インスタグラムのフォロワー数約50万人、YouTubeチャンネルの登録者数は30万人超え。起業家にして二児の母で、ゲランのメイクアップ クリエイティブ ディレクターも務めるヴィオレット。コレクションごとに新しいゲランの世界観を創造するエモーショナルで才能豊かな彼女に、仕事から美容、フィロソフィー、子育てまで、広く深く語ってもらった。
ゲラン メイクアップ クリエイティブ ディレクターヴィオレット
フランス出身。ディオールのメーキャップデザイナー、エスティ ローダーのグローバルビューティディレクターなどを経て、2021年より現職。ほかに、自身のブランド「VIOLETTE_FR」も起業し、YouTubeやインスタグラムでも美容情報を発信。プライベートでは中国人の夫との間に2人の子を持つ。
ブランドの心拍数を上げることが私のミッション。 ゲランの素晴らしさが再評価されることが嬉しい
——まずは、これまで錚々たるアーティストが名を連ねてきた、歴史あるブランドの要職に抜擢されたときの気持ちを教えてください。
「ゲランは国の歴史と結びついている偉大なブランドです。とても光栄であるとともに、やるのであれば気を引き締めないと、という緊張感はありました。実は話をいただいたタイミングが、私自身のブランドを立ち上げたばかりで、しかも第一子を出産して間もないとき。伝統あるブランドに再び光を当てるというミッションを成し遂げられるだろうか、と。でも、ディスカッションを深める中で、私はゲランと恋に落ちました。このメゾンと仕事をしたいと心から思えたのです」(ヴィオレット、以下同)
メイクアップに賞味期限はありません。 国境も年齢も超えて、多様なターゲットに届けたい
——2022年秋にメイクアップ クリエイティブ ディレクターとして初めてのコレクションを発表。大成功を収め、新しいファンも獲得しています。
「私がどうこうではなく、ゲランの素晴らしさが世界で再評価され、ブランドの心拍数が上がったことがとにかく嬉しいです」
——ゲランは比較的成熟した世代のファンが多い印象です。ご自身のクリエイションでは、その点について意識していますか?
「確かに、これまでのゲランはマチュアな女性たちに愛されてきました。でも、成熟した大人の女性がブルーのアイシャドウをつけているのも素敵だし、美に関して年齢は関係ない、賞味期限はないと思っています。私のクリエイションは、誰か1人に話しかけているわけではありません。年齢も国籍も超え、多様なターゲットに向けて提案したい。すべての人に“自分も楽しめる”と感じてもらうために、時間をかけて精緻に調整しています」
——アイテムについてお聞きします。昨秋は鮮やかで刺激的な色が溢れていたオンブル ジェが、今回は一転してヌード系に。そこにはどんな思いが込めているのでしょう。
「デビューコレクションは、ゲラン・イズ・バック!というブランドのメッセージを発信するために、強いものである必要がありました。でも今回は、ありのままの自分を讃え、気負わず手に取れる、親近感やウェルカムな気持ちを表現。とはいえ単なるキュートではなく、大胆さやスパイスも秘めています。ファッションのように肌やリップとのスタイリングを楽しんで自分らしく仕上げてほしい」
——新製品の中で、特にお気に入りはありますか?
「難問ですね。自分の子供から1人選べと言われるようなものだから(笑)。すべてのアイテムを愛していますが、どうしても1つ、というなら、オンブル ジェのNo.258 ワイルド ヌード。自分自身を受け入れる柔らかさがありつつ、プライドを持つ大切さを感じさせるアイパレットです」
日本の伝統や芸術も好き。 茶道の世界に触れ、泣いてしまったほど
——ヴィオレットさんの、創作のインスピレーションソースを教えてください。
「アンリ・マティスと、マーク・ロスコ(アメリカの画家)は、いつだって私の創造力に大きなヒントを与えてくれます。そのほか、ジャン・コクトーの『美女と野獣』やベートーベンなどのクラシック音楽からも影響を受けたり。ゲランは美のオートクチュールブランドなので、クリエイションの過程では、デザイナーのように絵の具を混ぜ、布のサンプルも参考に。日本の伝統や文化、芸術も好きです。村上春樹とか草間彌生とか。先日は茶道を体験し、すべてがアートで、ネガティブな感情を浄化するような崇高な世界観に感動して泣いてしまいました」
——私たち以上に日本の美しさを知っているのかも…。アートスクール出身という経歴も今の仕事に影響を与えていますか?
