時間の重みを感じさせるアンティークボクスのようなウッドの香り。その奥に、パチュリやダマスクローズ、アンバーグリスがろうそくの灯りのように煌めく。
(100㎖)¥35,200/FUEGUIA 1833 東京本店
香水をTPOで使い分けられる人に多大なる憧れがある。私はマナーを考えて香りを変えられるほど大人でなく、自分の嗅覚や感覚を満足させるためにしか香水を使ったことがない。好きな香りの系統も決まっていて、樹脂、樹皮、スパイス、土を感じるようなものを好む。フローラルはあまり得意ではなく(かろうじてダマスクローズを愛している)、甘さは少ないほうがいい。選択肢は決して多くなく、「親しみやすさ」や「エレガンス」、「センシュアリティ」といったものよりも「独特のスタイル」を感じる香りになってしまう。平たく言うとモテから最も遠い。別に個性的であることを気取っているわけではなく、こういった香りが好きというだけなんですが。
これまでの人生、そんな基準で香りを選んできたため、自分の香水として選ぶものはかなり少なく、年単位で同じものをずっと使う。ここ数年はFueguia 1833のCaobaが気に入っている。パチュリ、ローズ、アンバーグリスによる「インドのアンティークボックス」をイメージした香りらしい。
過去にはそういった経験はなかったのだけど、この香水はつけていると本当に褒められる。「いい香りがすると思ったらAYANAさんでした」と何度言われたことか。あるときなど、喫茶店で隣に座っていた見ず知らずの女性から「すみません、私妊婦なんですけど、その香り……」と話しかけられ、私も妊婦時代あらゆる香りに吐き気を催していたので「すみません! 香りがきつかったですか?」と言ったところ「すごく素敵です。妊娠中にこんなにいい香りに触れたのは久しぶり。どこの香水ですか?」と聞かれた。自分の感覚を満たすために香りを楽しんできたけれど、人に褒められるのも、それはそれでこんなにもうれしいものなんだな、と思う。
ちなみに、褒めてくれるのは今のところ、見事なまでに女性ばかり。この香りの何が女性たちを痺れさせるのか(そして男性にコミットしないのか)、というところは謎のままです。