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メンズライクなお花の香水、ありますか? 【DIOR】からニッチフレグランスまで。
香水を知るようになると「人と被りたくない」とか「メジャーすぎるものはちょっと……」という気持ちが芽生えてくるもの。王道のフローラルノートは普遍的であるがゆえに、少し古風に感じたり、フェミニニティを象徴するイメージでくくられがち。そんな理由でフローラルノートを敬遠している人も多いのではないだろうか。
「モダンにハンサムに匂い立つフローラルって果たしてあるの?」そんな疑問をニッチラグジュアリーなフレグランスを多数取り扱う「NOSE SHOP」代表の中森友喜さんにぶつけてみた。
王道の3大フローラルをあえて外す“かっこよさ”
中森 なかなか難しいお題だ。「かっこいい」って主観ですからねー。花の香りは香水の歴史上、発展の礎となってきた大切な存在。例えば花に熱を加えて取り出す場合、芳香成分は何百とあるのに、その中の熱に強い成分しか抽出できない。天然の香りをいかに忠実に取り出すか? 抽出技術はそれに腐心してきたわけです。
タイラ たしかに。科学が発展した現代では、自然の花の中から苦みの芳香分子は除いて、よい香りの分子だけを抽出するようになりましたね。あるいは、香りの周りの空気をコピーするという技術も出てきました。
中森 花びらをすり潰すとより芳香性が高まるということで、クレオパトラは奴隷にバラの花びらを咀嚼させて吐き出させ、その芳香を楽しんでいたという逸話も!
タイラ 香水で花の香りというと、王道はローズ、ジャスミン、ミュゲの3つですね。ミュゲはともかくローズとジャスミンはメインではなくても、たいていのフレグランスに配合されている印象です。
中森 フェミニンやクラシックという印象は、これらの花の印象から来ているのかもしれません。だったら王道の花ではない花の香りはどうでしょうか? オランダの【ハイラム グリーン】というブランドの「フィルトゥル(媚薬)」。カーネーションの香りです。
タイラ わっ、すごくスパイシーですね。実物のカーネーションの花はあまり香りの印象がないのですが、フレグランスの香料としてはスパイシーとよく表現されます。
中森 すっきりとしたスパイシーさで、少しクローブに似ているんですよね。これは、カーネーションの中でもわずかしか流通しない希少な品種を買い取り、天然香料だけで作られているんですよ。香りの輪郭がよりくっきりと立っているのが特長です。
花と何を合わせるか? 調香の妙で“かっこよさ”を表現
中森 【エタ リーブル ド オランジェ】というブランドに「ジャスマン エ シガレット」という香りがあります。この香りは、ジーンズ姿でタバコを片手に“官能は権利”と主張したシャルロット・ゲンズブールや、1920年代にハリウッドで活躍したグレタ・ガルボがイメージ。ジャスミンを使っていますが、干し草を思わせるガルバナムや清涼感あるセージ、スモーキーなマテを合わせています。ジャスミンの可憐なイメージを裏切る、シャープな印象。
タイラ 副題も“らしさからの解放”とありますね。花=フェミニンという思い込みはやめた方がいいかも、と思わせます。
中森 ローズやジャスミンに何を合わせるかが調香師の技の見せどころ。例えば【フレデリック マル】の「ポーレイト オブ ア レディー」。100mlのボトル1本にあたり、400本以上のバラを使用。とても力強く、一般的なローズフレグランスとは全く印象が異なります。たっぷりと配合したローズに負けないインセンスやサンダルウッド……。僕の大好きな調香師、ドミニク・ロピオンの調香、惚れ惚れします。
タイラ さすがロピオン! ローズという王道の素材に何を合わせるかで香りの印象はがらりと変わる。「ある婦人の肖像」という香水名にふさわしい香りですね、ほんと。
中森 これ、コンセプトの前にこの香りができたんだとか。香水名をつけるときに、ヘンリー・ジェイムズの小説『ある婦人の肖像』の主人公イザベルが思い浮かんで、この名前にしたそうですよ。
タイラ そういうエピソードを知っていると楽しいのがフレグランスですよね。エピソードといえば、3大フローラルのひとつ、ミュゲの香りには【ディオール】の「ラッキー」があります。迷信深いクリスチャン・ディオールが、幸運のお守りとして大切にしていたスズランをオマージュした香り。フランシス・クルジャンがこのオリジナルの香水の構造を再考し、贅沢な濃度で強調したエスプリ ドゥ パルファンバージョンが、最近発売されました。
中森 おお! これもミュゲだけど可憐さだけでなく、ダークなグリーンウッディを合わせていますね。まさにかっこいいフローラル!
香りの背景にある、物語のかっこよさに惹かれる
中森 香りが生まれる背景のストーリーや、エピソードのかっこよさで選ぶというのもありだと思います。【メゾン アンサン】というフランスのブランドがとてもユニークでして。創立者の父親が人知れず書き残した、「香りが社会を支配する架空の文明が舞台の小説」にインスパイアされて香水を作ることを決意したという。こことNOSE SHOPが“一木四銘”をテーマにコラボしたのが「ローズ ビヨリ」という香水です。
タイラ 読み方は……? イチボクシメイ!
中森 今や一大トレンドともいえるウード(沈香)の最高級品である伽羅。伽羅は一つの木に対して、初音・白菊・芝舟・蘭(ふじばかま)という4つの銘があるという風聞というか言い伝えがありまして。その一つ、初音は1624年に前田家に届けられた伽羅だと言われています。そんな伽羅の嗅覚的な翻訳として、【メゾン アンサン】からNOSE SHOPエクスクルーシブとして誕生したのです。
タイラ 素敵なストーリー。一木四銘ということは第二弾、第三弾……と続くのかしら?
中森 さてどうですかね? お楽しみに。
タイラ ローズ ビヨリはバラ×ウードですが、繊細で控えめな感じ。そこが何とも日本的でロマンチックですね。
中森 ありがとうございます。『星の王子さま』のバラではないですが、無数にあるバラではなく、自分にとってかけがえのないバラになるかは、そのバラに費やした時間があるかで決まります。フレグランスも自分にとってのかけがえのない香りにするには長く共に時間を過ごすことでそうなるのかもしれません。
タイラ 名言! 自分にとってのかけがえのないフレグランスの物語を作りたいですね。
![中森友喜さんプロフィール画像](https://img-spur.hpplus.jp/article/parts/image/34/34910323-0f5d-4f05-855d-35db10985b5a-994x1472.jpg)
世界各国の新進気鋭のニッチラグジュアリーなフレグランスを取り扱うセレクトショップNOSE SHOPを設立。日本におけるニッチフレグランスブームの牽引役として、世界中の香水クリエイターと密な関係を築いている。日本における香水文化の認知を広げるため、さまざまなサービスを展開。毎週火曜更新の香りと言葉のラジオ「NOSE knows」は、フレグランス好きなら必聴の面白さ。
![平輝乃さんプロフィール画像](https://img-spur.hpplus.jp/article/parts/image/bd/bd349cb7-7f0d-4c9e-882d-2f1cad8b8d25-959x1442.jpg)
取材歴30年。SPURのフレグランス企画の連載担当ライターとして活躍。この連載を機にフレグランスの世界に魅せられ、現在は資格取得を目指してフレグランスの歴史やトレンドを学び直し中。