2016.07.10

“穴の底”という秘境、雨宮まみさんの本のお話 深夜のこっそり話 #637

台風がくるとものすごく怖いのですが、子どもの頃はメアリー・ポピンズのように風にのれるのではないかと雨の中で試していました。ある日は風が傘をさらうようになびき、身体が持ち上がる前に手を放してしまい4車線の中央まで傘が飛んでしまって、たいそう叱られました。しかし、心の中では今日は成功できたのではないかと、かなりいい線の失敗だったと隠れてガッツポーズ。浅はかですが、そんな頃もありました。

 そんな思いを忘れかけている今、行きたいところがあります。傘で飛び、ポトンと好きなタイミングで入ることができる(と勝手に想像している)、“穴の底”という、人生相談室。そこはある種の瞑想ルームのようで、心のリミッターがはずれ、日頃はなかなか口に出せないもやもやとした気持ちが不思議と言える(投稿できる)、WEB上の空間です。時に強いお酒だったり、ハーブティーだったり、その人を癒す飲み物が用意されます。そこには切実な愚痴を真面目に聞いてくれる、雨宮まみさんという、聞き手のママがいます。ベンチ、あるいは古田選手か、というくらいの名キャッチャー。投稿した人の行間の気持ちをもとりこぼしません。

 「真面目」には、“嘘や偽りでないこと”という意味と、“真心をこめること、誠実なこと”という意味があります。嘘や偽りのない気持ちで語られる想像を越える愚痴に真心をこめて答えてくれる場所。そこに正論をおしつけたり、断罪などは存在しません。日常では言いにくい、悪い意味ではなく、あきれるくらい悩み抜いた愚痴とその人の気持ちに寄り添う、ふむふむと唸るような目鱗のメッセージがつまった本に触れてみてください。

 まぁとにかく、今、そしてこの先の自分とまわりにいる人のためにひとつ読んでおいて損はありません。“穴の底”はいつでもオープン。雨宮さんの人生相談を1度でも読んだ事のある人は、待っていてくれるママの存在に励まされ、荒波も荒波でいいじゃんと思えたりして、窮屈さから開放されるのでは。そして、悩んだ時にその事を思うと、心が軽くなれるはず。(エディターT

 『まじめに生きるって損ですか?』 雨宮まみ著/ポット出版

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エディターTARUI

気づいたらメガネやサングラスを集めてました。しかし、何年か寝かせてからかけるという癖あり。ひとりっぷ®修行中。セレブやK-POPを語りがち。

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