女性の薄毛悩み。特に多い、全体が薄くなる「びまん性脱毛症」や、受診のサイン、治療の流れ・方法などを女性発毛治療の専門医に聞いた

髪は見た目の印象を大きく左右する。年齢にかかわらず、美しい髪と毛量を維持していきたいと願う人は多いはず。けれど、女性では更年期世代くらいから「毛量が減ってきた」「分け目が目立つ」といった薄毛の悩みが深刻化し、「髪が細くなりうねり毛が増えた」「ヘアスタイルがまとまらない」などの悩みも増えていく。

薄毛を予防し、健やかな髪を維持するために、どんなことができるだろう? まさにいま薄毛で悩んでいるなら、医療の力を借りるという方法も。
そこで髪が生える仕組みや毛量を増やす治療法について、女性の発毛治療歴16年のベテラン医師、浜中聡子先生に話を伺った。

髪は見た目の印象を大きく左右する。年齢にかかわらず、美しい髪と毛量を維持していきたいと願う人は多いはず。けれど、女性では更年期世代くらいから「毛量が減ってきた」「分け目が目立つ」といった薄毛の悩みが深刻化し、「髪が細くなりうねり毛が増えた」「ヘアスタイルがまとまらない」などの悩みも増えていく。

薄毛を予防し、健やかな髪を維持するために、どんなことができるだろう? まさにいま薄毛で悩んでいるなら、医療の力を借りるという方法も。
そこで髪が生える仕組みや毛量を増やす治療法について、女性の発毛治療歴16年のベテラン医師、浜中聡子先生に話を伺った。

浜中聡子先生プロフィール画像
クレアージュ エイジングケアクリニック院長浜中聡子先生

北里大学医学部卒、北里大学大学院医療系研究科 臨床医科学群精神科学修了。2020年より現職。発毛治療を中心に、頭髪に関する悩み(抜け毛・薄毛・白髪など)、更年期など、加齢に伴って多くの女性が抱える悩みに寄り添い、精神と身体の両面からケアする丁寧な診療で多くの女性から高い支持を得ている。国際アンチエイジング医学会(WOSSAM)専門医、米国抗加齢医学会(A4M)専門医、米国先端医療学会(ACAM)専門医などの資格を取得。

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薄毛はなぜ起こる? 年齢に応じて変わるヘアサイクル

若い頃は太くハリのあった髪の毛が、細くまとまりにくくなっていく。あるときふと、束ねた髪が少なくなっていることに気づく……。男性とは違い、少しずつ毛量が減っていくことが多い女性の髪。なぜ年齢とともに、髪質や毛量が変わっていくのだろう。まずは髪の毛の生えるメカニズムや女性の薄毛の特徴から見ていこう。


——加齢とともに薄毛が気になるのは、なぜでしょうか?

通常髪の毛は、髪が伸びる「成長期」、抜けやすくなる「退行期」、髪が抜け成長が停止する「休止期」というヘアサイクルを繰り返して生えてきます。健康な人の「成長期」は6年程度あり、その後「退行期」に入ると自然に髪が抜け、「休止期」を経て再び毛髪が伸びる「成長期」に入ります。

女性における、健康なヘアサイクルと乱れたヘアサイクル

女性における、健康なヘアサイクルと乱れたヘアサイクル

髪は一定の期間を経ると自然に抜け落ちて、同じ毛根から新しい髪が生えてきます。1本の髪の寿命は約4〜6年で、1年に伸びる長さは大体10cm以上。ヒトの毛髪はヘアサイクルの時期が1本1本異なるため、通常は一度に全て抜けることはありません。そして毛根の数自体は、基本的に生まれたときから変わることはないと言われています。

ではなぜ薄毛になるのかというと、女性は年齢に伴い「休止期」が長くなるという特徴があり、「休止期」の毛髪が増え、「成長期」の毛髪の割合が減少します。これにより抜け毛が増えて、結果として薄毛になるというわけです。さらに「成長期」の毛髪の成長速度が遅くなり、髪が細くなります。


——それで毛量だけでなく、ハリ、コシもなくなったと感じるのですね。薄毛の出方は男女で違うのでしょうか?

薄毛は男女で原因や症状、進行パターンが異なります。男性は男性ホルモンが関与する、頭頂部もしくは前頂部という特定の部分の毛髪が薄くなる「AGA(男性型脱毛症)」が多いのですが、女性の場合は全体に薄くなる「びまん性脱毛症」が多いです。

加齢による頭皮の血流量の低下、女性ホルモンの分泌量の減少だけでなく、栄養状態やストレス、遺伝なども影響します。他にも甲状腺疾患などの病気ポニーテールなど髪を引っつめるような髪型が原因の牽引性脱毛症など、女性の薄毛の原因は多岐にわたります。

髪のピークは30代後半まで。40代から髪質・髪量がぐっと衰え、50代に悩みが顕在化

——女性は「びまん性脱毛症」が多いということですが、いつ頃からはじまりますか?

