暑さによるダメージが体にも心にも表れ始める9月初旬。疲れた心と体を癒したい……だれもがそんな気持ちになる今、香りの世界でも、天然精油の配合量を増やしながらも、フレグランスとしての完成度の高い香水が急増中。膨大な嗅覚リファレンスでセミナーやトレンド分析、カウンセリングなど香り分野で活躍する、フレグランスアドバイザーMAHOさんに話を伺った。
天然精油を配合したフレグランスが続々登場
タイラ 9月になってもまだまだ暑い。去年は11月初旬までTシャツでも行けそうな気候だったし、今年もしばらく暑さは続きそう。とはいえ、7月8月の猛暑は和らぎつつあるのかなぁ。なんだか心も体もお疲れ気味です。
MAHO 季節の変わり目は体調を崩したり、気持ちが鬱々とするしたりする人も多いですよね。こういう時にもうまく香りを使ってリフレッシュしてもらいたいな、と思います。
タイラ 最近、天然精油を配合したフレグランスが増えていますよね。まさに香りで癒されたいという気持ちにハマる、マインドフルネスな香りが増えています。
MAHO フレグランスをファッショナブルに楽しみたいという流れがある一方で、気持ちや体の恒常性を保つために使いたいという方もいらっしゃいますから。私はカウンセリングでアロマコロジーという香りの心理学的効果に触れることも多いのですが、天然精油配合のフレグランスは、そこにアロマセラピー、つまり香りを使って直接的・間接的に身体や心に働きかける療法が入ってきます。いわゆる民間療法、伝承療法の類ではありますが、皆さん、香りを嗅いで心がふっと軽くなるなど、体感的に実感があるのではないでしょうか。
タイラ いい香りだと自然と呼吸が深くなりますもんね。精油を使ったフレグランスといえば、なんといっても【THREE】のエッセンシャルセンツ R。ニュートラルな00と花のニュアンスがある01が特に人気と聞きます。
MAHO 01は「LIKE A FLOWER」といってローズやラベンダーの花の香りがブレンドされています。柑橘やウッディに偏りすぎず、フローラルが効いていると、ぐっとフレグランスっぽさが感じられるんですよ。
MAHO 天然由来の香料を使うことで、アロマセラピー的な癒し効果への期待が高まります。そして、ひとつの精油だけにせず、ブレンドすることで、フレグランスらしい完成度に近づきます。
タイラ 日本人は何といっても、「天然イズベスト」的な信仰がありますからね~。
MAHO ただ天然の精油を使っているというだけでなく、きちんとエビデンスを取って、機能性を謳えるフレグランスであるのもポイントですね。
タイラ そうそう、単なる気休めじゃない。香りによる心と頭のリセットを提案している【シン ピュルテ】のマインドフルフレグランスもありますね。慶應義塾大学と産学連携の研究をしていて香りの有無で脳波を測定して、香りの効果を計測しているそうです。
MAHO 頭をほぐして睡眠へ導く人気のヘッドスパサロン、「悟空のきもち」とコラボレーションした新しいフレグランスが出るとか。
タイラ 年間約15万人を上質な眠りに導く「悟空のきもち」の知見をもとに開発した、「ドリームキャッチャー」という新しい香りですね。香りで睡眠空間を整えるというアプローチが、まさに機能性フレグランスのトレンドにぴったりハマっています。
香水大国フランスの機能性フレグランス発見!
