西加奈子さんの『くもをさがす』を読んでほしい #深夜のこっそり話 #1732

定期的にパトロールしているお気にいりの本屋さんがいくつかあって、4月19日頃その中のひとつで出合った一冊、西加奈子さんの『くもをさがす』。小さい書店の店内に暗い色のカバーが並ぶなか、この黄色が異彩な輝きを放ってました。

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『くもをさがす』西加奈子/河出書房新社

帯の「カナダで、がんになった。あなたに、これを読んでほしいと思った」という文字も、正直、あまり目に入らず手にとって、気づけば会計を済ませていました。ジャケオーラ買いとでもいうのでしょうか。

昨今の大人気ぶりをすれば、あの書店でも今は山のように積み上がっているかもしれません。その日は在庫3冊だったのですが暗闇にものすごい光を放っていたのです。

帰りの電車の中で、読み始めたのですが、これはじっくり落ち着いた場所で読もうと本を閉じました。11年前になりますが、同業の友の状況と重なりました。

「まさか私が」。

誰もがそう考えると思うし、その5文字にすがるように私も何回か唱えるでしょう。そして、先に書いた友の消え入るような小さく震える声を思い出します。

カナダの西さんの家に住みついていたくもに刺され、病院に行ったことから、発見された乳がん。そして宣告を受けた2021年8月17日から西さんの日記は始まります。

「私の体の中で、私が作ったがんだ。だから私は闘病、という言葉を使うのはやめていた。『病気をやっつける』という言い方もしなかった。これはあくまで治療だ。闘いではない。たまたま生まれて、生きようとしているがんが、私の右胸にある。それが事実で、それだけだ」。

本の中でもがんは怖いと書かれていますが、不安や戸惑い、涙や辛さも感じ取れるのに、必要以上の恐怖がなく淡々と語られていくことが、この本のすごいところ。文化の違うカナダでの治療を受けるまでの道のりや治療過程、サバイブした後のこと、そして支えてくれた友人や家族との関係も書かれています。

これは編集者だからかもしれませんが、腰が抜けそうに驚いたのが、カナダ人看護師さんたちの関西弁。それが違和感ないのです。海外の方のインタビューのテンションをどのように日本語訳にのせるのかが毎回かつ長年の悩みで、今も悩んでいます。具体的に言うと、カタカナで「アリガトウゴザイマス」と表記するとカタコト外国語を話してくれたテンションが伝わるかもしれませんが、それはちょっと違うと思っていたんです。

しかし、この本の中の看護師さんたちのネイティブ関西弁は、生き生きと我々読み手をそのシーンの中に巻き込んでいきます。「会話は受け手が感じたままに表現できるんだ(筆力があれば)」と思うと同時に「関西弁のパワーって、すごい!」とも改めて思いました。

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「良書のお供には特別な飲み物を!」ということで、ご近所にあるDIXANS ディゾン 九段下店へ。お気に入りのティーフロートを飲みながら読み返しました。バニラアイスが溶けるのを待ちながらちびちびアイスをつまみ、アイスが溶けてミルクティーになって飲むのがおいしいのです。

そして、著者の日記や他の書籍などから引かれた一文が、ちょうどお茶を一口飲むのによいタイミングで時折入り、思考や心情を深めるかのように置かれています。また、本の最後の引用ブックリスト前に添えられた引用本への熱いラブレターのような言葉も素敵なので、手にとって読んでみてください。担当編集から送られた本の数々を「ヨーコ・コレクション」と呼んでいたと書かれた一行も、積み重ねたふたりの深く温かい関係性が読み取れて、ぐっと胸にきます。

がんをサバイブしたストーリーですが、そこにはもちろんいつもの日常があり、読みすすめると、改めて自分をどんな環境に置くかが問われているようでもあります。自分の体は自分がボスなわけですから、体を置く環境を決めるのも私なのですよね。骨が折れそうなくらいの強いハグや毛布で包まれるようなやさしいハグ、押し付けがましくない、ただただ相手を思う美しい気持ち。そんな愛にまみれた一冊です。表紙の黄色のカバーをぐるっとはがしたら、毛布を超えたあふれんばかりの愛が隠されていました。イラストと「VOU♡ I LOVE MAMA」。最高です。

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エディターTARUI

気づいたらメガネやサングラスを集めてました。しかし、何年か寝かせてからかけるという癖あり。ひとりっぷ®修行中。セレブやK-POPを語りがち。

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