冬に似合う、【スモーキーな香り】の正体は?

秋が深まり、冬へと近づくにつれ、温もりのある香りが恋しくなるころ。秋冬に使いたい香りのひとつに、スモーキーな香りが挙げられるが、具体的にはどういった香調がスモーキーと分類されるのか? スモーキーな香水について、パリ発の本格的なトレーニングスクール「サンキエムソンス ジャポン」の講師、有馬先生と深掘りしていく。

レザーの香りの中にスモーキーが含まれている

タイラ 一般に煙たいと感じる匂いと、フレグランスでスモーキーと表現するものでは、ニュアンスが違うように感じます。実際、フレグランスの世界でスモーキーな香りとはどのようなものを指すのでしょうか。

有馬  フレグランスでスモーキーと表現するのは、タバコや葉巻っぽい香り。燻したような匂いを含めてもいいでしょう。サンキエムソンスの受講生にビーフジャーキーみたいと表現した方もいらっしゃいましたね。

タイラ ビーフジャーキー! というと少し革っぽい感じが出てくる?

有馬 その通り。レザーのファセットにはスモーキーなニュアンスを含んでいることがあります。レザーファセットを構成する天然香料としては、まずバーチオイルがあります。白樺ですね。他にシスタスから採れる樹脂、ラブダナム、タバコ、沈香(アガーウッド)などですね。

タイラ レザーの香り=スモーキーと捉えていいのですか?

有馬 そこが難しいところ。レザーの香りが全部スモーキーかというと、そうではありません。アニマリックな要素が強いレザーもありますから。香りの捉え方は人それぞれなので、分類も非常に流動的になります。革の香りをスモーキーと捉える人もいれば、インセンスのような香りがスモーキーだと思う人いるでしょう。昔はスモーキーな香りは男性用のフレグランスに多かったのですが、最近では【トム フォード ビューティ】の「チェリー スモーク」のようにスモーキーな香りにフルーティなグルマンノートをのせた、ジェンダーを問わない香りも出てきています。

【トム フォード ビューティ】チェリー スモーク

【トム フォード ビューティ】チェリー スモーク

TOM FORD BEAUTY チェリー スモーク オード パルファム スプレィ 50㎖ ¥54,450/トム フォード ビューティ

すっきりとした甘いチェリーの煙に包まれる陶酔

エキゾチックなサフランがトップを飾り、ダークチェリーのフレーバーに一瞬にして包まれる。レザーとアプリコットの両方のニュアンスを併せ持つキンモクセイが、燻された木の香りと溶け合い、美しいハーモニーを奏でて。スモーキーな香りに慣れていなくても取り入れやすい、モダンなウッディフルーティの提案は、さすがトム フォード。

トムフォード ビューティ
0570-003-770

スモーキーの代表格、タバコフレグランス

タイラ スモーキーなグルマンといえば、【キャロン】の「タバック・エクスキ」が外せません。ラムやコニャックといった洋酒入りのチョコレートを思わせる、甘い濃厚な香りの中に、タバコの渋いニュアンスが潜んでいる感じ。ミルラやベンゾイン、オリバナムなどの樹脂も入っていますね。そのインセンスっぽさが、スモーキー感を増強しているのかもしれません。

有馬 香調としてはフローラルスパイシーアンバリーになりますね。タバコにグルマンというユニークな組み合わせです。ベースのラブダナムをはじめとするレジンやウッディが甘く肌に残る香りです。

【キャロン】タバック・エクスキ

【キャロン】タバック・エクスキ

CARON キャロン タバック・エクスキ  オードパルファン 50㎖ ¥37,400/フォルテ

甘いチョコレートと渋いタバコフレーバーの邂逅

歴史あるフレグランスメゾン、キャロンのヘリテージであるタバコを使ったレザーノート。そんなタバコに敬意を評し、2021年に調香師ジャン・ジャックが手がけたのがこのタバコ・エクスキだ。洋酒入りのチョコレートの甘さとタバコの渋みが調和する、大人のためのグルマンノート。

フォルテ
フォルテ 四季に香る
0422-22-7331

タイラ 質問ですが、タバコを吸っている人から放たれるいわゆるタバコ臭さと、フレグランスのタバコの匂いは別物ですよね?

有馬 そうですね。タバコの煙や、タバコの煙を吸って吐かれた息の匂いは、苦手な人も多いと思います。フレグランスでは、タバコの葉から抽出した香料を使うので、マルオーダーも発生しておらず、ドライなタバコのニュアンスが感じられます。ただ、歌詞などにも出てくるように、タバコの匂い自体は思い出に残るものとして、ネガティブな印象は少ないのかもしれません。

タイラ たしかに! そんな歌詞を思わせる、「タバコ メモリーズ」というオードパルファンが【シャンブル サンカン ドゥ(CHAMBER52)】にあります。

有馬 トップノートにはアーモンド、ミドルノートにはチェリーと、やはりグルマンなニュアンスをのせていますね。ベースはタバコに混じってサフランやオリス、そしてアンバーウッドやサンダルウッド、ホワイトムスクが香ります。少しパウダリー感のある、ウッディフルーティオリエンタルの香りですね。

