
お茶の香りは何種類ある? 紅茶からマテ茶まで、ティーフレグランスの奥深い魅力
日本茶なら、緑茶にほうじ茶に抹茶。紅茶なら、アッサムやダージリン、ラプサン・スーチョン。中国茶なら、ウーロン茶に桂花茶……etc. お茶は種類も豊富で、フレグランスでも数多く登場している。新年度が始まり、新しいことに緊張する場面も多いこの時期。自分も周囲も癒される、お茶のフレグランスをまとってみては?
どんなバリエーションがあるのか、そして今のトレンドは? セミナーやトレンド分析、カウンセリングなど香り分野で活躍するフレグランスアドバイザーMAHOさんに話を伺った。
今や世界から愛される緑茶や抹茶の香り
タイラ 前回は「軽やかなウッディノート」を取り上げましたが、今、同じように流行っているなと感じるのがお茶の香り。ここ30年ぐらい、安定して人気がありますよね。
MAHO そうですね。この連載でも何度も触れていますが、1992年にグルマンノートという概念を作るきっかけとなったティエリー ミュグレーのエンジェルが登場しました。時を同じくして【ブルガリ】が緑茶の香りとして「オ・パフメ」をリリースしました。
タイラ オ・パフメ、流行りましたよね~。本当にいい香り。ブルガリ本店でジュエリーを購入されるVIPをお通しする部屋のために、創った香りだと取材で聞きました。
MAHO その香りをフレグランスとして発売したら、瞬く間に大ヒット。当時の売り場は自動販売機状態で、説明なんかしなくてもどんどん売れたそうですよ。実際、今も本当に人気が高く、今後も注目していきたい製品です。
タイラ そこから約30年以上……。「いい香りは長く愛される」の典型ですね。欧米の人も緑茶を飲むようになっているし、今後も広がりそうです。
MAHO グリーンティーの延長なら、抹茶の香りも。渋みだけでなく甘みもある抹茶は、今、インバウンドのお客様に本当に人気が高いですね。香りなら【ル ラボ】に「マッチャ26」があります。
イギリスの多彩な種類の紅茶を感じる、ティーフレグランス
MAHO お茶の香りというのは茶葉そのものの香りに加え、お湯を注いで茶葉が広がり、ふわーっと香るために必要な水の存在感があります。透明感や奥行き、みずみずしさを感じられるのが、人気の理由なのでは。そして紅茶はアフタヌーンティーに代表されるように、それを楽しむシチュエーションも、優雅でエレガントなイメージがありますからね。
タイラ 私はもっぱらコーヒー党ですが、紅茶を飲むなら専門店で、と思います。専門家が淹れたものは香り立ちが別格ですから。紅茶の香りというと【ジョー マローン】がロンドンに店を構えるビスポークテーラー、ハンツマン サヴィル ロウとコラボレーションした「アッサム & グレープフルーツ コロン」! まさにイギリス、紳士淑女の香り、伝統と格式を感じさせます。
MAHO コクのあるアッサムを、グレープフルーツが爽やかに引き立てる、朝から楽しみたい香りですよね。
MAHO 同じく英国を代表するラグジュアリー ブランド、【バーバリー】にも「ハイ ティー」という香りがあります。ラベンダーがベースで、その名の通り、夕食間近のゆったりした時間に飲むお茶がイメージ。
タイラ ベルガモットと組み合わされているから、こちらはアールグレイっぽいですね。
MAHO ジョー マローンもバーバリーもそこに今、流行りのマテ茶を合わせており、グリーンなスパイシーさも感じられる。とても現代的なティーフレグランスです。
タイラ ほかに紅茶と言えば、ダージリンかな?
MAHO 【ジル サンダー】の「ブラック ティー」がありますね。でもこちらはキンモクセイやシナモンを利かせているので、私は桂花茶のような印象を受けます。
タイラ 紅茶って日本は軟水だから赤やオレンジっぽい色になるけど、本場イギリスは硬水で淹れるので、黒々とした色になるらしいんです。だから英語で紅茶のことをブラックティーと呼ぶんだって、昔、取材した紅茶屋さんで教えてもらいました。
中国の王宮のジャスミンティーを香りに
MAHO 優雅でエレガントなお茶続きでいうと、【キリアン パリ】の「インペリアル ティー」も外せません。
タイラ インペリアル ティーとは……なんのお茶の香りですか?
MAHO 中国の高貴な皇帝に献上されたという茉莉花茶、ジャスミンティーですね。花が開き切る前の香りが強い茉莉花を夜のうちに収穫し、花と茶葉を交互に重ねて香りを移し、充分に香りが付くまで新鮮な花に取り替えるプロセスを何度も行うというのが伝統的な製法なんですよ。
タイラ 爽やかですっきりとした味わいが特長のジャスミンティーか! ジャスミンはローズと並ぶ二大香料のひとつでもあるから、フレグランスとは相性抜群ですね。
MAHO 中国のお茶の銘産地、福建省はジャスミンの栽培にも適していてジャスミンの産地でもあるんです。海に面した福建省のジャスミンは特に上質なものとされ、【キリアン パリ】の「インペルアル ティー」は、そんな海のニュアンスを、レアな香料であるラミナリア海藻でプラスするというこだわりの調香がなされています。
タイラ 摘みたてジャスミンの清々しさを包み込むような、清涼感を伴う渋みと甘みを感じる余韻がいいですね~。
香りの魅力をブーストする、マテ茶の香り
MAHO 変わり種のお茶としては、今、マテ茶をフィーチャーするブランドが増えていますね。先ほど挙げたバーバリーもジョー マローンもそうですが、【バイレード】の「ミックスト エモーションズ」もマテ茶ベースです。これ、コロナ禍中に発表されたもので、そんな状況下で湧き上がる様々な感情──不安や恐れなども自分のものとして受け入れながら前へ進もう的なメッセージだったと記憶しているのですが。混じり合う、溶け合うということを表現するのに、マテ茶って向いていると思うんです。
タイラ それはどうしてですか?
MAHO マテ茶は抹茶やグリーンティーのように「わー、いい香り」と誰もが共感するものではないんですね。煎したものは香ばしくなりますが、焙煎していないものは青臭いクセがあって。でも他の香りを組み合わせることで、生きてくる香料なんです。
タイラ なるほど。
MAHO 天然の香料があるので、「天然香料〇〇%」を謳うブランドが増えてきている今、香料としても使い勝手がいいという側面もあるかも。マテ茶は南米産のお茶なので、中南米の広いマーケットにもリーチしやすいですし。
タイラ ティーフレグランスのトレンドにも、天然香料のトレンドにも、ワールドワイドなマーケットの開拓にもマテ茶はハマるということですね。
ビタミンやポリフェノールなど体にいいものを豊富に含むお茶は、香りとしてもリフレッシュやリラックス効果があり、毎日の生活に欠かせないもの。そんなお茶がもたらす一服の涼を、より洗練された形で楽しめるのがティーフレグランスだ。Have a break? Have a tea fragrance?

日本フレグランス協会常任講師。香水のイベントやセミナーのほか、国内外・新旧合わせて500種以上の香水と天然・合成香料をそろえるプライベートサロンを主宰。フレグランスの経験値や嗜好を対話から探り、その人に合ったフレグランスを紹介する個人カウンセリングも大人気(プライベートトワレ https://private-toilette.com)。

取材歴30年。SPURのフレグランス企画の連載担当ライターとして活躍。この連載を機にフレグランスの世界に見せられ、現在は資格取得を目指してフレグランスの歴史やトレンドを学び直し中。