前回のコラムがかなりポップだったので、今回は趣味全開ネタをお届けします。少し前のことになるのですが、1月にスイスにて行われた「ジュネーヴサロン」に行ってきました。「ジュネーヴサロン」と言われても馴染みがない、という人のために簡単に解説すると、ものすごい時計が大集結するウォッチ&ジュエリーの祭典のようなもの。同じく高級時計の見本市に「バーゼルワールド」があり、諸々複雑なのですが、今回はバサッと割愛させて頂きます。興味ある人はウェブで検索して下さい。
目的はというと、ウォッチ特集の取材という名目なのですが、それよりなにより「本場で時計が見たい!」という衝動に駆られ、気づけばジュネーヴ行きのチケットを買っていました。
念願の「ジュネーヴサロン」初参戦。会場は、ジュネーヴ空港からほど近い、パレクスポと呼ばれる巨大イベント会場。規模感で言うとビックサイトみたいな感じ。会場には、明らかに裕福そう、もしくは時計に詳しそうな紳士淑女。観光気分でウキウキしているのは私くらいのものでした。
会期中、各ブランドのブースでは連日プレスカンファレンスが行われます。そこで登場するのは、見たこともないような独創的な作品たち。マーベルの映画に出てきそうな複雑機構ものから、見ているだけでドーパミンが出そうなジュエリーウォッチまで、まさにミュージアムピースの競演。有頂天でインスタグラム用の写真を撮っていると、ふと素朴な疑問が。この時計って、果たして便利なのだろうか。
職人が作る高級機械式時計や、世界に一つしかないジュエリーウォッチの多くは、必ずしも利便性を求めて作られていない、ということは理解できます。ただ、時計というテイを取っている以上、そこんとこ突っ込まれたらなんて返すのだろう、と脳内の天邪鬼が囁きます。時計ビギナーという立場を良いことに、ブランドの担当者に率直に聞いてみました。すると返ってきたのは、たった一言。「ただの趣味です」。
PRという立場上、なにかしら "それらしい" 答えを持ち合わせているだろうと予想していたのですが、思いがけないシンプルな回答に、不意を突かれました。しかし次の瞬間、心の中でこう叫んだのです。「ですよね!!」
効率ばかりが重視される現代。しかしミクロの世界でものづくりに励む時計職人、ジェムセッター、その他時計作りに携わる人たちにとって、効率がいいこと、便利であることは必ずしも最善のソリューションではありません。独創的であること、ものづくりに真摯であること、そして唯一無二であること。あらん限りの "無駄" を詰め込んだ小さな文字盤を眺めながら、無限のロマンに想いを馳せたのでした。
今週は締め切りが重なり、終電に揺られながらスマホのメモアプリでこの記事を書いていたのですが、そんな時は脳内の時計職人が顔を覗かせ、こう囁くのです。ああ素晴らしきかな、無駄のある人生。(エディターSO)