実は、女性の髪の毛のボリュームと質はどんなに恵まれた人でも30代後半がピーク。それ以降、徐々に下降していきます。個人差はありますが、40代からは髪に何らかの加齢変化を感じることが増えていくでしょう。50代になると白髪が増え、薄毛や抜け毛の悩みが顕在化します。

びまん性脱毛症とは、髪全体がボリュームダウンして薄毛が広範囲に広がっていく症状が特徴です。髪のボリュームがぐっと少なくなり分け目が目立つようになったりして気づく方が多いです。

ストレス過多な時期、出産後、更年期など。薄毛悩みは、ライフステージに連動する面もある。

ストレス過多な時期、出産後、更年期など。薄毛悩みは、ライフステージに連動する面もある。

——産後に髪がごっそり抜けるという話も聞きます。これはなぜでしょう?

出産後脱毛症は、妊娠中に増えた女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が、出産後に一気に低下してしまうことから、髪の毛が一斉に退行期に移行して急激に抜け毛が増える、と考えられています。

ただ、半年から1年ほどで回復していくことが多く一時的な現象です。多くは自然回復していくので、焦らず回復を待ちましょう。精神的に負担になるようなら、専門の医師に相談することもできます。


——髪の成長には、女性ホルモンのエストロゲンも関連しているのですね。

エストロゲンには、毛髪の「成長期」を長く維持する働きがあり、太く長くハリのある健やかな毛髪や、ツヤのある黒髪を保つことに関与しています。しかしその分泌量は30代後半ぐらいから下降し、閉経後には卵巣からの分泌がゼロになり、脂肪からわずかな量が分泌されるだけとなっていきます。

女性ホルモンが減少することは生理現象とはいえ、エストロゲンの減少で髪への影響が現れやすくなると言えます。

髪にどんな変化を感じたら受診のサイン?

近年は薄毛を積極的に治療していこうとする人も増えている。女性の薄毛治療は男性とは異なり、早期に受診することも大切なのだとか。ここからは受診の目安、治療法などを教えていただく。


——薄毛のサインに早めに気づくための目安はありますか?

見た目の変化、例えばシャンプーやブロー時の抜け毛の増加、分け目の広がり、つむじ部分の薄毛の目立ち、髪の生え際の後退(M字はげ)などはわかりやすいでしょう。びまん性脱毛症では、頭頂部から薄くなることが多いですが、生え際やサイドの後退が気になり始める方もいます。髪質が変化して細く柔らかくなって切れやすくもなりますね。

薄毛サインに気づきやすいのは、つむじや分け目、髪の生え際など

薄毛サインに気づきやすいのは、つむじや分け目、髪の生え際など

——女性の薄毛は治療ができるそうですが、適正年齢などはあるのでしょうか。また、どんなタイミングで受診するといいですか?

当院では10代から90代まで幅広い年齢の方が受診されます。もともと遺伝的に毛量が少ないというケースや、摂食障害や極度の貧血などでも薄毛になることがあるため、若い世代も受診されます。

がんの抗がん剤治療により髪が抜けてその後の回復のために治療を受けたいという方、年齢によって毛量が薄くなってきたなど、理由はさまざまです。抗がん剤治療中でも、薄毛治療を並行して行うこともできますので、状況に応じて相談しながら進めています。

年齢で治療をためらう必要はありません。以前とは違う髪の質や薄毛が気になった時点で、女性の薄毛治療を行なっているクリニックや専門外来を受診して大丈夫。早めに治療を開始すると、それだけ効果も出やすくなります。男性と女性とでは薄毛のメカニズムが違いますので、女性の薄毛治療経験のある医師に相談するのがいいでしょう

薄毛治療は早めに専門外来に相談し、継続できる治療法を見つけて

——診察から治療まではどのように進んでいきますか?

当院の場合には、カウンセリング後に、食生活を含めた生活習慣チェックやスコープ(拡大鏡)での頭皮視診、血液検査も行います。女性ホルモンのチェックや薄毛の原因になる甲状腺機能低下症※1などの病気が隠れていないかを確認した上で、個々の状態に合わせて、基本的には外用薬と内服薬で治療していきます。

 

※1甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモンの分泌量が低下して、全身の新陳代謝が低下する病気。疲労、寒がり、体重増加、むくみ、皮膚の乾燥などのほか、毛髪では白髪が増える、眉毛の外側1/3が抜け落ちるなどの症状が典型的なサイン。甲状腺ホルモンの不足はメラニン色素の生成が低下したり、ヘアサイクルにも影響を与えるため白髪になったり毛が抜けやすくなったりする。

