毎年この季節になると、スーパーで青梅を大量に買ってきて梅酒作りに励むうちの父、72歳。「お酒が好きなんですね、いい趣味ですね」って思うじゃないですか。まさかの下戸なんですよ。「じゃあ、お酒好きの家族のために? 素敵なお父さんですね」って思うじゃないですか。うち、家族全員お酒ダメなんですよ。つまり、作っても誰も飲めないからいっこうに減らないんです。実家の納戸の中で、真っ赤な蓋の手作り梅酒の瓶が年々増え続けています。
親戚やお客さんがうちに来ると、自家製梅酒コレクションを自慢げに披露する父。「これは10年もの。だいぶ熟成されてるからコク深い」「これは初孫が生まれたときに漬けたもの。高級な梅を使ったから風味がぜんぜん違う」「これは、なんと娘が生まれたときに漬けたもの。さすがに飲む勇気はないけど、捨てられなくてとってある」などと饒舌に語ります。自分は飲まないくせに。
「増えるいっぽうで、邪魔でしかない」と母にたいそう迷惑がられながらも、梅酒作りにこだわり続ける父は謎ですが、これをやれるうちは元気な証拠。だんだん応援の気持ちが湧いてきました。ズボラな私はこれまでまったく興味が持てなかったのですが、ついに今年になって「やってみよう」と思い立った自分がいることに、自分でもびっくりしています。2023年6月、人生初の梅仕事デビューです。
自分が飲めないものを作っても仕方ないし、年代ものにするつもりもないので、簡単に作れると噂の梅シロップに挑戦してみました。まずは青梅を調達するところから。部屋に梅があるだけで、こんなにいい香りが漂うんですね。それだけでも十分満足してしまいそうになります。このままルームフレグランスとしてずっと置いておきたいくらいですが、すぐに熟してしまうので買ったその日に取り掛かります。
ネットで検索するといろんなレシピが出てきましたが、なんてったって初心者なので、まずは冒険せずシンプルに氷砂糖で作ってみることに。作り方は、やはりシンプル。ですが、梅仕事は丁寧な下ごしらえが肝心で、これにはちゃんと時間をかけなければいけません。青梅を水でよく洗い、水気をきっちり拭き取ったら、ひとつひとつ竹串を使ってヘタを取り除いていきます。ヘタをきれいに取ることでえぐみがなくなり、爽やかな味わいになるんだとか。ここで、私のズボラが発動。長男をうまくのせて手伝ってもらいました。普段ぜんぜん言うことを聞いてくれないけど、こういうときはなかなか頼りになる5歳児です。
下ごしらえが終わったら、アルコール消毒した保存瓶に青梅と氷砂糖を交互に入れていくだけ。日の当たらない冷暗所で保管し、1日2回ほど瓶をゆすって、溶けた氷砂糖を梅に馴染ませます。数週間後には、梅がしわしわになってシロップの完成。我ながらうまくできました!と言いたいところですが、まだ作り始めて数日しか経ってなくて……。味の感想をお伝えできないのが残念ですが、思っていたよりも簡単なうえに、子どもと一緒に楽しんで作れるのがいいですね。
憂鬱な梅雨の時期に、ひとつ、楽しみが増えました。梅酒作りにこだわる父の気持ちも、ここにきてようやく理解できた気がします。これからもずっと元気で、作り続けてほしいものです。誰も飲めないけど。