PART3 どうすれば結婚の平等は実現する?日本で同性婚は成立するのか

議論は活発化しているものの"結婚の平等"の実現が遅れている日本。法制化するには何が必要なのか。同性婚の問題に詳しいふたりに聞いた

性的マイノリティの話ではなく、自分のこととして考えてほしい

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2023年2月、岸田首相が同性婚の法制化について、「社会が変わってしまう課題だ」と国会で答弁したことが大きな議論を呼んだ。「首相秘書官に至っては、『隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ』と差別的な発言するなど、現政権の認識がいまだにその程度なのかと本当に落胆しました」と語るのは、LGBTQ+に関する情報を発信する「fair」の代表・松岡宗嗣さん。

「与党の中心にいる保守派の人たちは、同性婚を認めたら、〝伝統的な家族〟観が壊れてしまうとよく言います。彼らが言う伝統的な家族とは、外で働く父親が一番偉くて、母親と子どもは家の中で従うという、いわゆる家父長制的な家族観のこと。でも、共働き夫婦も含め、すでに家族の形は多様で、そうした現実とかけ離れています」

G7の中で同性カップルが法的に保障されていないのは今や日本だけ。どうしたらこのような根強い偏見を払拭していくことができるのだろう。

「海外の例をみると、ステップとしてパートナーシップ法のようなものを作り、その後、同性婚に移行した国は少なくありません。反対派は『社会が変わる』と言うけれど、実際は何も変わらないし、デメリットはないとわかり、嫌悪感や差別が減ることも実証されています。

日本でも2015年に世田谷区と渋谷区で初めてパートナーシップ制度が取り入れられ、その後、広がりを見せています。法的な効力はないものですが、それでもこの制度によって、それまで見えなかった存在が可視化されたことで、人々の意識が大きく変わりました。自分たちの街には同性カップルがいて、異性カップルとなんら変わらない家族を築いているという認識が広がった。同性婚に関する世論調査では、今や約70%の人が賛成で、若い世代だと80%近くが賛成しています※1。ですから、今すぐ同性婚を法制化して何も問題は起きないと思います」

「同性カップルには、異性カップルと同じように家族になる権利があるし、結婚して法的な安定を求めるのは当然のこと」と松岡さん。そこには、私たちひとりひとりの支援も大切だ。

「SNSで同性婚に関する情報を発信したり、同性婚に関する訴訟の裁判を傍聴に行ったりするのも大事なアクションのひとつです。選挙で同性婚に賛成の候補者に投票すれば、社会を変えられるかもしれません。LGBTQ+の人たちが差別される社会というのは不平等な社会、人権が保障されない社会です。それはLGBTQ+以外の人にとっても生きづらい社会ですよね。この問題は、じつは自分の問題だという認識を持ってもらえるとうれしいです」

※1 朝日新聞社による全国世論調査と広島修道大学・河口和也教授ら研究班による調査結果。

松岡宗嗣プロフィール画像
松岡宗嗣

まつおか そうし●政策や法制度などLGBTQ+に関する情報を発信する一般社団法人「fair」代表。HuffPostや現代ビジネス、Yahoo!ニュース等での記事執筆のほか、メディアに多数出演。著書に『LGBTとハラスメント』(集英社新書)。

同性婚を法制化しなければ、日本経済にとっても大きな損失に

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日本で同性婚を法整備するには、具体的にどんなステップを踏む必要があるのか。LGBTQ+の問題に詳しい弁護士の藤田直介さんに聞いた。

「まず、同性婚を認めるには憲法を変えなければならない――という話がありますが、その必要はありません。『日本の憲法は同性婚を禁止していない』ということは、最近の同性婚をめぐる裁判で裁判所も判断しています。ただ、結婚について定めた民法や戸籍法には『夫婦』とあり、男である夫と女である妻を意味しているので、そのままでは役所が婚姻届を受理できません。そのため法律を変える必要があります」

法律を変えるには改正案が国会で審議・可決される必要があるが、2019年野党提出の改正案は審議されず。

「今年3月に、あらためて立憲民主党など野党が『婚姻平等法案』を国会に提出しました。性的指向・性自認によらずすべての人に婚姻の権利を保障するもので、同性カップルでも養子縁組ができるようにするなど包括的な内容です」

婚姻が認められないために、現在、同性カップルは、職場でも多くの不利益を強いられているという。

「私は長く企業法務に関わっていたのですが、たとえば夫の健康保険に妻が入るようなことが同性カップルではできません。またパートナーやその親が亡くなった場合、忌引き休暇が取れず、有休を取るしかない場合もある。ほかにも夫婦であれば、通常受けることができるさまざまな福利厚生を同性カップルは受けられないのです」

すでに同性婚が認められている欧米先進国と比べると、企業の制度整備も遅れていて、「このような状況はグローバル採用に響き、日本の経済にとって大きな損失になる」と藤田さん。

「OECDによると、『LGBTQ+に関する法整備状況』において、35カ国中、日本は34位でした(2022年度)。今、内外の厳しいビジネス環境下で、企業は優秀な人材を採らないといけないわけですが、LGBTQ+への理解がない環境では、採用の間口を狭めることになります。これは当事者に限ったことではなくて、最近は、マイノリティへの平等が徹底されているかを見て就職先を選ぶ若者も多い」

そんな中、近年は同性婚の法制化に賛同する企業が増えていて、BME※2によると、その数はすでに400社近い。

「グローバルに展開する企業ほど、ダイバーシティ、インクルージョンという潮流を肌で感じていて、こうした経済界の流れが国を動かすかもしれません。海外からリスペクトされる国になってこそ、日本経済の競争力強化と発展につながるのではないかと思います」
※2 「Business for Marriage Equality」(BME)は、同性婚の法制化に賛同する企業を可視化するためのキャンペーン。

藤田直介プロフィール画像
藤田直介

ふじた なおすけ●法律事務所に所属する弁護士で、LGBTとアライのための法律家ネットワーク(LLAN)共同代表。ゴールドマン・サックス証券株式会社に勤務時代、部下のカミングアウトを受けたのを機にLLANの活動を開始。

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