出産してしばらくの間、「うつわのある暮らし」からは遠ざかっていました。食卓の主役は、割れないプラスチック製のコップと、万が一割れても踏ん切りがつく市販の耐熱皿。外出先で作家さんの素敵な陶器にバッタリ出くわしても、「今はまだ我慢……」と泣く泣く素通りする日々でした。
とにかく何をしでかすかわからない、予測不可能すぎて一瞬たりとも目が離せなかった長男も、気がつけばもうじき小学生。この数年でずいぶん落ち着いてくれました。おかげでお気に入りのうつわが割れて悲しい思いをすることもほとんどなくなり、じわじわと「うつわ熱」が再燃しています。
繊細な手仕事に心奪われた、増渕篤宥さんのマグカップ
最近毎日愛用しているのが、宮崎県で作陶されている増渕篤宥さんのマグカップ。京都市内にあるうつわ店「ものつき」で出合い、その美しい佇まいに心惹かれて、ペアで購入しました。深みのある黄色い釉薬に、繊細な幾何学模様の装飾。すっきりとモダンでありながら、昔おばあちゃんの家にあったプレスガラスのようなレトロな趣もあって、どこか懐かしさを覚えます。
精緻でリズミカルな装飾は、なんとすべて手彫り。よく見ると手仕事ならではの揺らぎがあり、それがたまらなく愛おしいんです。文様部分に指で触れると、ほんの少しだけ彫りの凹凸を感じられるのですが、その凹凸が釉薬で埋められていて、可能な限り平坦に仕上げられていることがわかります。控えめながら、じつはすごい技巧が凝らされている。その謙虚さにもグッときます。眺めているだけで、心が整うような気がするんです。
考え抜かれた機能性と、飽きのこないデザイン
ぽってりと丸みのあるシルエットもチャーミングで、使うたびに愛着が増していきます。飲み物がたっぷり入るので、デスクワークのお供にも最適。取っ手が大きくて握りやすく、ずっしりくる感じもありません。程よい厚みがあって扱いやすく、口が広くて洗いやすい。機能面もしっかり考え抜かれているので、毎日ストレスなく使えます。
仕事の合間に、このマグカップで淹れたてのコーヒーを飲むのが至福のひととき。飲み口に触れるたび、手作りのぬくもりも伝導してくるようで、心の芯からあったかくなるんです。ひとりのときも、誰かとともに過ごすかけがえのない時間にも、そっと寄り添ってくれる。増渕さんの作品に、もっと出合いたくなりました。
手作りのうつわとの出合いは、一期一会。「また今度」と思っても、次また出合える確率はかなり低い。そのときそのときの出合いを大切に、これからも少しずつ、マイペースにお気に入りを増やしていけたらいいなと思っています。