ジーン・セバーグが現代にやって来たら? 青春の匂いを胸いっぱいに
エディ・スリマンが香水をローンチする際に、手掛けたこと。それは日記を書く行為だったんです。調香師に香りの記憶をどう伝え、いかにフレグランスに置き換えるか。マーケティングには基づかず、日記というきわめて私的な思い出から香りを作り出すという、シンプルな手法にこだわっています。
最新作に投影したのは、ショートヘアでにっこり微笑む、やんちゃな60年代のヒロイン。ズーズーという名前は、短髪の女の子や恋人をそう呼ぶニックネームをミックスして生まれたものだそう。エディの人生の中でも、きっとそんなアイコンがいたに違いありません。具体的にエディが挙げたのは、若いころのフランソワーズ・サガンやゴダール作品の中のジーン・セバーグなど。「永遠の若さという空想と、ユートピア的な青春」が、ズーズーに込められているのです。
WINTER 24コレクションもメゾンの黄金期60年代の原点の美学を投影した女性像でしたが、丸みを帯びたキャップとともにコンパクトに仕上げたヘアも素敵でした。
ボトル側面のフルーティングの美しさに見惚れます。外装の箱は、17世紀のモールディング加工を踏襲した技法を採用。キャップ上面にはアイコンの「トリオンフ」がエンボスされています。
香りのカテゴリーはアンバームスク。甘いです。無邪気で、とてもスウィート。キャラメリゼしたタルトを彷彿とさせます。ベンゾインなどのアンバーブレンドと、ラブダナムやバニラ、トンカビーンが芳香にムードたっぷりの厚さを演出。パチョリがエレガントな風を運びます。パウダリーだけれど甘味たっぷりなので、相対的にトムボーイなスタイリングが、透けて見えてくるんですよね。ネックラインは丸首で肌を見せずに。ラッフルドレスではなく、ジャケットやボックススカート、ドレスならばAラインの直線的なシルエット。髪型はショートで決まり。ロングでも小さくまとめる髪型が、若さあふれるアンバームスクに似合います。こんなふうに、髪型までイメージが膨らむフレグランス。さすがセリーヌ、ですよね。
この秋ローンチするボーテコレクションにも期待がますます高まります。
香りをまとえばイビサに瞬間移動!
話題のアンバーをもうひとつ。イビサ島の伝説のショップ「パウラズ 」とコラボレーションしたロエベのカプセルコレクションはノマディックかつサイケで自由な柄でも人気ですが、この「パウラズ イビサシリーズ」からフレグランスが登場です。私もドレスをもっているのですが、1枚でインパクト炸裂。夏の「おでかけ」の必需品となってます。パウラズだったらきっとこんな存在感、という期待を裏切らないアンバーフルーティなフレグランスが誕生しました。
パウラズらしく、宇宙的なスピリチュアルな覚醒が着想源。ゆえに非常に明るく、楽観的な香り立ちです。地中海の陽光を思わせるアンバーを主役に、洋ナシやマンゴーなどの甘酸っぱいフルーティなノートと、大自然の力を彷彿とさせるサイプレスが響きあいます。同時に、グルマンなココナツやバニラが官能的な甘さを添え、これから始まる夜のドラマへの期待をゴージャスに盛り上げる。そして、バニラ。食欲をそそるようなバニラが、長い余韻を残しつつ、良い仕事をするんですよ。ボトルのオレンジの陰影も、サンセットの情景を物語ります。
イビサの情熱あふれるアンバー、私だったらその濃厚さとのバランスを計算して、やっぱりヘアはショートにしてみたい!
この濃厚さが心地よい。純真無垢の先にあるものに、触れてみませんか?
バニラつながりのアンバー系といえば、トム フォードのプライベート ブレンドは絶対に外せません。発売は1月でしたが、初夏の今もクセになっています。
まずは名前の破壊力ですよ。日本展開のボトルには、モンダイの部分は赤く帯状に隠されています。
名前がすべてです。深度のあるバニラを、とことん際立たせた調香。この香水のために、バニラ チンクシャ― インディアという成分を開発しました。このブレンドがまろやかでセクシーなヴェールとなってます。甘さのトッピングであるトンカアブソリュート、また落ち着きをもたらすサンダルウッドとの競演で、どこかほの暗い魅力も。主役のバニラのさまざまなファセットを引きだしながら、セクシーな旋律を放ちます。
パッケージデザインはトーンオントーン。肌を想起させるクリームベージュがシックです。ボトルの内側にはマット塗装、外側には蜂蜜色のトップコートが。正面のラベルはキャメル色と、ベージュの繊細なグラデーションは、素肌に触れるときの体温や崇高さを感じさせます。
アンバー系でも三者三様。いずれも心地よい重厚さやセクシーさがあるからこそ、ショートヘアでバランスを取ってギャップを狙ってみたい、なんて思うのです。
初夏に向かう今だからこそ、アンビエント系の軽い香水に無難に走らず、深みのあるアンバーに挑戦してみる価値アリ。見えてくる新しい景色があるはずです。