「もちろん、学びすべてが生きています。理論やテクニックだけでなく、哲学も含めて。芸術は判断するものではない、すべてが美しいという考え方は、ビューティにも通じるものだと思っています。存在するだけで誰かに何かを感じさせることができる。私たちはひとりひとりがアーティストであり、ミューズなのです」
育児と仕事で自分の時間はなく、むくみやクマも。 でも無限の愛が私のエネルギーになっています
——ヴィオレットさんがゲランの仕事を始めたときは第一子を産んだばかりで、最近第二子を出産されました。仕事と子育ての両立で大変なこと、また得られたものは?
「自分の会社のCEOも務め、夫という大きな子供もいるので(笑)、毎日本当に忙しい。自分の時間がとれず、肉体的には消耗します。でも1人目の子供を産んだときに、スーパ
ーヒーローのような誇らしい気持ちになったんです。子供たちからもらう大きな愛が、強いエネルギーになり、おかげでさらにタフになり、疲れを感じてもポジティブに前へ進む原動力に。また私は、ゲラン、会社、家庭、すべてに情熱=愛、があるのですが、情熱にあふれた人生を送れることをラッキーととらえています」
——子育て中は忙しくて、自分の美容は後回しになりますよね。
「実は、6ヶ月前に2人目を出産した後に、YouTubeで産後のビューティルーティンをアップしよう、ということになったんです。夜は2時間くらいしか眠れず、抜け毛が進み、むくみやクマが目立ち、しおれた花のようにぐちゃぐちゃな状態。鏡に映る自分を見て、もろく弱くなったような不安を感じ、せめてコンシーラーくらい塗りたい、と思いました。でも、私は新しい人間を産むというすごいことをやったばかり、クマも子供達からの贈り物。ありのままの自分を受け入れ誇りを持っていい!というフランスの精神が響いてきたのです。完璧じゃなくていい、というメッセージを伝えたくて、すっぴんで撮影に臨みました」
人に美しさを認めてほしいと思うと、終わらない戦いに。 ビューティは、自分の感情や物語を表現するもの
——最後に、プロダクトやSNSを通じて届けたい、美容哲学、メッセージを教えてください。
「ビューティは統計学ではありません。メイクアップは感情を表現するものだと思っています。私自身、今どういう気持ちか、どんな感情なのか、どういう物語を今日伝えたいのか、を考えながら毎朝メイクをしています。人から美しいと思われたい、人を喜ばせたいと願うと、終わらない戦いになってしまう。もっと自分自身に集中し、健全な形で自分を受け入れてほしいですね」
——自己肯定感が低く、自信を持てない人も多い時代。自分を受け入れるのは難しいものですが……。
「完璧に見える人だって、欠点もコンプレックスもあります。でもそこから気持ちを上向かせる方法はいくらでもあるのです。メイクアップもそのひとつ。違う人間に変身なんてしなくていい。自分に優しく、ありのままの自分を愛してほしいのです。肌にツヤを足し、目元の陰影を強調し、リップの色を変えるだけでも気分が変わる。“ビューティ”が自分のために正しく使われたときに、素晴らしいパワーを発揮することを感じてもらいたいですね」
【2023年秋新製品】シックで優しく、ビターなスパイスを秘めたヌードコレクション
ゲラン初、ナチュラルシェードだけで構成したリップ・アイシャドウが印象的な、「ルージュ ジェ ナチュラリー コレクション」。「あるがままの自分を受け入れ、讃えるというフランスの考え方を投影した、すべての人の個性に寄り添うコレクションです。ヌード=可愛い、ではなく、色味やピグメントを調整し、大胆でミステリアスな魅力も演出します」(ヴィオレット)