圧倒的美を生み出すKaraの原動力とは

あまたのメイクアップアーティストが活躍するLAで、彼女のメイクアップにセレブがラブコールを送る理由とは? 育った環境から現在のキャリアを築くまでの道のりをたどった

大自然の中で育った幼少時代今も光と自然がインスピレーション

 カリフォルニア州中西部の山地、サンタ・クルーズ・マウンテンにて、ア ーティストの母と人工知能(AI)開発者の父のもとに日系アメリカ人5世として生まれたカラ。家には農場と野菜や花など10種類の異なる庭があり、馬、ニワトリ、イヌ、ネコ、魚といった動物に囲まれて育った。「母はインテリア、グラフィックデザ イン、陶芸、園芸など何でも手がけるアーティストで、幼い頃から私に本をたくさん与えてくれたんです。父は太極拳のマスターでもあり、健康とスピリチュアリティについて研究を重ねていて、私にも漢方、レイキ、ヒーリングなどを学ばせてくれました。二人の兄を含む家族全員で頻繁にキャンプへ出かけ、植物が薬になるということも両親から教わりました。一方、母は毎朝必ず、誰のためでもなく、セルフケアのためにしっかり化粧をする人。その姿を見ながら育ちました。美の世界に興味を持ったのはごく自然な流れだ ったし、今でも大自然が最大のインスピレーション源です」

 日本にルーツがあるカラは、日本の 自然の捉え方にも影響を受けている。「私は日本語は話せないけれど、日本の文化を深くリスペクトしています。 たとえば『木漏れ日』という言葉は英語にはないんです。それって木漏れ日が美しいと感じる心が生み出した言葉なんですよね。そういう日本の風景や感性も、大切な着想源です」

 高校に入ると写真や絵画などに力を入れながら、地元のデパートの宝飾品売り場でアルバイトを始めた。あるとき化粧品売り場へ異動となり、来客にメイクアップをするように。最初は緊張したものの、徐々にコミュニケーシ ョンを楽しむようになったカラは、市内外の支店へもメイクアップアドバイ ザーとして出向くようになる。 「その後、トレーニングの一環として、 サンフランシスコの有名写真家のもとで、新人モデルを毎日3~4人撮影する仕事のアシスタントを2年間経験し ました。ヨーロッパのハイファッション雑誌を参考に、メイクアップ、ヘア、スタイリング、カメラアシスタントを担当。コスメトロジーの資格を取得す るためにメイクアップの基礎クラスは取っていたけれど、美容学校には通わず、すべて現場で学びました」

 さらなるキャリアを求めてLAに移住したカラは、最初のエージェンシーと契約。初めての大きなセレブリティとの仕事は、当時ドラマ「フレンズ」 に出演中だったジェニファー・アニストンとコートニー・コックスのメイクアップだったという。NYへも頻繁に出張し、ファッションショーでは、イギリス人のトップメイクアップアーティスト、パット・マグラスなどのアシスタントとしてスーパーモデルのメイクアップを担当。また、さまざまな雑誌のエディトリアル、カバー、広告で、 セレブリティのメイクアップを手がけている(karaが手がけた仕事)。 「セレブのイベント向けメイクアップ だけではなく、ファッションの現場を 長年経験したというキャリアは、仕事のクォリティを上げてくれました。広告撮影の仕事がこんなにくるのも、ファッションの経験があったからこそ」

 そんな彼女にとっての大きなターニングポイントは、映画『タイタニック』 公開直後のレオナルド・ディカプリオとの仕事だった。以後数年間のキャリアは、レオとともに育んでいったといっても過言ではないという。「彼は人間的にとてもやさしい人で、家族同然のつき合い。一緒に成長したんです」と語る。多数のメイクアップアーティストが存在するLAで、自分らしさを保ちながら、どのようにセレブリティからの信頼を勝ち取るようになったのか。

美に対する観点を変え、 自分の個性を最大限に生かす

その答えは、彼女のメイクアップの過程に隠れていた。「化粧を始める前にまずはSANAE intoxicantsのオイルパフュームを使用してリンパマッサージを施し、会話を通して心身ともにポジティブな環境をつくり上げます。相手がセレブリティの場合は特に、鋭い洞察力で彼らの感情を読み取ってコミュニケーションを図ることがとても重要。 そして、クライアント一人ひとりが持つ、ありのままの個性と美を引き立てるように心がけています。太い眉だったりそばかすだったり、ユニ ークなチャームポイントは千差万別。できる限りそれらを隠さずに生かし、素肌もナチュラルに近い状態に残します。スキンケアを最重要視した “Less is more”なミニマルなメイクアップにちょっとしたパンチをきかせるのが私のスタイル。容姿に自信がない人も、自分の顔のパーツで一番好きな箇所にポイントを置いた化粧をすれば、必ず自信が持てるはずです」

 トレンドの移り変わりが早く、競争の激しい業界でカラが活躍し続ける最大の理由がテクニックだけではないことは、彼女と会話をした人なら誰しも感じること。周囲の人にポジティブな空気を与える、素晴らしい魅力があるのだ。「美しい人とは、自分の体、精神状態と向き合い、セルフケアをしている人。メイクアップはあくまでも表現方法の一つです。自分に対して前向きな思考を持つことで精神を鍛え、自分のためだけに使える時間をつくって好きなことをする。自分をケアできる人は他人にも敬意を払うことができる。好きな言葉は"How you do anything is how you do everything(一つ のことをどのように行うかは、すべてのことをどう行うかと同じ)"。自分を取り巻くすべてのことは、ネガティブなことさえもすべてつながっています。それを決して忘れず、常に学び、笑い、この世の素晴らしいことに感謝をしている人こそが、真に美しい人だと信じています」

Karaが手がけた仕事

(左から)2017年、ランコムの広告のリリー・コリンズ、スペイン『Vanity Fair』誌の表紙。テニス選手のマリア・シャラポワ、2011年、米『marie claire』誌のエル・ファニング、2018年『Interview』誌表紙のキルスティン・ダンスト

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