ル ラボと共に、世界旅行へ
15都市の限定フレグランス
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LE LABO
ル ラボと共に、世界旅行へ
15都市の限定フレグランス
MYRRHE 55
今回新しく加わった、上海をテーマにした「ミルラ 55」。私が訪れたのは15年ほど前で、古いもの・新しいものが混在する宝箱のような街だった。世界最高峰の大都市だけれど、どこがノスタルジックな魅力を感じるのはなぜだろう。まぶたに浮かぶのは、『ふたりの人魚』(’00)という映画。かすみがかったフィルムに映る90年代の街は、蘇州河が夕日に照らされて、ゆったりと、でも刹那的な時間が流れている。ディープでアンダーグラウンドな光景だったけれど、この上なく詩的で抒情的だった。15年前はまだその面影を残していたけれど、今はすっかり大都会になっているのだろうか。
そんな上海のためにつくられた 「ミルラ 55」の香りを例えるなら、まるで映画『花様年華』(’00)のマギー・チャンそのものだ。クラシックでエレガントな佇まい、後ろ姿から匂い立つような色香。決して生々しくなく、知性まで感じる……そんな彼女を彷彿とさせる。ほのかに甘くスモーキーなミルラに、ジャスミンの花々がエキゾチックな色合いを添える、上品で洗練された香り。かといって古典的な印象にはとどまらないのも、上海のシティ エクスクルーシブならでは。ミルラの革新的なブレンディングからは、そびえ立つ摩天楼や、ネオンライトが目に浮かぶような、都会的なムードも漂う。まるで電流が体を駆け巡るように、ダークで美しい香り。その忘れがたい鮮烈さは、束の間、記憶の中の上海へ連れて行ってくれる。
ミルラ 55 オードパルファム ¥69,850(100ml) ※2023年9月時点価格。
VANILLE 44
話は戻るが、前述の親友と予定していた行き先は、パリだった。フランス映画に傾倒していた私たちは、街もカルチャーも、人々の生き方や考え方にも、並々ならぬ憧れを抱いていた。
パリは“愛と官能の街”と言われるけれど、「愛し合っている者同士には、パリも狭い」……こんな一節をご存じだろうか? 旅の途中、ひとりで歩いていて街角で見つけた落書きに、そう記されていた。こんな洒落たことをする人間がいるなんて! と驚愕。何の引用なのか必死に調べたけれど、なかなかヒットせず。詩人でもあるジャック・プレヴェールが脚本を出がけた映画『天井棧敷の人々』(’45)に出てくるセリフだと知ったのは、ずっと後のことだった。
「ヴァニーユ 44」には、そんな愛の街の魅力が詰まっている。ベースにあるのは、まるで体温を感じさせるかのように温かなバニラ。トップにさりげなくオレンジを添え、軽やかな序章からはじまる。そして徐々に、その奥にあるアンバーやウッディノートが、静かな包容力を醸し出す。
それはまるでカシミアのセーターを、素肌にまとったときのような、柔らかさ。そして、甘やかな高揚感。画家の甲斐荘楠音は、“肌香”とかいて“はだか”と読んだというけれど、まさにその表現がぴたりとはまる。肌と肌のふれあいの間にある、親密でひそやかな空気感をそのまま閉じ込めたかのような「ヴァニーユ 44」。と言うとセンシュアルすぎる? たしかに、これはパリ限定にしておくべき香りかもしれない。
ヴァニーユ 44 オードパルファム ¥69,850(100ml)※2023年9月時点価格。
CITRON 28
憧れの都市と言えば、私は最近韓国カルチャーに夢中だ。サラサラの髪に、透き通っ た肌、キレッキレのダンスとボーカル。なぜ彼女たちはあんなに輝いているんだろう。
ヘアスタイルを真似て、ワンレングスのロングヘアにしていた時期もあったけれど、あまりに髪が傷んで全く同じと思えないので、ばっさりボブにしてしまった、という悲しい逸話も持っているほど。
