水浴の習慣のある日本では、湯上りの肌を思わせる石けんのような香りが、昔から定番人気。今回は、汗が気になるこれからの季節もまといやすい“石けんの香り”にフィーチャー。ソーピー、クリーン、サボン……と表現されるフレグランスに使われる香料は、それぞれどんなもの? パリ発祥の社会人向け香水スクールの公式日本パートナー「サンキエムソンス ジャポン」代表の、小泉祐貴子先生にレクチャーしてもらった。
日本人の嗅覚に浸みこんでいる“石けんの香り”は、あの有名な固形ソープ⁉
タイラ 5月になると急に気温が上がり、汗のにおいが気になり始めます。そうなるとやっぱり、清潔感ある爽やかな石けんの香りのフレグランスが欲しくなりますね。
小泉 「石けんの香り」って、具体的にどんな風に作られているかわかりますか?
タイラ ん-、涼やかなミュゲとかホワイトフローラルな感じ?
小泉 近いですね。多くの日本人が石けんの香りで思い出すのはこの石けんだったんです。
タイラ ♪クリームみたいな石けん、花王石鹸、ホワイトだー! クンクン。懐かしい。
小泉 この石けんに使われているのは、「フローラル アルデハイディック」というタイプの香りです。フローラルはローズ、ジャスミン、ミュゲで奏でるフローラルブーケの香りですね。
タイラ フローラルにアルデヒド……、それってまさか「シャネル N°5」と同じ⁉
小泉 香調だけで考えると、実はそうなんです。N°5はアルデヒドとフローラルを組み合わせることでお花の香りをブーストして、より華やかになり拡散性もあがります。清潔感も感じるので、石けんの香りにもふさわしいと、同じタイプの香りが応用されていったんです。フレグランスの流行を参考にして、シャンプーや洗剤、石けんといった日用品も開発されるんですよ。
タイラ なるほど! そうやって、その時代の香りのトレンドがつくられていくんですね。
小泉 ところが、今は固形石けんを使う習慣は減りましたよね?
タイラ たしかに、リキッドタイプが主流になりました。
小泉 固形から液体石けんへと移るにつれてその香りも変化していきました。フルーティなものが増えましたよね。湯上りやシャワー後の清潔な肌の香りを、広い意味で“石けんの香り”として捉えるようになりました。ボディウォッシュで使われるような軽やかでフレッシュな香りがたくさん登場しています。そんな中で【クリーン】の「クラシック ピュアソープ」はクラシックとつくだけあってソーピーな印象がある香り。クリーンはブランド名通り、清潔感ある香調がコンセプトのブランドですね。
タイラ 【コム デ ギャルソン パルファム】に「マルセイユ」というマルセイユ石けんにインスパイアされた香りがありますよね?
小泉 フランスの方が石けんと聞いて思い出すのは、まさにマルセイユ石けん。製造過程でオリーブオイルが使われているので、日本のものよりオイリー感があるのが特徴ですね。
トレンドの清潔感の表現は、“洗い立てのシャツやシーツ”の匂い
小泉 グローバルな視点から見ても、“清潔感”はトレンドのひとつなのですが、ソーピーな石けんの匂いというより、洗剤の香りのような清潔感なんです。洗い立てのシャツやシーツを思わせる香りですね。【メゾン マルジェラ フレグランス】レプリカの「レイジーサンデー モーニング」はまさにそのコンセプト。
タイラ 人気の高い香りですよね~。スズランとアイリスとホワイトムスク……。清潔感の塊みたいな♡「香水くさい」と言われる心配もないですね。
小泉 清潔感と同時に安心感もあるから、人気であるのも納得。
小泉 同系統の洗い立ての清潔感でいくと【フレデリック マル】の「アクネ ストゥディオズ パー フレデリック マル」がありますね。
タイラ これはまさに、海外の洗剤の香りだ~!
小泉 今回のテーマである「石けんの香り」は、最近ではもう少し大きなくくりで「清潔感のある香り」と解釈されることが多いようです。アルデヒドのニュアンスもありますし(第2回「アルデヒドってどんな香り?」参照)、「ジヒドロミルセノール」といういわゆる洗剤の香りのキー成分も感じますね。
タイラ 【バイレード】の「ブランシュ」もアルデヒドが効いていて、白という香水名通り、フレッシュさあふれる香りですね。
小泉 アルデヒドをバランス良く効かせた香りには、ニューヨークのランドリー店から漂う香りをコンセプトにした【メゾン フランシス クルジャン】の「724」も。清潔感の表現として、“洗い立てのシャツやリネン”の香りが、世界的なトレンドになっています。
ふんわりとした清潔感を醸し出す“ロー”フレグランス
小泉 石けんの香りというカテゴリーからは少しはみ出すかもしれませんが、清潔感あふれる香りとしては【シャネル】の「ガブルエル シャネル ロー」なんてどうでしょう?
タイラ 私、ガブルエル シャネルのパルファムがすごく好きなんです。ローはパルファムに較べると香り立ちがとてもフレッシュですね。同系統の香りではあるのに、印象はやはり変わります。
小泉 アンバーが魅力的なガブリエル シャネルですが、“ロー”はふんわりとやわらかな清潔感が引き出されています。
タイラ 私の勝手な印象ですが、ロー(L’EAU)の処方ってオリジナルの香りを構成する花々で作られたブーケを清流に浸したような、みずみずしさを感じる香り立ち。だからフレッシュでクリーンな印象を持つのかもしれません。
にわかに汗ばむ陽気になってきた5月。シャワーを浴びた後の肌から漂うような、フレッシュでクリーンな香りのフレグランスを1本持っていると何かと便利。ローズやジャスミン、ネロリ、ミュゲといった白い花々の香りをアルデヒドでブーストさせ、ホワイトムスクでまとめる。好感度の高い石けんの香りで、湿度と気温が高まる季節に備えて。

Firmenich社にて香料開発・マーケティングに約20年間従事。パリ発祥の社会人向けパフューマリースクール「サンキエムソンス」の公式日本パートナーとして、「サンキエムソンス ジャポン」を運営。フレグランスに対する広範な知識とあふれる愛でフレグランス文化の啓蒙に励んでいる。
▶︎サンキエムソンス ジャポンのオンラインレッスンプログラム情報はこちらから!
https://www.cinquiemesens.jp

取材歴約30年。過去にSPURでフレグランス企画の連載担当ライターとして活躍。この連載を機にフレグランスの世界に魅せられ、現在はフレグランスを一からサンキエムソンスのプログラムで学び直し中。