端折られていた女性を描く、シスターフッド落語 #深夜のこっそり話 #1572

落語を初めて生で聞いたのは2年ほど前。きっかけがあったわけではありませんが、なんとなく「見たことのないものを見てみよう」という気持ちで足を運んだのが始まりでした。まだ落語に関してはニワカ中のニワカではありますが、今日は今年あった出来事の中で最も心を動かされたといっても過言ではない、とある落語について話をさせてください。

林家つる子さんは、古典落語を新たな切り口で発信している落語家です。たまたまニュースで見たその活動がとても興味深く、「一体どういうことか、この目で見なければ!」ということで、先日行われた単独公演「林家つる子女子会」にお邪魔してきました。彼女が試みているのは、古典落語に登場する女性たちを描き直すということ。いや、描き直すというより、描かれていなかった“端折られていた女性たち”を主人公に、物語をアナザーサイドから語ることです。もちろん、話の筋やオチは元のままに。

来場者に配られたオリジナル扇子! あつ〜い夏に嬉しい一本ですね。
来場者に配られたオリジナル扇子! あつ〜い夏に嬉しい一本ですね。

この日上演されたのは、古典落語の中でも泣ける話として有名な『子別れ』という演目。とても長い噺なのでざっっくりまとめると、酒にも女にもだらしない夫は妻に愛想をつかされ、子と共に家出されるが、改心して復縁できたというストーリー。通常は夫側の視点で語られますが、つる子さんは出ていった妻側の視点で物語を進めます。

働きながら女手一つでやんちゃ盛りの子を育てる苦悩や、“世話を焼いてもらっているから”と自由に物申せない微妙なご近所関係、「新しい男でも作りなよ」というありがたいんだが正直うざったい助言、「別にもう好きじゃないけど」と前おいた上での夫との甘酸っぱい思い出話などなど……。時代設定は昔かもしれないけれど、出てくる人や抱える悩みは「あるある!」と思わず首をぶんぶん縦に振ってしまうものばかり。会場内はどっと笑いが起こったかと思えば啜り泣く声が聞こえてきます。同じ空間にたまたま居合わせた、年齢も立場も異なる女性たちが、それぞれの背景と重ね合わせながら感情の起伏を共にする……。笑い声と泣き声で繋がるシスターフッド! この空間最高! と、心の中で隣の人と肩を組みました。

暑さにやられてか、元々トンチンカンなのか、うっかり2時間早くきてしまったので会場近くの喫茶店で休憩。フライドポテトにココアを合わせるハイカロリーおやつをいただきましたが、泣いて笑って、カロリー消費できた気がします(気のせい)。
暑さにやられてか、元々トンチンカンなのか、うっかり2時間早くきてしまったので会場近くの喫茶店で休憩。フライドポテトにココアを合わせるハイカロリーおやつをいただきましたが、泣いて笑って、カロリー消費できた気がします(気のせい)。

つる子さんは演目に向かい合う時、登場人物の気持ちにとにかく感情移入するところから始めるそう。しかしある時、「描かれている女性の感情には共感できない」ということに気がついたのだとか。そりゃそうだ、なんで浮気して人生狂わせた相手に頭下げて復縁願わにゃならんのだ!!

落語が生まれた江戸時代の背景を考えると、男性目線・男性主人公のストーリーが多いのは理解できます。しかし、時代は変わっていくもの。伝統芸能という無くしてはならない型はそのままに、現代を生きる私たちの目線から紡ぎ直すストーリーにすっかり心を奪われてしまいました。つる子さんのこの試みは現在進行形。上演の度に内容がアップデートされていくようなので、すでに次回が楽しみでなりません!

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エディターSATO

ネイルを塗っている時間が好きです。ポーチ、名刺入れ、スマホケースなど、ついピンクの小物を選びがち。臆病&やんちゃな黒猫2匹が相棒です。

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