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初夏の「クセあり」香水は【ドリス】【エルメス】、そして【トム フォード】で間違いなし! 

2019年に東京国立博物館平成館にて開催されたドリス・ヴァン・ノッテン氏と杉本博司氏の対談で、「世界中のあらゆる素材で遊びたい」と静かに語っていたドリス氏の姿は、鮮やかに脳裏に刻まれています。色と柄、地域性。多くの境界を軽やかに飛び越えて唯一無二の美を見せてくれるドリスだけれど、その創造心が次に目指したのが、ビューティ。

ドリス・ヴァン・ノッテン オードパルファム フルール デュ マル
秋の爽やかな風をいち早く。ドリス・ヴァン・ノッテン オードパルファム フルール デュ マル 100ml ¥40,700 

フレグランスとメイクアップコレクションは昨年3月パリで発表され、国内では今年の4月22日よりドリス ヴァン ノッテン 青山店にて、発売が開始されています。香水ボトルを観れば、そこにドリスの美観が息づいていることが分かるはず。アーカイブスからの「引用」はビューティでも明白で、手に取ればパリコレのランウェイの高揚感が蘇るから。

SPURのイチオシは、「悪の華」。ドリスの花への愛情はドキュメンタリー映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』でも綴られているとおりだけれど、「悪」という武器を冠している以上、一筋縄ではいかない、クセ強めの香調であることはお見通し——と思ったら、その先入観は、見事に裏切られれることになるのです。ハートノートは、アジア的な魅力を芳醇に語るキンモクセイ。トップはジューシーなピーチで、ベースにはスエードとアンバーが落ち着きを奏でます。

ドリス・ヴァン・ノッテン オードパルファム フルール デュ マル

優しい。優しいフローラルです。既存のフレデリック・マルとのコラボ香水にはなかった素直さがあって、間口の広さに驚きました。なお、上記の対談でドリス氏はこうも言っていました。美しいものを創る過程において、どこか「奇妙なもの」を加えて非凡にするのが自分の定石だと。おそらく朽ちた蓋部分や、べっ甲のパッケージがそれにあたると推測するのですが、調香師クエンティン・ビスク氏は見事にドリスのオーラを匂いに変える仕事に成功した、と思うのです。

ドリス ヴァン ノッテン 90番「OTTOMAN BROWN SATIN」
口紅は全5種類からパッケージを選択可能。ポーセリン柄に朱のマーブル模様のコンビが、和洋折衷の工芸品のような「コーラルセラミック」。
ドリス・ヴァン・ノッテン 90番「OTTOMAN BROWN SATIN」
レフィル(¥5,610)の色番は、90番「OTTOMAN BROWN SATIN」。ケース(¥5,500)
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エルメス《シテールの庭》 オードトワレ 100ml ¥19,580

次はエルメス。まずは透過するボトルを手に取って、太陽にかざしてみてください。黄金色にきらめくボトルには、エルメスの香水クリエーション・ディレクター、クリスティーヌ・ナジェルが、ギリシャのシテール島へ旅した時の記憶が詰められています。

ジャン=クロード・エレナより脈々と受け継げられてきたエルメスの「庭園シリーズ」、いよいよ本作で7番目。パッケージにも描かれたピンクのピスタチオ、香りの主軸であるオリーブの木が風となってオーラに包まれる快感を約束します。なお、シテール島は、愛の女神ヴィーナスがたどり着いたという神話が伝わる場所。ゆえに、包容力でいっぱいの、やさしい香り立ちに納得できるはず。

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TOM FORDエレクトリック チェリー オード パルファム スプレイ 50ml \49,500

最後に後継者就任のニュースも記憶に新しいトム フォード。定番人気の「チェリー」シリーズの最新作が、エレクトリック チェリーです。電気のチェリー? 電動のチェリー? 電気が走るようなチェリーの衝撃、と訳すのがいちばん良いかとしれません。そう、この香りは恋に落ちた瞬間の火花を端的に表した、香りのレシピを採用しているのです。

ジャスミンの濃ゆい情熱と、苦み走ったモレロチェリーとが溶け合い、甘酸っぱい愛情を表現。センシュアル一辺倒というよりは、ピュアな初恋を感じさせる甘やかな世界に、新境地を感じましたね。

トム フォード ビューティ  チェリーシリーズ
(左から)トム フォード ビューティ チェリー スモーク オード パルファム スプレィ 50ml ¥49,500、エレクトリック チェリー オード パルファム スプレィ 50ml ¥49,500、ロスト チェリー オード パルファム スプレィ 50ml ¥46,200

色っぽい燻したトーンのCHERRY SMOKE(左)と、「失われた」チェリーを体現したLOST CHERRY(右)の3連作。映画監督ならではの意味深なタイトルも、さすがです。

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ゴールデンウィークに、久々の旅を満喫している人も多いはず。旅先で香水を新調して、土地とのケミストリーを楽しむのも旅の醍醐味だと思うのです。

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エディターIGARASHI

おしゃれスナップ、モデル連載コラム、美容専門誌などを経て現職。
趣味は相撲観戦、SPURおやつ部員。

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