タイラ この香りはフランスフレグランス財団主催の2025年度アワードのヤング・インディペンデント・ブランド部門のベストニッチ・フレグランスを受賞しています。

【シャンブル サンカン ドゥ】タバコ メモリーズ

【シャンブル サンカン ドゥ】タバコ メモリーズ

CHAMBER52 タバコ メモリーズ 52㎖ ¥31,900/エドストローム オフィス

ホテルのルーフトップバーの紫煙を思わせるスモーキーノート

世界的なフレグランスメゾンで20年にわたり、経験を積んだ調香師ニコラ・ドゥウィットが2024年に創設したシャンブル サンカン ドゥ。ブランド創設の構想を練ったサンパウロのホテルの部屋番号「52号室」がブランド名の由来だ。スモーキーなインセンスにサフラン、ジュニパー、アイリスが溶け合い、モレロチェリーが甘酸っぱい芳香を添える。スモーキーノートが紫煙に包まれ、人々で賑わうホテルのルーフトップバーを想起させる。マスターパフューマー、ドミティーユ・ミシャロン・ベルティとのコラボレーションで生まれた詩的な香りが、ブランドの世界観を体現している。

エドストロームオフィス
Chambre52.com
03-6427-5901 

焚火やインセンスのニュアンスが表現するスモーキー

タイラ ストレートにスモークと香水名で謳っているものとしては、【パフューマー・エイチ】の「スモーク」もあります。これは焚火のような、薪を燃やした暖炉のそばの匂いといった感じ。

有馬 私が先ほど言った、バーチやラブダナムが入っていますね。アガーウッド(沈香)やシダーウッドなどのウッディノートとの組み合わせでよりドライで煙るような香りとなっています。

タイラ パフューマー・エイチはミラー・ハリスの創始者だった調香師のリン・ハリスがミラー・ハリスを売却後、よりパーソナルで実験的な香りを創りたいと新たに創設したニッチラグジュアリーフレグランスメゾン。香水ファンから注目を集めるブランドです。

【パフューマー・エイチ】スモーク

【パフューマー・エイチ】スモーク

PERFUMER H オードパルファン スモーク 50㎖ ¥33,000/パフューマー・エイチジャパン

燃え盛る炎と湿った大地の対比を描くスモーキーなアンバーノート

燃やした薪によって浄化された空気の気配と湿った土の匂いや野生のハーブ……。ゼラニウムやシスタスによるトップノートから、カモミールやローズのミドル、そしてスモーキーな香りのキーとなる、バーチタールやアガーが織りなす魅惑の香り。キャンプ場で焚火を囲んでいるような心持ちにさせる、穏やかなスモーキーノートだ。

パフューマー・エイチ ジャパン
パフューマーH - 型にはまらない美しい香り 
03-6692-0253

タイラ あとは他に煙がたつものといったら、インセンス=お香ですか?

有馬  はい、ウード(アガーウッド)が香るとスモーキーなニュアンスを感じることがあると思います。【ディオール】に「ウード イスパハン」という香りがあります。

タイラ ウードは木片を焚いて香らせるものですが、中東のモスクに漂うような神聖なイメージがある香りですね。そこに爽やかなローズが合わされているので、センシュアルなムードも。この上質な温もり感は、冬の乾燥した冷たい空気にすごく映えると思います。

【ディオール】ウード イスパハン

【ディオール】ウードイスパハン

DIOR  ウードイスパハン エスプリ ドゥ パルファン 200ml ¥63,140/パルファン・クリスチャン・ディオール

ウードウッドの煙に包まれた魅惑のローズ

スモーキーなウードウッドが香りの根底を流れるなか、センシュアルで豊潤な香りを放つダマスクローズが咲き誇る。伝説の香りをクリスチャン ディオールのドレスのシルエットになぞらえ、フランシス・クルジャンが再解釈。贅沢な余韻が楽しめるフローラルウッディの香りだ。

 

パルファン・クリスチャン・ディオール
03-3239-0613

 

スモーキーな香りに分類されるのはバーチ、タバコ、ウードといった、レザーやウッディノートを構成する要素。他にどんな香料を合わせるかによって、スモーキーな印象になることもあれば、異なるものになることも。何をスモーキーと感じるかは個人の感覚によるものが大きく、その正体は煙に巻かれたようにミステリアス。寒さが厳しくなる冬に似合うスモーキーな香り、未体験の方はぜひ!

有馬 育子さんプロフィール画像
サンキエムソンス ジャポン講師有馬 育子さん

IFF社、Firmenich社、MANE社でエヴァリュエーターとして香りの評価・開発に約20年間従事。香料の経験を活かして、パフューマリースクール「サンキエムソンス」で講師として香りに興味を持つ受講生の皆さんのサポートを頑張っている。

平 輝乃さんプロフィール画像
ビューティエディター平 輝乃さん

取材歴30年。SPURのフレグランス企画の連載担当ライターとして活躍。この連載を機にフレグランスの世界に魅せられ、現在は資格取得を目指してフレグランスの歴史やトレンドを学び直し中。

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