音楽から映画まで世界を席巻し、今まさに最先端の街・ソウル。ル ラボが表現するならば、どんな香りになるのだろう。「シトロン 28」は、単なるレモンの香り……とは言い難い、複雑さを秘めている。鼻にした途端吹き抜けるのは、シトラスの爽やかな風。でもその後ろからシダーやジンジャーが顔を覗かせ、ジャスミンが甘やかなハーモニーを奏でる。確かに、ソウルで多く見るオレンジ色のレンガと水色の窓ガラスの建物に、明るい太陽が降り注ぐ、初夏の街並みが脳裏に浮かぶ。
爽やかだけれど胸を締め付けられるような、まるで初恋を思わせるような香り。胸がドキドキする一進一退の恋路を描く、韓国ドラマみたいでもある。トップノートからラストノートまで、どんな恋の物語を繰り広げよう? 調香師がどんな想像を込めたかはわからないけれど、こうやって自分なりの妄想を膨らませるのも、香水の楽しみ方の醍醐味なのだ。
シトロン 28 オードパルファム ¥69,850(100ml) ※2023年9月時点価格。
MUSC 25
普段から“妄想力”は人一倍旺盛なタイプだが、「ムスク 25」も空想を掻き立てる。ロサンゼルスを舞台にしたこのフレグランスは、ピュアなムスクやコットンに包まれる、幸せなオープニングから始まる。きっと、天使のほっぺたからはこんな匂いがするんだろうな、と思ってしまうくらいに純粋な印象。けれど時間が経つにつれて、ベチバーやアンバーグリスがダークな一面をのぞかせる。まるで禁断の地に足を踏み入れていくかのような背徳感すら感じる、二面性を持つ香りだ。
私は実際に行ったことはないが、ロサンゼルスを表現するには少し意外な印象。ビーチに降り注ぐ日差しや、明るく乾いた空気といったものを想像してしまう。けれどそんな短絡的なストーリーで終わらないのも、ル ラボならでは。
例えるならば、ハリウッドの街の光と闇が描き出されているよう。映画『ラ・ラ・ランド』(’16)の悲しいすれ違いのように、華やかな表舞台の裏の苦しみまで感じさせる。夢を追うものたちに、天使は微笑むのか? そんな問いかけのようでもある。天真爛漫さと残酷さが表裏一体となった笑みのように、「ムスク 25」は心をとらえて離さない。
ムスク 25 オードパルファム ¥69,850(100ml) ※2023年9月時点価格。
TUBEREUSE 40
実際に訪れたことはなくても、「その都市らしい!」と直感できるフレグランスがあるとしたら、それはきっと「チュベローズ 40」だ。チュベローズをふんだんに使いながらも、上品なベルガモットやオレンジフラワーの爽やかな印象で幕を開ける、ニューヨーク限定の香り。その後ゆるやかに、ウッド/フローラルのミドルノートへ移行する。まさしく、マンハッタンのビル街を颯爽と歩くキャリアウーマンが目に浮かぶよう。ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』シリーズや、映画『プラダを着た悪魔』(’06)など、ニューヨークを舞台に描かれる女性たちは、恋も仕事もファッションもいつも全力投球でかっこいい。
ただ、そんな完璧な彼女たちに気後れしてしまう私が大好きなのは、映画『フランシス・ハ』(’12)の主人公。ブルックリンでバレエダンサーを目指している彼女は、親友とルームシェアをしながら、うだつが上がらない日々を過ごしている。周りは次々と人生を成功させているのに、自分は悩みばかりで全然うまくいかない。相談したくても、なかなかできない。その葛藤のリアルさと、悩みながらも「なんとかなるや」と適当な感じがとても良い。ちょっとずれていて、自由奔放で、全てが見切り発車だけれど、それでも前を向く彼女に勇気づけられる。
話が脱線してしまったが、「チュベローズ 40」の華やかさと、底にある力強さからは、ニューヨークに生きる女性のエネルギーを感じる。見た目の美しさだけじゃない、がむしゃらな頑張りや芯の強さ。友達と支え合いながら、楽しく、逞しく生きていく姿。そんな彼女たちにふさわしい香りだ。自分で自分を鼓舞する時に、つけたくなるフレグランスかもしれない。今日は一人で悩んでいたとしても、この香水を身にまとうだけで元気づけてくれるお守りみたい。そんなパワーを、ニューヨークから届けてくれる一本だ。
チュベローズ 40 オードパルファム ¥69,850(100ml) ※2023年9月時点価格。