20代の頃は、憧れの女性に近づくために香水をまとっていたという小説家の山内マリコさん。けれど年齢を重ねるにつれ、自分が本当に好きな香りがわかるようになり、香水に求めるものも変わってきたという。今、愛用しているのは、思い出とともに好きになったジャスミンの香りや、冬の装いに忍ばせる甘い香り。香りの遍歴をたどると、若い頃の自分へのまなざしと、これからの自分への新たな期待が見えてきた。

おしゃれな人はなぜ“いい香り”? 小説家・山内マリコさんが語る、香りと自分の変化。憧れをまとったあの頃から、もう一度、新しい自分へ

20代の頃は、憧れの女性に近づくために香水をまとっていたという小説家の山内マリコさん。けれど年齢を重ねるにつれ、自分が本当に好きな香りがわかるようになり、香水に求めるものも変わってきたという。今、愛用しているのは、思い出とともに好きになったジャスミンの香りや、冬の装いに忍ばせる甘い香り。香りの遍歴をたどると、若い頃の自分へのまなざしと、これからの自分への新たな期待が見えてきた。

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山内マリコさんプロフィール画像
小説家山内マリコさん

1980年、富山県生まれ。2012年『ここは退屈迎えに来て』で小説家デビュー。『アズミ・ハルコは行方不明』『あのこは貴族』など話題作を次々と発表。最新刊に『陽子さんはお元気ですか?』(オレンジページ)。現在は、文芸誌『すばる』(集英社)にて長編小説『アンダーステア』を連載中。愛猫家でもある。

文豪ゆかりの宿で出合った忘れられないジャスミンの香り

ジャガードワンピースを着用した小説家の山内マリコさん

foufouのジャカードワンピースを着用。「着られる季節は限られていますが、体型に合っていて華やかな雰囲気が気に入っています」

好きな香りを探そうと意気込んで香水専門店へ行っても、選びきれないことがある。ブランドのイメージや広告に惹かれて買ったものの、時間が経つとしっくりこないことも。山内さんもそんな試行錯誤を経て、長く好きでいられると確信したのが、タイのホリスティックウェルネスブランド「パンピューリ」のジャスミンの香りだった。

「出合いは2019年、御茶ノ水の『山の上ホテル』でした。池波正太郎や山口 瞳、田辺聖子さんなど、歴代の小説家が愛した“缶詰宿”に憧れて、東京に住んでいるのにわざわざ泊まりに行ったんです。アール・デコ調の瀟洒な空間に感動しながら部屋に入ると、アメニティに置かれていたのがパンピューリのジャスミンの香りのアイテムでした。使った瞬間、『この香り好きだわ!』と衝撃を受けたんです」


本能で惹かれたパンピューリの『サイアミーズウォーター エクストラクト パフュームオイル〈ジャスミン&イランイラン〉』

山内さんが愛用する香水パンピューリの『サイアミーズ ウォーター エクストラクト  パフュームオイル<ジャスミン&イランイラン>』

携帯にも便利なロールオンタイプ。オイルベースゆえ柔らかく香り立ち、タイジャスミンやイランイランがエキゾチックなフローラルノートを奏でる

ホテルを出た後、すぐにブランドを調べて取り扱いのある伊勢丹新宿店に駆け込んだという山内さん。当時は香水ではなく、同じ香りのバスソルトを購入。以降はハンドクリームも使うなど、ジャスミンの香りを暮らしに取り入れてきた。そして今年、パンピューリの青山店がオープンしたという知らせを受け、足を運ぶことに。友人へのギフトにと店内を見ていたところ、ずっと愛用してきた香りの香水があることに気づいた。

「好きな香りのハンドクリームがあれば、香水じゃなくてもいいと思っていた時期が長かったんです。でも、今このタイミングで手に入れたいなって。2019年に出合ってから数年を経て、ようやく香水を買いました」

おしゃれな人はなぜ“いい香り”? 小説家の画像_3

今では、外出前に気持ちを切り替えるための香りに。スプレーではなくロールオンタイプなので、出先でも気軽につけ直せるところも気に入っているという。

「家では猫がいるので、香りはほとんど使わないんです。ディフューザーも捨て、シャンプーも無香料。なので家を出てから香りをまとうことが、自分にとってのスイッチになっているのかもしれません」

