春の京都でアートな散策。今年も【KYOTOGRAPHIE】に行ってきました #深夜のこっそり話 #1729

満開の桜が終わりを迎えると、「またこの季節がやってくるんだなぁ」と胸が高鳴ります。春の京都といえば、すっかり恒例行事となったKYOTOGRAPHIE。年に一度の国際写真祭が、今年も始まりました。京都市内の歴史的建造物や近現代建築を主な会場に、国内外のさまざまな写真家の作品やコレクションが展示される贅沢な1ヵ月間。京都ならではの建築と気鋭アーティストの作品とが見事に融合した空間は、毎年とても見応えがあります。

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11回目となる今年のテーマは「BORDER(境界線)」。それは、私たちが守るべきものであり、ときに勇気を持って越えなければならないもの。目には見えない境界線を、写真表現によってどのように可視化させるかというお題のもと、15人のアーティストによる作品が展開されます。

プレスツアーに参加して、街全体の空気感が去年までとは明らかに変わっていることを実感しました。外国人観光客で再び賑わう市街の光景は新鮮で、この3年間がなんだか幻のようにも感じます。2日間で大半のプログラムを見て回ったのですが、歴史とモダニティが溶け合う京都の街とアートとの親和性を、改めて肌で感じることができました。どれも心に響く内容でしたが、ここでは個人的に印象深かった作品をいくつかご紹介させてください。

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京都文化博物館別館に展示されているのは、キューバ人アーティスト、マベル・ポブレットさんの作品。ノスタルジックな建物と青い空間とのコントラストに引き込まれます。

明治期に建てられたクラシックな赤煉瓦建築の京都文化博物館別館。そこで開催されているのが、キューバ人アーティスト、マベル・ポブレットさんの展示『Where Oceans Meet』。キューバからアメリカへの不法移民が急増している昨今、移民問題は彼女の作品の中で重要な位置を占めています。

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断片化したイメージをピラミッド状の折り紙で表現した『My Autumn』シリーズより。

会場内を彩るのは、命がけで海を渡るキューバ移民にオマージュを捧げた作品の数々。「海との結びつき」を題材に、水に浮かぶ女性を表現した『My Autumn』シリーズは、よく見るとピラミッド状に折られた紙が幾重にも重なり、立体的に構成されているのが分かります。

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小さな鏡の断片が糸で吊るされていて、繊細な揺らぎを見せる『Homeland』シリーズ。

イメージを断片化させることで、心地よく水面を漂っているように見える一方、どこか物悲しさや虚しさも感じられる。不思議な揺らぎを見せるマベルさんの作品と対峙していると、儚くも力強い生命の本質を問いかけられているようでした。

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ビジュアルアーティスト、ジョアナ・シュマリさんによる、写真に刺しゅうが施された作品『I Choose Peace』(左)と『You Must Remember To Live』(右)。

枯山水庭園が美しい建仁寺の塔頭寺院、両足院に映えるのは、ジョアナ・シュマリさんが手がける色彩豊かなミクストメディアシリーズ『Alba’hian』の作品群。コートジボワールでフォトグラファーとして活動していた彼女は、2016年に母国で起きたテロ事件のトラウマをアートとして昇華させることを決意。じっくりと時間をかけて作品に向き合うべく、写真に刺しゅうを施すという独創的なアイデアにたどり着いたそうです。

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写真をプリントした布には、繊細なステッチが。

KYOTOGRAPHIEのアーティスト・イン・レジデンス(アーティストが一定期間ある土地に招聘され、そこに滞在しながら作品制作を行う事業)として、京都に滞在しながら制作を行っていたジョアナさん。コートジボワールの言語で「夜明けの光」を意味する本シリーズは、彼女の日課である早朝の散歩で目にした風景を撮影し、そこに自身の記憶や想像、湧き起こる感情を重ね合わせ、刺しゅうというかたちで表現しています。

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作品一点一点が木箱の什器の中に設置され、まるで浮いているように見えます。

長い時間をかけて、いくつもの薄い布のレイヤーを縫い合わせて完成する作品は、じつに繊細で幻想的。通常の写真にはない独特の質感と奥深さ、ポジティブなエネルギーに満ちています。作品のほとんどはジョアナさんの地元の風景や人々がベースになっているのですが、日本で生まれ育った私が見てもなぜか懐かしく、同時にとても穏やかな気持ちにさせてくれるものでした。自らを取り巻く環境すべてに優しい眼差しを向け、内なる声に耳を傾けられる彼女だからこそ、ここまで美しく、心に訴えかける作品を生み出せるのだと思います。

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「京都はとても居心地のいい場所。まるでホームにいるよう」と笑顔で答えてくれた、ジョアナ・シュマリさん。

ご本人から直接解説を受けることができたのですが、とてもチャーミングで明るい人で、一瞬で好きになりました(笑)。4月29日には会場の両足院で、ジョアナさんと副住職の伊藤東凌さんによるパネルディスカッションも開催されます。ぜひ足を運んでみてください。

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グッチやディオールなど、有名ブランドとのコラボレーションでも注目を集めるココ・カピタンさん。禅僧を目指す京都の学生たちの写真をバックに。

ジョアナさんと同じく、アーティスト・イン・レジデンスで京都市内に2ヵ月間滞在し、京都のティーンエイジャーを被写体にフィルムカメラで撮影したココ・カピタンさん。じつは私自身も“元京都のティーンエイジャー”なのですが、偶然にも母校で撮られた写真を発見し、会場内で静かに興奮! 「うちの高校の制服、こんなに素敵だったっけ?」と目を疑うほど美しく切り取られていて、勝手ながらご縁を感じてしまいました。

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重要文化財の静謐な空間に展示されている、高木由利子さんの『PARALLEL WORLD』。天井から吊るされた巨大なプリント作品は、裏から見ると障子であることに気づかされます。

圧巻だったのは、世界文化遺産である二条城 二の丸御殿台所・御清所を舞台に展開されている、高木由利子さんの『PARALLEL WORLD』。民族衣装を日常的に着ている12ヵ国の人々を40年にわたって記録した『Threads of Beauty』プロジェクトと、ディオールのために撮りおろした最新作を含む、1980年代~現代のファッションを撮影したシリーズとが、タイトルの通りパラレルに展示されています。

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ディオールのオートクチュールをまとった女性。息をのむ美しさです。

和紙やコットン紙、漆喰など、あらゆる素材にプリントされた作品のほか、特大サイズの迫力満点のデジタルプリントも。多彩な写真表現と歴史的空間とが織りなす相乗効果に、言葉にならない感動で胸がいっぱいに。衣服や人体を通して人の存在を撮り続けている高木さんの集大成を見たような、素晴らしいプログラムでした。SPURの公式インスタグラムでも詳しく解説されているので、あわせてチェックしてみてください。

まだまだ語りたいことはたくさんあるのですが、ネタバレしすぎないようにこの辺でとどめておきます。とにかくどのプログラムも必見。作品はもちろん、写真やアートに興味がなくても存分に楽しめる空間演出も見どころです。キッズ向けイベントや音楽フェスも同時開催中なので、近々京都旅行を予定している人は、ぜひインフォメーション町家の八竹庵に立ち寄ってみてください。KYOTOGRAPHIEは5月14日までの開催です。

エディターHAYASHIプロフィール画像
エディターHAYASHI

生粋の丸顔。あだ名は餅。長いイヤリングと丈の長いスカートが好き。長いものに巻かれるタイプなのかもしれません。

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