フレグランスは香料をアルコールに吸着して、香りを肌に長く留めるように作られている。そしてその濃度によって、香水の持続時間は変わる。しかし、肌の弱い人はアルコールにかぶれてしまう可能性も。そんな時に活躍するのが、アルコール不使用の水性香水や子供用のベビーフレグランスだ。
日本におけるフレグランス黎明期から香水に携わり、販売員のトレーニングやイベント出演などで活躍する荒川 操さんにベビーフレグランスやアルコールフリー香水の魅力を教えてもらった。
疲れた現代人の鼻に優しいベビーフレグランス
タイラ 少し前に発売された【エルメス】の「カブリオル」を本サイトでご紹介したら、かなり反響がありました。【パルファン・クリスチャン・ディオール】からも「ボン エトワール」が登場しています。日本でも幼い頃からのフレグランスの英才教育が始まるのかな?なんて思っています。
荒川 ベビーフレグランスは子供さんもつけられるし、ママもつけられるからいいですよね。大人になっても、赤ちゃんの匂いを嗅ぐと自分が母親の腕に抱かれていたはるか昔のことを思い出します。嗅覚の記憶ってすごいですよね。
タイラ ベビーフレグランスは軽やかな香り立ちなので、日本人は特に好きな方が多いですよね。30年ほど前、タルティーヌエショコラの「プチサンボン」は日本で特に爆発的に売れました。
荒川 大大大ヒットでしたね。今、ベビーフレグランスがウケているのは、皆さん、もしかして多少疲れているのかもしれませんね。特に2020年から2023年までの3年間はコロナ禍で外出もままなりませんでした。そんな時、手っ取り早く気分を上げるのに香りはとても便利だったんですよね。
タイラ みんなマスクをしていたので、「香水臭い」と言われることを気にしなくてよく、気楽でしたね。
荒川 そうした中で懐かしい香りや優しい香り立ちのベビーフレグランスに注目が集まったのかもしれません。ツンとしたアルコールのクセみたいなものがなく、香り立ちがまろやかなので、安眠を誘う寝香水にも向いているんです。
タイラ エルメスもディオールも、どちらもベビーフレグランスでおなじみのオレンジブロッサムの香りを避けて調香しているのが興味深いです。子供用だけれど、大人が使っても満足いくフレグランスになっている点に、一流メゾンの矜持を感じます。
敏感肌の方も楽しめるのが、アルコールフリーの水性香水
荒川 香水は肌に直接つけるのが基本なのですが、肌が弱い方はアルコール入りのフレグランスをまとうことができません。それでも香水を楽しみたいというお客様には、スカートのヘムラインにシュッとひと吹きする、香りをスプレーしたハンカチをポケットに忍ばせるなど、肌に直接触れずに香りを楽しむ方法を提案しています。
タイラ アルコール入りの香水は服につけるとシミになったりもするので、目立たない裏側のヘムラインにつけるという提案、さすがですね。
荒川 肌が弱い方にはアルコールフリーの水性香水をご案内することも多いですよ。ベビーフレグランスもいいですが、ベビーフレグランス=アルコールフリーとは限らないのでそこは注意してくださいね。アルコールが苦手な方にとって、水性香水の登場はまさに救いの神のような存在でした。先駆けはオフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリーが有名ですが、最近、水性香水の種類も増えていますね。
タイラ アルコール不使用のフレグランスだと香りの持続力はどうしても短くなりますよね?
荒川 そうですね。でも軽やかで後に残らないからこそ気軽につけられますし、敏感肌でなくても強い香り立ちが苦手な方には水性香水はおすすめです。
タイラ そういう意味では香水ビギナーの方にも、水性香水はアリですね。香りが変化しにくいから、トップからラストまで同じ香りを楽しみたい人にもおすすめ。
荒川 あとは、加齢臭を気にされているお客様にも、水性香水をおすすめしています。強い香りで匂いを打ち消すのではなく、優しく清潔な香りで肌を包み込む方が効果的です。
肌にも地球環境にも優しい、新時代の水性フレグランス
荒川 水性香水での注目株といえば、【エルメティカ】というフランスブランドがありますよ。ボトルの色もグリーンで癒し系。香りも、二酸化炭素抽出法やヘッドスペース法を使った香料を使用して、肌だけでなく地球環境にも優しいんです。香水のクリエーションにもサステナビリティを意識する時代になっています。エルメティカはアルコールに代わる特許技術とユニークな調香により、アルコールフリーでは不可能とされていた、香りの持続性やトップ・ミドル・ベースノートの香りの変遷も実現しています。
タイラ 現代の調香技術によって水性香水もバリエーションが増えているんですね。肌が弱くて香水を楽しめなかった人にぜひチェックしてほしいです。
タイラ 私は最近、お着物を着る機会が増えたので、シミを作らないアルコールフリーフレグランスは重宝しています。【コスメデコルテ】の「キモノ」も水性香水で、メインの香料であるサブリムローズエッセンスは透明性や環境への責任、公正な労働条件などの特定の持続可能性基準へのコンプライアンスを審査するFor Life認証を得ています。
荒川 キモノシリーズも店頭でとても人気ですね。
タイラ 水のきらめきや清らかさがテーマというのが日本人にウケるんだと思います。
肌に優しいアルコールフリーの水性香水やベビーフレグランスは、香り立ちも軽やかなので、湿度が高まるこれからの時期でも心地よくまとえるのがうれしい。5月病などでメンタルが落ちがちな今、シュっとやわらかな香りを肌にまとうことで心を和ませて。

20歳のころ、道行く女性の纏っていた美しい香りに魅了されたことがきっかけで外資系化粧品会社、香水業界へ。以来キャリア40年にわたり、各年代のフレグランスの変遷を見守り続けてきた。経験に裏打ちされた適格なアドバイスを武器に、販売員のトレーニングを始め、セミナーやコンサルティングで活躍中。

取材歴30年。SPURのフレグランス企画の連載担当ライターとして活躍。この連載を機にフレグランスの世界に見せられ、現在は資格取得を目指してフレグランスの歴史やトレンドを学び直し中。