冬のニットに忍ばせる、温かな香り

SHIROの『パリジェンヌ フェイヴァリット』

冬のニットに忍ばせる、温かな香り。SHIROの『パリジェンヌ フェイヴァリット』

パリジェンヌがワイン片手に楽しくおしゃべりしている様子からインスパイア。フルーティなトップノートに始まり、オリエンタルフローラルやバニラが洗練された奥行きを添える

秋冬に欠かせない香りとして名前が挙がったのは、SHIROのオリエンタルフローラル。

「お店にはたくさん種類があって、どれを選べばいいかわからないなと思っていたんです。でも、名前がかわいいなと思って試してみたら、この甘さが好きかも!と思って。わりと衝動買いでした」

主な出番は、意外にも冬にニットを着るとき。

「冬は、ニットを着ていると意外と脇に汗をかくんですよね。だから服を着る時に、インナーの下にシュッとひと吹き。そうすると、肌の上で温められた香りがニットの中から優しく立ち上ってくる。自分だけに寄り添うような、ちょうどいい塩梅で香りを楽しめるんです」

自分に自信をもつためにまとっていた、山内さんの「香水遍歴」

ランコムのアイコニックな名香「ミ・ラ・ク」

ランコムのアイコニックな名香「ミ・ラ・ク」

ピンクペッパーやライチがみずみずしく輝くスパイシーフローラル。ミ・ラ・ク オー ドゥ パルファン 30ml ¥10,890、50ml ¥16,060

山内さんにとって、香水が特別な意味を持っていた時代を象徴するのが、ランコムの「ミ・ラ・ク」。2001年、日本に登場したこのフレグランスは、当時の山内さんにとって、憧れの女性像と自分自身をつなぐアイテムだった。

「ユマ・サーマンがイメージキャラクターを務めていたのが本当に魅力的で、発売前から胸を躍らせて手に入れました。当時はまだ香水にも慣れていなかったし、自分がどんな香りを好きなのかもよくわかっていなかった。それよりも『私はミ・ラ・クを使っている女』ということのほうが大事だったのだと思います。自分に自信がなかったから、何かを身につけたり、持ち歩いたりして、心細さを埋めて自分自身を補強していたような気がします」

憧れのイメージを自分に重ねることに夢中だった。耳にはポータブルCDプレーヤーのイヤホン、バッグには文庫本。そして、香水もそのひとつ。香りを選ぶことは、なりたい自分を選ぶことでもあったのだ。




もう一度、憧れをもつ。次に目指すのはシャネルの香り

静謐な気品を漂わせるシャネルの『レ ゼクスクルージフ ドゥ シャネル ベージュ』

静謐な気品を漂わせるシャネルの『レ ゼクスクルージフ ドゥ シャネル ベージュ』

セイヨウサンザシ、フリージアなどのホワイトブーケに、ハニーの温もりを忍ばせた静寂とエレガンスが同居するフローラルノート。レ ゼクスクルージフ ドゥ シャネル ベージュ オードゥ パルファム 200ml ¥71,500/シャネル ©CHANEL

自分にとって心地よい香りがわかるようになった今、山内さんには新たな憧れも生まれている。それが、シャネルのフレグランスだ。

「最近、シャネルの香水イベントに参加する機会があり、香りの歴史やボトルの美しさに圧倒されました。多くの香りを試した中で最も心惹かれたのが『レ ゼクスクルージフ ドゥ シャネル』の『ベージュ』。音で例えるならアンビエントみたいな“静か香り”。重たさや圧迫感がなく、どこか親しみやすくて。旅先で出合う、白い花々の風景とも重なりました」

濃密で重厚な香りというイメージとは異なり、肩肘張らずにまとえそうなところにも惹かれたという。

「20代の“武装”を経て、30~40代で“自分の心地よさ”に辿り着きました。それは素敵なことだけれど、そこで満足してあぐらをかいてしまうと、中年の慢心になってしまう気がして。『もうこれでいいや』と留まるのではなく、20代の頃のように『何かに憧れて自分を磨く気持ち』を取り戻したい。ここぞという時にシャネルをさらりと使いこなせるような、成熟したかっこいい女性を目指していきたいですね」

若い頃は、自分に自信を持つために憧れの香りをまとっていた。今は、自分の好きな香りを知ったうえで、新しい世界へ。香りを通じて変わるのは、好みだけではない。自分自身との向き合い方もまた、少しずつ更新されていくのかもしれない。