“お香みたいな香り”の正体は?
フレグランスの基礎知識を学んでいく連載第4回のテーマはサンダルウッド。日本語では白檀と呼ばれる香木の一種。フレグランスのベースノートとしてよく名前を見るけれど……、いったいどんな香りなのか。
ベースノートによく使われている【サンダルウッド】ってどんな香り?
インドでサンダルウッドのチップをサシェに詰めているところ。©︎サンキエムソンス ジャポン
タイラ フレグランススクール、毎回、目からウロコ的な発見があります。今回はサンダルウッド。お線香というか、いまどきの表現を使うとインセンスっぽい香りでしょうか。
アリマ 以前はそうでもなかったのですが、ウード(沈香や伽羅)やサンダルウッド(白檀)といった香木全体を指してインセンスのような香りという表現が増えていますね。具体的には、樹木から採取されたレジン(樹脂)の香り全般を含めてそのように表現されているように思います。
第1回のウードとウッディの違いでも説明があったと思いますが、香木の樹脂が固まったものが沈香=ウードです。ウードは火で焚かないと香らないのですが、サンダルウッド=白檀はそのままでも美しい芳香を放つのが特徴です。
タイラ 生木の状態でも香るんですね。サンダルウッドってウッディ系なので重たいと感じることもあれば、柔らかくまろやかと感じることも。他に合わせている香料にもよるのかもしれませんが。
アリマ ウッディノートの中でもベチバーやシダーのように個性的すぎたり、力強い感じはなく、柔らかくて、神秘的、ミステリアスな印象がある香りなんですね。木そのものが香ることも神秘的なので神殿や寺院の柱として使われることも多かったようです。神々しさの演出に役立つのでしょう。また東洋のイメージがあるのでオリエンタルファセットの中に必ず入っている素材です。
タイラ オリエンタルファセットの基本アンバー、ベチバー、スパイスとの組み合わせですね。
アリマ クラシックなオリエンタルの名香といえばゲランの「サムサラ」があります。1989年の発売当時、サンダルウッドをそれまでにはなかったほどオーバーに使用した、大胆な調香が話題になりました。
タイラ ゲランは名香の宝庫ですね。
サンダルウッドの名香
アリマ サンダルウッドを始め、ウッディの香りはフレグランスの骨格を作るものとしてベースノートに使われてきたのですが、近年ではウッディそのものにフォーカスしたものも増えていますね。ル ラボの「サンタル 33」やバイレードの「ジプシーウォーター」などサンダルウッドを主役にした香りも増えました。
タイラ オリエンタルな印象が際立つサムサラに対して、サンタル33はレザリーというかスモーキー。ジブシーウォーターはアンバリーなバニラの甘さも感じるけど、シトラスの爽快感があってその根底にサンダルウッドのまろやかさが静かに流れている感じですね。
サンダルウッド×フローラルの名香
サンダルウッド×シトラスの名香
サンダルウッドは産地によって、香りの印象が大きく変わる
タイラ サンダルウッドは、産地によって香りが違うものなのですか?
アリマ そうですね、かなり違いますね。インドのマイソール産が世界的にも高品質なものとして珍重されています。オーストラリア産は清涼感があって爽やか。ただマイソール産ほど、甘さや柔らかさといったものが感じられません。
タイラ そのせいもあるのか、サンダルウッドと一口に言っても、ちょっと重たいと感じるものもあれば、清々しい木の香りを思わせるものもありますね。私はどちらかというとフレッシュで軽い香りの方が好きなので後者のサンダルウッドの方が好みかもです。
アリマ そうなんですね。私はオリエンタル好きなので、やはりマイソール産のサンダルウッドは別格だと思います。価格が急騰しているのがつらいところ。
タイラ ローズもジャスミンも産地によって香りは異なると言いますし。だからこそ同じ香料を使っていても、単純に同じにはならない。そこがフレグランスの奥深い世界ですね。
マイソール産サンダルウッドのフレグランス
サンダルウッド×ローズの名香
タイラ 白檀=サンダルウッドの一番の魅力って何でしょう?
アリマ ベースノートとして使われるウッディファセットの中でも優しく香ります。甘くて、まろやかで、ミステリアス。他の香料とのなじみもよく、残香性もあるのでフレグランスには欠かせない存在です。
タイラ たしかに、ほとんどのフレグランスのベースノートに使われているかも。パチョリやシダーウッドなどと一緒だとウッディ要素が強まって深みと温かみが増しますが、ローズやシトラスなどフレッシュな香りと合わせると清らかさやなめらかさが強調されるよう。シナモンやカルダモンなどスパイスとも相性がいいですね。
アリマ トム フォードの「サンタル ブラッシュ」はサンダルウッドにスパイスとフローラルを合わせた、これもまた素晴らしい名香ですよ。
タイラ トム フォードって嗅覚までハイセンスでいつも驚かされます。これもフレグランス通の友人が発売当時、絶賛していたのでよく覚えています。
サンダルウッド×スパイシーフローラルの名香
寺院に足を踏み入れたときのような深く静かな落ち着きある香り。優しく、柔らかく、そして時にミステリアスなムードも漂うサンダルウッド。上品で洗練された香りは和服やドレス、カッティングの美しいジャケットなどドレスアップのシーンにふさわしい。温もりを感じるウッディノートは気温と湿度が下がる秋から冬にその魅力がより輝く。お気に入りのサンダルウッドのフレグランスを探してみて。
IFF社、Firmenich社、MANE社でエヴァリュエーターとして香りの評価・開発に約20年間従事。香料の経験を活かして、パフューマリースクール「サンキエムソンス」で講師として香りに興味を持つ受講生の皆さんのサポートを頑張っている。
取材歴約30年。過去にSPURでフレグランス企画の連載担当ライターとして活躍。この連載を機にフレグランスの世界に魅せられ、現在はフレグランスを一からサンキエムソンスのプログラムで学び直し中。