、『昨日メグは歯医者さんに行った』という話から、『僕も行ったよ』と次第に打ち解けて、
最後には自分でしっかり本を読み聞かせてくれました。図書館の方が、男の子の顔が自信にあふれていて、来たときとは顔つきがまったく違っていたと言っていました」
自発的な読書体験を通して子どもは達成感を得られるという。一方、読み聞かせの時間は一人20分。その間、読書サポート犬はおとなしく寄り添っていなければならない。
「落ち着いた犬、子どもに優しく寄り添ってくれる犬であることが適性として求められると思います。メグは、私にとって3代目となるセラピー犬。これまで自分でもトレーナーの資格などを取って勉強してきたので、メグは特別な訓練をしたわけではなくて、普段家でコミュニケーションを取る中で自然といろいろなことを覚えていった感じです」
こうしたセラピー犬の育成や活動に携わるのは、基本的にボランティア。ハンドラーである飼い主の貢献があって成り立っている。JAHAのボランティアリーダー・諸見里喜久恵さんによると、「読書犬活動の前には、犬の前ではやってはいけない3つの約束『突然走らない、大きな声を出さない、突然さわらない』や挨拶の仕方など、犬と仲よくなる方法についてお話しします。読み聞かせの後にふれあう時間をとることで犬との距離がさらに縮まります」。リピーターも増えている読書犬活動、今後も広がっていきそうだ。
被災地/つらい状況や孤独に苦しむ被災者に元気を届けたい
地震や台風などで避難を余儀なくされている被災者たち。セラピー犬は避難所や仮設住宅を回り、彼らとふれあって元気づけている。国際セラピードッグ協会の大木トオルさんは、東日本大震災時にセラピー犬と現地へ入った。
「避難先の厳しい状況の中で、動物とふれあうことで心が和んだ人もいたと思います。また福島の避難区域では、飼育放棄された犬がたくさんいました。それを何頭も除染して連れて帰ってきてセラピードッグとして育てました」
ウクライナの戦争では現地での支援が難しかったため、「日本に避難してきた方々にウクライナ大使館に集まっていただき、そこにセラピードッグを連れていきました。故郷では犬を飼っていたという人もいて、犬とのふれあいをとても喜んでいましたね」
このとき、セラピー犬を題材にした絵本『チロリ』のウクライナ語版を子どもたちに贈呈。その後も『チロリ』はポーランドとハンガリーを経由し、ウクライナの子どもに届けられている。
高齢者施設/笑顔があふれて、会話が増える。さらに昔の記憶もよみがえる。お年寄りに元気を届けるセラピー犬
現在、セラピー犬の出動回数がもっとも多い場所は高齢者施設。国際セラピードッグ協会では、東京都中央区だけでも高齢者施設への出動は月8回、年間約4000人の高齢者をケアしているという。
「毎回セラピードッグを5頭ほど連れていきます。参加する高齢者は20~30名ほどですね。まず犬の紹介から始まって、ウォーキングのデモンストレーションがあり、その後、ふれあいの時間に。最後には一緒に歩く、約1時間のメニューです。皆さんとても楽しみにしてくださっています。動物とふれあうことで笑顔になって、ストレスも和らぐんです。またセラピードッグを介して、自然と会話をするようにも。心身ともにいい影響があると思います」(国際セラピードッグ協会・大木トオルさん)
この日訪れた東京都中央区の社会福祉法人シルヴァーウィングでも、セラピー犬が登場すると、それまではぼんやりとしていた利用者たちが前のめりに。ふれあいの時間では、「よしよし」「可愛いねぇ!」と生き生きとした表情になっていた。
この日、デイサービスで施設を利用していた山野井裕章さんも効果を実感している一人。10年前から脚の関節を悪くして車椅子生活になっていたが、6年ほど前からセラピー犬の活動に参加するようになり、今では介助があれば、犬のリードを持って歩けるまでに回復。
「病院でもリハビリはしていました。理学療法士の先生も頑張ってくれていましたけれど、病院の廊下を行ったり来たりでは、あまりやる気も起きなくて2~3歩くのがやっと。でも犬と一緒に歩くとなると、気分が変わるんですね。楽しいしやる気が出る。セラピー犬が来るときは、いつも参加しています」
上でJAHAのセラピー犬が訪れた、社会福祉法人カメリア会が都内で運営する特別養護老人ホームの大原絢さんもその効果を語る。
「セラピー犬の活動は2カ月に1回ですが、施設内では動物とふれあう機会はほとんどないので、皆さん、心待ちにしています。『今日は○○ちゃんは来るのかしら?』と推しのわんちゃんの名前をしっかり覚えている方も(笑)。また認知症の方が『子どもの頃、犬を飼っていてね』と昔の話をしたりと記憶を呼び起こす訓練にもなっているようです。
JAHAの方々が利用者さんとのかかわりを工夫してくださっているのもありがたいです。今日も『春が来た』を歌いながらわんちゃんたちが入場してきたときは、利用者さんも一緒に歌っていて楽しそうでした」
高齢者にとってセラピー犬は必要不可欠な存在になりつつある。
学校/犬とふれあって学ぶ子どもたち。教育効果を狙って行う活動も
「動物介在教育」として広がっているのが学校でのセラピー犬活動。幼稚園や小学校などを訪問し、動物に関する知識を普及したり、ふれあうことによる体験学習を行うというものだ。学校へセラピー犬を派遣しているJAHAによると、都市部では犬とふれあった経験のない子どもが増えているという。
「事前に児童にアンケートを実施して、犬のアレルギーの有無を確認します。また犬が苦手な子は落ち着いた小型犬に担当させ、無理強いはせずに自分がチャレンジしたいと思ったら、おやつをあげたり、ブラッシングをしてみたり、子どもの気持ちをくみながら進めます。高齢者施設とは参加者の動きや声のトーンも違うので、セラピー犬の適性を見極めて、慎重に進めます」(JAHA・山内和美さん)
恐る恐るだった子もセラピー犬のおかげで、あっという間に仲よしに(写真左)。この経験はプライスレス。