花から、花へ

 昨年秋の、ADDICTIONの新色発表会は、忘れることができない。真っ白な空間に長い、長い純白のテーブルがひとつ。食器やカトラリーは、すべて艶消しの白だ。宝石のようなシャンデリアのほの暗い光に見守られて、青白く輝くディナープレートの上に、春色が宿っている。スーパーモダンな「最後の晩餐」の卓上で、FAKE ROMANCEという名前のコレクションが、生き生きと色彩を放っていた。まるで、場違いに咲いた陽春の花のように。

クラシカルな空間が、マットな白に包まれることで未来的な趣に。ぽつんぽつんと配置された新色と花々のグリーンだけが、色彩を放つ
クラシカルな空間が、マットな白に包まれることで未来的な趣に。ぽつんぽつんと配置された新色と花々のグリーンとのコントラスト

クリエイティブディレクターのAYAKOの旅は、ミラノのスカラ座から始まった。

90年代の後半、ミラノコレクションに携わっていたときにもよく訪れていた街です。一昨年、久々に出かけたミラノで、ふと思い立ってスカラ座へ足を運びました。せっかくだからとロングドレスとフェイクファーをまとって、おしゃれをして」

そのとき覚えた高揚感が、インスピレーションを芽生えさせた。

「観劇はこんなにも女性をわくわくさせるのかと、改めて驚きました」

歌劇や舞踏会をテーマに春の色を創ったら、きっと女性たちを美しく彩るに違いない。その想いを胸に、創造の翼は大好きな名作へと向かう。旋律をすべてそらで覚えている「椿姫」だ。

NYではリンカーンセンターで観劇を。オペラへの想いは深い
NYではリンカーンセンターのメトロポリタンで観劇を。オペラへの想いは深い

「『椿姫』の社交界の場面のドレスの色を、まずアイシャドウに表現しました。次に、同じ色をネイルポリッシュに。ではチークは? そう考えたとき、やはり大好きなルネッサンスの絵画やボッティチェッリが心に浮かびました。『プリマヴェーラ』や『ヴィーナスの誕生』のような、ふわっとした頬の色です」

アディクション ザ アイシャドウ<すべて限定色> 各¥2,000(税抜)
アディクション ザ アイシャドウ<すべて限定色> 各¥2,000(税抜)
発売直後に複数の店頭で品切れを起こしたのが、こちら。ベストセラーMISS YOU MOREのラベンダーバージョン。アディクション ザ アイシャドウ 137 Mia Violetta<限定色>¥2,000
発売直後に複数の店頭で品切れを起こしたのが、こちら。ベストセラーMISS YOU MOREのラベンダーバージョン。アディクション ザ アイシャドウ 137 Mia Violetta<限定色>¥2,000
アディクション ザ ネイルポリッシュ(右から)065 Soprano、064 Lady Camellia、063 Mia Violetta、062 Black Rose、061 Arietta、060 Blood Moon<すべて限定色>¥1,800(税抜)
アディクション ザ ネイルポリッシュ(右から)065 Soprano、064 Lady Camellia、063 Mia Violetta、062 Black Rose、061 Arietta、060 Blood Moon<すべて限定色>¥1,800(税抜)

ボッティチェッリ「春」に登場する愛の女神やニンフ、三美神のようなみずみずしい頬色がほしいなら。アディクション チークポリッシュ(右から)17 Faded Rose、19 Lady Camellia、20 Flora<以上、すべて限定色>各¥2,800(税抜)
ボッティチェッリ「春」に登場する愛の女神やニンフ、三美神のようなみずみずしい頬色がほしいなら。アディクション チークポリッシュ(右から)17 Faded Rose、19 Lady Camellia、20 Flora<以上、すべて限定色>各¥2,800(税抜)

インスピレーションは、イタリアを駆け巡る。

「リップスティックは椿から。『椿姫』の主人公のヴィオレッタを思わせるパープルや、寒椿の色。そうやって、カメリアカラーをまとめていきました」

「この口紅は、ぜひ指でつけてもらいたいですね。リップスティックはベルベットでしっかり描くものが主流でしたが、指先でぽんぽんと」染みているようなさまも美しい!アディクション リップスティック ピュア 各¥2,800
「この口紅は、ぜひ指でつけてもらいたいですね。このところリップスティックはベルベットテクスチャーでしっかり描くものが主流でしたが、こちらはあえて指先でぽんぽんと」染みているようなさまも美しい!アディクション リップスティック ピュア 各¥2,800