治療に外用薬(塗り薬)と内服薬(飲み薬)をどのように取り入れるかは、相談しながら決めていく

治療に外用薬(塗り薬)と内服薬(飲み薬)をどのように取り入れるかは、相談しながら決めていく

——女性の薄毛治療で行われる治療法を教えて下さい。

原因や症状に合わせて様々な方法がありますが、主な治療法はミノキシジルの外用薬(塗り薬)と内服薬(飲み薬)※2です。もともとは高血圧の治療薬でしたが、発毛効果が期待できるため薄毛の治療に使われています。

ミノキシジルには、頭皮の血行を促進して毛母細胞を活性化し、発毛を促進する効果が期待できます。乱れたヘアサイクルの改善にも働きかけるので、抜け毛が減り、育毛や発毛が促されるのです。当院では、半年間治療した方の約8割に効果が現れています。早期から治療を始めた方が効果は早く出ますし、見た目の変化も小さくて済むでしょう。

市販薬もありますが、市販品は外用薬のみ。医療用医薬品と市販薬との大きな違いは濃度で、当院では6%から20%までの濃度のミノキシジルを処方できます。一方で市販品は女性用で1%配合のため、より濃度の高い医療用のミノキシジルの方が効果は高いです。

市販薬と医薬品に含まれる、ミノキシジルの濃度目安の比較

市販薬と医薬品に含まれる、ミノキシジルの濃度目安の比較

治療費の目安は、外用薬のみで月1.5万円程度、内服薬※2のみで2.5万円程度、両方で3万円程度(いずれも税別、クレアージュ東京の場合)です。

外用薬は3ヶ月から半年ほど使用してもらい、経過を見て効果があれば継続していきます。内服薬※2は、外用薬よりも高い発毛効果が期待できますが、副作用のリスクもあるため慎重に検討します。どちらか、または併用などの処方については、その方の薄毛の進行度やライフスタイルなども合わせて判断していくことになります。

【ミノキシジル治療】市販薬と医薬品、外用薬と内服薬の特徴

一般用医薬品(市販薬)

  • 外用薬のみ
    医師の処方箋なしで購入できる。濃度は女性用は1%、男性用は1%または5%が一般的で、5%が最大濃度。第一類医薬品であるため、薬剤師からの購入が必要

医療用医薬品(医師の処方が必要)

  • 外用薬
    局所に作用するので副作用は少ない。1日2回、頭頂部、生え際、薄毛・抜け毛が気になる部分にマッサージしながら塗り込む。
  • 内服薬※2
    体内で作用するため吸収率が高く、発毛率約8割と効果も高い。全身に作用するため、体毛が増えるなどの副作用のリスクも高くなる。血圧を下げる可能性があり、降圧剤との併用は禁忌。

ミノキシジルの使用を避けた方が良い人の特徴

妊娠中や授乳中の方、心血管疾患がある方などは医師との相談が必要

※2 日本皮膚科学会の男性型・女性型脱毛症診療ガイドライン(2017年版)ではミノキシジルの内服薬はD評価(行うべきではない)となっています。一方で、欧米の報告書では外用薬につぐ有効な治療法であるという記載もあります。現状、ミノキシジルの内服薬は医薬品副作用被害救済制度の対象外であり、あくまでも個人責任での内服となるため、信頼のおける医療機関で主治医の管理のもと服用することが大切です。輸入薬などを自己判断で購入し使用するのは避けましょう。

頭皮注射や自毛植毛、女性ホルモン補充療法などは、どうなのか?

——メソセラピー(頭皮注射)、自毛植毛など、ミノキシジル以外にも治療法があるようですが、これらはどうでしょうか?

薄毛治療は自由診療となり、医療機関によって行っている治療法が変わります。点滴や注射による薬剤投与、毛髪再生医療、自毛植毛など治療法は多岐にわたります。

ただ、薄毛は加齢変化なので、一度の治療で完治するものではありません。治療をやめてしまうと数ヵ月後から再び薄毛が進行します。
継続治療が必要という観点から、効果や費用負担、通いやすい医療機関かということも考慮しながら、ご自身に合った治療法を検討しましょう

薄毛治療の様々な選択肢

様々な治療の選択肢から、自分にマッチしたものを選択したい

——更年期障害の治療法「女性ホルモン補充療法(HRT)」は薄毛改善にも有効でしょうか?

薄毛に対して、直接発毛効果があるわけではありませんが、加齢変化の進行を緩やかにする可能性はあるでしょう。

髪が薄くなることが気になり始めたら、クリニックに相談してみるというのも一つの手段。毛髪の状態は加齢に伴って変化していくため、治療においては継続することがキーポイントとなる。求める効果と予算を天秤にかけながら、自分のライフスタイルに合った治療のスタイルを見つけていくことが大切だ。

とはいえ、日常的なセルフケアでは、どんなことができるのだろう? 次の記事では、薄毛予防のためにできること、気をつけたいことを浜中先生に伺う。