MAHO フレグランス文化の根付くフランスでは、天然香料管理にこだわるブランドはさほど多くはないですね。でも、世界大手の香料会社ロベルテは自社農園から天然原料を栽培していて、種まき・収穫・変換・抽出・精製そして発掘まで、すべての段階を自社で行うんだとか。持続可能な天然原料を可能にしている会社です。
タイラ 南仏グラースに本社がある、世界的にも有名な香料会社ですね。
MAHO そんなロベルテ社の高品質な天然香料を使ってフレグランス作りを行っているのが、2017年創業の【100BON(ソンボン)】。
タイラ フランスの香水では珍しい、100%天然素材の香料を使用するこだわりのブランドですね。
MAHO 100BONにも日本の機能性フレグランスのような「マインドライン」というのがあって、スピリチュアルコーチ兼呼吸法を教えるブレスワーカーの、スーザン・オーバリと共同開発しています。夏バテで心身ともに疲弊している今の時期におすすめしたいのが「ブリーズ イン パリ」です。
タイラ ハーバルな良い香り~! パリのそよ風とは名前もシャレてる♡
心と向き合い、感情に寄り添うフレグランス
MAHO 先ほどアロマコロジーに少し触れましたが、より深く心に働きかける香りをフレグランスという形で提案している点が新しいと思ったのが、【アスレティア】のオードパルファン3種です。
タイラ 性格を導き出す5つの因子、「情緒不安定性」「外向性」「開放性」「調和性」「誠実性」の5つの度合いやバランスによって、その人の性格や、得手不得手を判断するという、心理学のビッグ・ファイブ理論をもとにしていますよね。その中で「開放性」という項目の高い人の肌がもつ香りの成分を調べると、「1-ドデカノール」というものが多いことが判明したそう。これをキー成分として配合した、画期的なオードパルファンですね。
MAHO 面白いのは、「開放性」だからといって、明るく前向きなイメージが香りのコンセプトではないところ。焦燥・思案・感傷といった、一見すると負の感情をいったん受け止めて、肯定的な未来志向へ導こうというものなんですよ。この間プライベートカウンセリングで失恋したばかりのお客様に、感傷をイメージに作られた「TWILIGHT HUES」を試していただいたら、すごく響いたと仰ってました。
タイラ アスレティアのコンセプトは「よく動き、よく休む」。そんなエネルギッシュに生きる人たちも、時に感情は揺らぐ。その時、気持ちの幹となるような香りは、今の時代に必要とされているものだなとしみじみ思います。
タイラ 香りを通して自己表現する欧米のフレグランスに対して、今の日本のフレグランスは、セルフコンディショニングやセルフラブといった、セラピー的な発想なのかな?
MAHO そうかもしれませんね。コスメキッチンプロデュースの【セルフリフレクション】もまさに香りを通しての自己発見がコンセプトですね。4種類ありますが、秋のはじめにぴったりなのが「ノクターナルアース」。夜のひんやりとした空気と静けさが感じられる、ウッディスパイシーノートです。
まとうではなく、嗅ぐためのフレグランス
タイラ こうして話していると、日本では、まとうための香りよりも、嗅ぐための香りの市場が大きいんだなって思います。
MAHO フレグランスをまとうことに抵抗のある方にも、天然香料の配合率が高いフレグランスは受け入れやすいものだと思います。そこから香りの魅力に気づく人がどんどん増えることを願っています。最後にご紹介したいのが、アロマ調香デザイナー®斎藤智子さんが自身のブランドとして発表した【TOMOKO SAITO AROMATIQUE STUDIO】の香油- KOYU -です。
タイラ 肌に直接塗るロールオンタイプなんですね。
MAHO 月の暦から、浄化、手放すといった気持ちをリセットしたいときのニュームーン、上昇や行動力を喚起するクレセントムーン、成功や自己表現を願う時のフルムーンの3種類が揃っています。暑さにダレた心と体をいったんリセットするならNEW MOONはいかがでしょう。
タイラ ふー、いい香り。自然と呼吸が深くなり、心が落ち着きます。
外に向かって自分を表現する、まとう香りもいいけれど、心身ともにバテ気味のときは、内なる自分の心と向き合うために“嗅ぐ香り”を活用してみるのもひとつの方法かも。お気に入りの香りをスプレーして、深く呼吸する。わずか数分でできるセルフケアで酷暑の疲れを癒し、穏やかな気持ちで秋を迎えたい。

幼少から香水の世界に魅了され、フレグランス企業や調香師に師事した経験を基に、香りの豊かさや楽しみ方をセミナーやイベントで発信。またブランドに属さない中立的な目線で行う、個々の魅力や可能性を引き立てる香り選びのアドバイスも人気。日本調香技術普及協会理事や日本フレグランス協会常任講師として、国内の香水文化の普及と発展に尽力。

取材歴30年。SPURのフレグランス企画の連載担当ライターとして活躍。この連載を機にフレグランスの世界に魅せられ、現在は資格取得を目指してフレグランスの歴史やトレンドを学び直し中。