水に浮かぶ【佐川美術館】で、感性が磨かれる体験を #深夜のこっそり話 #2059

遡ること約3ヵ月前の夏の休日、どこか自然のある広い場所でのんびりしたいねということになり、滋賀県守山市に行ってきました。琵琶湖の湖畔をドライブしつつ、向かった先はそのほとりにある佐川美術館。“水に浮かぶ美術館”としても知られていますが、実際に足を運んでみてその建築美に胸を打たれました。とても素敵だったので、ここで紹介させてください。

琵琶湖の湖畔に佇む、自然と調和したモダン建築

佐川美術館の外観
水に浮かぶように佇む、佐川美術館の本館南棟。

開館したのは1998年。名前でピンときた人も多いかもしれませんが、あの佐川急便株式会社の創業40周年記念事業の一環で設立された美術館です。アートに造詣の深かった創業者の思いを受け継ぎ、琵琶湖をのぞむ自然に囲まれたこの地に建てられたそう。

「あれ、ここも琵琶湖だっけ?」と思うほど、敷地の大部分には水が張られています。遠目から見ると、美術館の巨大な建物が水に浮かんでいるように見えるんですよ。勾配のある大きな屋根の下に柱が規則正しく並ぶ、ミニマルで迫力のある外観。吸い込まれそうな青空とのコントラストも圧巻でした。ただぼーっと眺めているだけで、別世界へタイムスリップしたような感覚になります。

佐川美術館の通路の隣に広がる水庭
水庭にある蝦夷鹿の彫刻(見えにくくてすみません)は、彫刻家の佐藤忠良の作品。1972年に札幌で開催された冬季オリンピックを記念して制作されました。

エントランスから本館入り口まで、通路が真っ直ぐに延びています。通路の脇すれすれまで水が張られているので、水庭を歩いているような気分に。ゆらめく水面を見ていると、心が洗われるようでした。

四季のうつろいごとに異なる表情を見せる

佐川美術館内に設けられた水庭
館内にも水庭が。さざなみに太陽の光がキラキラと反射し、引き込まれました。

館内にも静謐な水庭が設けられ、その真ん中には彫刻家の佐藤忠良による「冬の像」があります。私が訪れたのは真夏でしたが、彩度の低い冬空のもと、ほんのり雪化粧をまとった姿も美しいだろうなと想像しました。

佐川美術館では佐藤忠良の作品のほかに、日本画家の平山郁夫や陶芸家の樂吉左衞門という日本美術界を代表する作家たちの作品を数多くコレクションし、常設展示しています。

そして、水面の下にも展示室が

佐川美術館別館の地下ホール
地下ホールには非日常的な空間が広がります。

本館だけでなく、別館もかなり見応えがあります。水庭に潜り込むように階段を下りていくと、地下には異世界が広がっていました。水面下に埋設された静かな別館には、安土桃山時代から約450年続く樂家の当主、樂吉左衞門のうつわの展示室が。中は撮影できなかったのですが、この地下空間がとびきり洗練されていました。しかもこの別館、十五代樂吉左衞門、樂直入氏自らが設計創案・監修したそうです。

地下ホールを別角度から撮った写真。木のベンチが並ぶ
天井の高い地下ホールには木製ベンチが。

コンクリート打ちっ放しの壁には、杉板の型枠が使われています。壁の表面に木目模様が転写され、コンクリートなのに独特のあたたかみを感じました。フロアにはバリ島の古材を使ったベンチが並びます。伝統文化とコンテンポラリーな感性が融合した、斬新な空間演出。ここに腰掛けているだけで自分自身とじっくり向き合えそうな、内省的で心地よい時間が流れます。

地下ホールの天窓から差し込む光
時間によって違った表情を見せる光。正午ごろになると、揺らぐ光が滝のように降りそそいで見えるそうです。

何より心を奪われたのは、地下ホールの天窓から落ちるこの光。たゆたう水面が影となり、ホールの壁や床にゆらゆらと反射するんです。時が経つのも忘れて、いつまででもここにいたいと思うほど没入感がありました。

別館の茶室
水庭に浮いているような茶室も樂直入氏による設計です。見学は事前予約制。

光と影を巧みに操る佐川美術館の建築は、それ自体がひとつの大きなアート作品といえます。自然豊かな守山の景観と調和するモダンな建物に、貴重な美術品が息づく唯一無二の空間でした。常設展以外に、企画展も定期的に開催されています。関西方面へお出かけの際は、ぜひ旅の計画に入れてみてください。

佐川美術館
場所:守山市水保町北川2891
電話番号:077-585-7800
開館時間:9時30分~17時(最終入館は16時30分まで)
休館日:毎週月曜日(祝日に当たる場合はその翌日)、年末年始

エディターHAYASHIプロフィール画像
エディターHAYASHI

生粋の丸顔。あだ名は餅。長いイヤリングと丈の長いスカートが好き。長いものに巻かれるタイプなのかもしれません。

記事一覧を見る

FEATURE