G桂さんは当時ニューヨークでケヴィンの撮影・取材を担当していたんですよね。 K そう。いつも刺激的な撮影現場でした。彼のメイクアップでモデルのチャンドラ・ノースを女優に見たてて変身させたりして。 Yこのページ、当時うっとり眺めていました。今見てもカッコいい。 Kケヴィンとチャンドラとは同じアメリカ南部の出身で仲がよかったの。現場の雰囲気も明るくて楽しかったな。このページは、撮影もケヴィン自身によるものでした。
G 細眉だけでなく、リップライナーを流行らせたり、コントゥアリングを広めたり、ケヴィン発のトレンドはそれまでの美の概念を覆すものばかり。 Y メイクアップだけでなく、化粧品のクリエイションも素晴らしかったですよね。 G 彼がクリエイターとして携わっていた資生堂inoui……素晴らしかった。 Y伝説のブランドですね。メイクアップアーティストの方々も熱狂的に好きでしょう? MICHIRUさんは、いまだに全色とってあるって。
G白のバリエーションのアイシャドウパレットは「こんなの見たことない!」という代物。それぞれピンクやグリーン、ブルーやイエローのアンダートーンのある白に挟まれて、真ん中にブラックがドーンと! バイト代を貯めて頑張って買った時のことを思い出しますね(遠い目)。パッケージもスーッと薄くて、漆のような赤に彩られていて。本当に洗練されていた。 Kベージュやブラウンのニュートラルカラーも、当時は新鮮でした。 Yベーシックに見えるのに、ほかにはない色出しで、モードで上品。プロにも圧倒的に支持されるのに、素人が使っても絶対綺麗に仕上がるというね。唯一無二ですね。 G 心から、復刻版を出していただきたいです。
G ところで、桂さんがこの映画で好きなシーンはどこですか? K ケヴィンが、子どもの頃からの憧れの人にメイクをするところかな。ネタバレになってしまうから詳しくは言えないけど。あの瞬間はきっと「夢を叶えた」って感じだったんじゃないかしら。 Y 確かに、あそこ、なんだか感情移入してジーンとしてしまいました。 G モデルだけでなく、ハリウッド女優にまで斬新なコンセプトのメイクアップをしていたのも、印象的。 Y 揺るぎない信頼関係を築いているからこそ、できることですよね。チャレンジングなメイクでも、絶対的に美しい。 G横溝さんが好きなシーンは? Yメイクのトレンドが生まれる瞬間の裏話みたいなものを知れたのが面白かったな。しかもリアルタイムでそれを体験し、語っている人々がゴージャスでいい。 K本当に華やかな時代でしたよね。
Yケヴィンが光の速さでトップにのぼりつめていく過程も間違いなく煌びやかなんだけど、一方で、ずっとどこかにコンプレックスを抱えていたんだな、ということも伝わってきました。切なさを内包したきらめきこそ、まさに時代のスター。 G 40歳で逝ってしまったのは、あまりに早すぎた。美しいものを貪欲に求めながら、繊細な心は何度も傷ついて…。晩年に向かうシーンは本当に哀しくて、切ない気持ちで胸がいっぱいになりました。 Yほんと、ケヴィンがいなかったら、今のモードメイクはないと思う。メイクアップの魔法をもっと見せて欲しかったですね。でもこの映画で、改めてメイクアップの持つパワーを思い知らされました。社会全体が不安を抱えているようなこんな時期こそ、個性を際立たせ、多様な美しさを生み出してきた、ケヴィンの美の哲学を見習いたい!