青みが効いた華やかなカメリアピンク。アディクション リップスティック ピュア 026 Lady Camellia<限定色> ¥2,800(税抜) 
青みが効いた華やかなカメリアピンク。アディクション リップスティック ピュア 026 Lady Camellia<限定色> ¥2,800(税抜) 

テーマを集約した色。023 Fake Romance
ゴールドパールがぴりりと効いた”フェイク”なピンク。アディクション リップスティック ピュア 023 Fake Romance <限定色> ¥2,800(税抜)

イタリアの美学を折衷し、紡ぎ上がった新色は、春の庭のようにロマンティックなタペストリーとなった。

旅の真骨頂は、ここからだ。

AYAKOの仕上げは、甘くない。最後に、コレクションに辛口のワン・ワードが冠された。どきりとする形容詞「FAKE」、そこに込められた狙いは、こうだ。

「オペラは、主人公が悲劇的に散っていく作品も多いですよね。セダクティブな女性や、ファムファタルが人々を惑わしていく。オペラのそういった陰りや、さらには遊びやプレイフルな意味も含めて”フェイク”と表現することで、自分の中ですとんと腑に落ちた―ADDICTIONならではの棘が表現できた、そう思っています」

春だからこそ、かげりや棘のある色が美しく映える。上はすべて Blood Moon
春だからこそ、かげりや棘のある色が美しく映える。上はすべて Blood Moon

2019年はAYAKOとADDICTIONにとって区切りの年となる。2019年7月15日に、10周年を迎えるのだ。つまり、このコレクションは10年にわたる旅の、最後のデスティネーション。「最後の晩餐」のヒントが、ここにも潜んでいる。美しく、ぴりりと毒も効いた色の数々は新たな節目に挑む、決意の表れでもあるのだ。

「真っ白な空間で皆さんをもう一回迎えたい……、『最後の晩餐』を演出した理由のひとつは、そんな気持ちからでもあります」

こまやかなパールがきらめくミルク色。ともにSoprano
こまやかなパールがきらめくミルク色。ともにSoprano

ヴィオレッタのアリアにはこんな一節がある。「花から花へと」「いつだって自由に、心は新たな喜びを追い求め」。10年目に向かって、このブランドはどこまでも自由に、新しい高みを目指して生まれ変わる。これまでの10年間がそうだったように、これからの10年も、何度でも。

ADDICTIONのルネッサンスは今、始まったばかりだ。

(右から)アディクション チークポリッシュ 19 Lady Camellia 2,800円(税抜)、アディクション リップスティック ピュア 026 Lady Camellia ¥2,800(税抜)、アディクション ザ ブラッシュ 029 Miss Bouquet¥2,800(税抜)
(右から)アディクション チークポリッシュ 19 Lady Camellia ¥2,800(税抜)、アディクション リップスティック ピュア 026 Lady Camellia ¥2,800(税抜)、アディクション ザ ブラッシュ 029 Miss Bouquet ¥2,800(税抜)<すべて限定色>
キャンペーンのモデルはシモーナ・クスト。「パリコレを歩くピンクの髪の彼女にくぎ付けになり、起用しました。撮影時はまだ16歳のほやほやで」。メイクアップをするうち、ボッティチェルリのヴィーナスを彷彿させるような肌感にも夢中になったという。「ADDCITIONにとってのヴィーナスです」。奇しくも2017年のSPUR4月号の飾ったのも、同じシモーナ!
キャンペーンのモデルはシモーナ・クスト。「パリコレを歩くピンクの髪の彼女にくぎ付けになり、起用しました。撮影時はまだ16歳のほやほやで」。メイクアップをするうち、ボッティチェルリのヴィーナスを彷彿とさせるような肌感にも夢中になったという。「ADDICTIONにとってのヴィーナスです」。奇しくも2017年のSPUR4月号の飾ったのも、同じシモーナ!

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エディターIGARASHI

おしゃれスナップ、モデル連載コラム、美容専門誌などを経て現職。
趣味は相撲観戦、SPURおやつ部員。

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