ほどよく、まろやかにフレグランスを香らせる方法とは? 以前の「香調別の香水のまとい方」とは趣向を変えて、フレグランスプライマーやエンハンサーといったアイテムを上手に使う方法をご紹介。本連載でおなじみフレグランスアドバイザーMAHOさんが、フレグランスの洗練された新しいまとい方をレクチャー。
フレグランスのフィット感を高める、プライマーという新アイテムが登場
タイラ 気温も湿度もようやく落ち着いてきました。フレグランスをまとうのが楽しい季節がやってきましたね。相変わらずレイヤリングも流行っていますが、もっとシンプルにセンスアップする香りのまとい方を教えてください。
MAHO フレグランスと同じ香りのバスライン、ボディローションやボディミルク、ボディクリームなどを使って香りに奥行きを出すというのは一つの方法ですね。肌が乾燥していると香りが飛びやすいので、香りを持続させる意味でもボディケアアイテムで保湿をしておくといいですよ。
タイラ そうか、乾燥している場所では香りが飛びやすいですものね。肌も乾いていちゃダメなんだ。確かにワセリンなどを肌に塗って、フレグランスの香り分子を吸着して香りを持続させるという裏技が昔、ありました。
MAHO 【シャネル】が「フレグランス プライマー」という新アイテムを出しましたね。
タイラ すごく細かいミストでつけやすいんです。そして肌を心地よく保湿してくれるボディローションにトワレを合わせたようなアイテム。
MAHO プライマーは肌とフレグランスをつなぐアイテムですね。ベースメイクのプライマーのように、後につけるフレグランスのフィット感やハーモナイズ感を高めてくれます。単品でもほのかに柔らかく香るので、控えめな香りを楽しみたい方にもおすすめです。
後にまとうフレグランスに干渉しないボディクリーム
タイラ 【カルティエ】の専属調香師であるマチルド・ローランさんが「レ バーズ」シリーズのボディクリームとボディオイルをローンチするときに、『香りもときにはサイレントが必要よ』と仰っていた言葉がすごく記憶に残っています。あとにつけるフレグランスに干渉しないよう、あえて無香料にしたと聞いて、なんて素敵な発想! と感動しました。
MAHO 香りのあるアイテムを足し算するレイヤリングではなく、柔らかくほのかに、それでいて持続力を持たせるための、大人ならではのたしなみですね。パリのフレグランスメゾン、【グタール】にも「ユニバーサル ボディクリーム」というグタールのどのフレグランスとも組み合わせられる微香のボディクリームがあります。
タイラ 朝、シャワーした後にボディクリームをつけてフレグランスを重ねれば、強く香らせるのではなく、柔らかく香ってそれが持続するんですね。夜の寝香水にもよさそうです。
フレグランスの拡散を減速させるドライオイル
MAHO 香料は油溶性なのでアルコールに溶かしているのがオーデパルファンやオーデトワレといわれるフレグランスです。アルコールは揮発性が高いので、パッと広がりやすい。拡散性が高いのですね。
タイラ 最初にフワーッと広がるから、まとうのは出かける直前ではなく30分前ぐらいがいいと言われていますよね。わ、つけすぎて香りが強すぎる……と感じるときはどうしたらいいですか? シャワーで流すとかそれができない場合はおしぼりとかで拭くといいと聞いたことがありますが。
MAHO お水でも落ちないことはないと思うのですが、フレグランスは先ほども申し上げたように油溶性なので、おしぼりよりもアルコール入りの除菌シートなどで拭き取るほうが効果が高いです。
タイラ なるほど~。
MAHO もうひとつのアイディアとしてはトワレのような拡散性が高く、香りが飛びやすいフレグランスをつけた後に、同系統のドライオイルを重ねることで拡散スピードをゆっくり減速させるという方法。
タイラ 化粧水を塗った後にオイルをつけてシールドするイメージに近いのかな? トワレの香りをオイルで閉じ込めて、まろやかに香らせるのですね。
MAHO そうです。【エルメス】で人気の庭シリーズはトワレなんですが、ヘア&ボディ用のドライオイルもラインナップにあって、ドライオイルだけで使ってもほのかでいいのですが、トワレ→ドライオイルで使うといい香りが一日楽しめますよ。私は⦅シテールの庭⦆がとても好きでよく使っています。
いつものフレグランスをより響かせるエンハンサー
MAHO ちょっとニッチなアイテムではあるのですが、【ディーエス&ダーガ】に「アイドントノウワット」というフレグランスエンハンサーがあります。これ自体はシンプルな、いわゆる透明感のある軽やかなアンバーノートで、さりげない存在感。でも、ディーエス&ダーガの他の香りの上からスプレーすると、その香りをよりのびやかに響かせてくれるんです。もちろん、他のブランドの香りでも応用できますよ。
タイラ 面白いですね! 前出のシャネルのプライマーに対して、こちらはエンハンサー。単純にフレグランスの濃度を高めるのではなく、こうしたアイテムで香らせ方に強弱を持たせることができたら、シーンに合わせた使いわけもしやすそう。
せっかくフレグランスをつけていてもいい香りだと気づかれないのも悲しいし、逆につけすぎて香害をまき散らす人になるのはやっぱり避けたい。香水を美しく香らせるために、ほのかに長く香るプライマーやエンハンサーなどを、湿度や気温、シーンに合わせて賢く利用することで、周囲から“いつもいい匂いのする人”認定をもらいたいものだ。

幼少から香水の世界に魅了され、フレグランス企業や調香師に師事した経験を基に、香りの豊かさや楽しみ方をセミナーやイベントで発信。またブランドに属さない中立的な目線で行う、個々の魅力や可能性を引き立てる香り選びのアドバイスも人気。日本調香技術普及協会理事や日本フレグランス協会常任講師として、国内の香水文化の普及と発展に尽力。

取材歴30年。SPURのフレグランス企画の連載担当ライターとして活躍。この連載を機にフレグランスの世界に魅せられ、現在は資格取得を目指してフレグランスの歴史やトレンドを学び直し中。