日本語で「フェティッシュ」と聞くと、何かいかがわしいイメージをしてしまいがちですが、本来この言葉には盲信的崇拝物という意味があります。
理由なくとも、無条件で惹かれるもの。何となく好き、ではなく、これじゃないとダメというもの。私にとってフェティッシュと呼べるもののひとつに、セルジュ・ルタンスの香水があります。
セルジュ・ルタンスといえば、80年代に資生堂のグローバルイメージディレクターとして活躍し、現在では自身のフレグランスブランドでも広く知られています。もともとヘアスタイリストであった彼は、その後メイクアップアーティスト、商品開発、キャンペーンのビジュアルディレクションからプロップ制作、コマーシャルの監督まで、全て自身で作り上げるという驚異的なマルチタレントを発揮した稀代のクリエイターです。
ファッション関係者やクリエイターを中心に、コアな人気を誇るセルジュ・ルタンスの香水。しかしながら、その香りの多くは非常に複雑で難解。その上取り扱う店舗が極端に少なく、ルタンス氏の天邪鬼な性格ゆえか、新作の発表頻度も不定期。要するに、いわゆるモテ香水とはほど遠い、玄人向けのものばかり。にもかかわらず、彼のファンが後を絶たないのは、香りそのものが魅力的なだけでなく、自身の感性、ないし「フェティッシュ」に忠実である、彼のフィロソフィーに共感する人が多いからに他なりません。
香りの好みや、感じ方は千差万別です。そして、香水を選ぶ観点も人それぞれ異なります。しかし、自分だけの「フェティッシュ」と呼べる香りを持っていることは、その人の生活、ないし人生をより豊かに彩ってくれることでしょう。
話は変わりますが、セルジュ・ルタンスは、マルク・ボアンの時代のクリスチャン・ディオールにてキャリアをスタートさせています。彼を含む、ディオールのビューティークリエイションの軌跡を編纂したアートブック、『アート オブ カラー』のエキシビション「ディオール アート オブ カラー展」がローンチ。2018年4月21日(土)まで期間限定で開催中です。
現在、ディオールのメイクアップ クリエイティブ&イメージ・ ディレクターを務めるのは、ピーター・フィリップス。前回の来日時インタビューをした際の、あるコメントが印象に残っています。「ソーシャルメディアによって、ビューティーの定義は大きく塗り替えられた。こうでなくてはいけない、といった既存のルールではなく、若い世代は、自分の直感に従って取捨選択している。その自由な感性にインスパイアされるんだ」。(エディターSO)