慣れ親しんだ食べ物の香りは、幸せな記憶を呼び覚ます、生活を豊かに彩る要素の一つ。今やさまざまなバリエーションで揃うグルマンノートを一堂に集めて。五感に響く饗宴を、堪能しよう
香りを味わうアフタヌーンティー
カクテルにサンドイッチ、ケーキにフルーツ、チョコレート。次から次へとおいしいものがサーブされるアフタヌーンティーになぞらえてグルマンノートをご紹介。優雅な午後のひと時を芳醇な香りとともに──
味わうという行為は味覚と嗅覚が揃って、初めて認識できるものなのです
コロナ禍という未曽有の体験を通して、それまであまり意識していなかった嗅覚への関心が高まった。嗅覚が失われると、食生活から味わうという楽しみが失われることを痛感した人も多いはず。産業技術総合研究所で味覚・嗅覚の研究を行う小早川達さんは次のように語る。
「そもそも味覚というものを舌だけで感じていると考えている方が多いのですが、それは違います。味わうという行為は舌の味覚と触覚、そして最初に鼻から入ってくる香りだけでなく、食べ物を飲み込んだときに喉から戻ってくる匂い、これらすべてが脳で感知されて初めて味を認識することになるのです。
味覚は基本的には酸味・甘み・塩み・旨み・辛みの5要素(辛みだけがさらに5バリエーションあり)から構成されるのみですが、嗅覚は受容体が400種に及び、それぞれが認識できる香りの分子が複数あります。つまり感知できる香りの種類はほぼ無限に存在するのです。それを瞬時に判断できるのが人間の嗅覚。私は嗅覚をAIは太刀打ちできないNI=ナチュラルインテリジェンスだと思っています。
また、おいしい香りは幸せな気分をもたらすことができるか?ということに関しては、食事をしているときは笑顔になる率が高いというデータもあるので、香りが幸福な記憶を呼び起こすきっかけとなることはあり得ることですね」
工学博士。味・匂いに関する基礎的研究から健康・医学分野、産業への応用まで幅広く研究。著書に『味嗅覚の科学 人の受容体遺伝子から製品設計まで』(共著)。
グルマンノート トレンドの系譜
1992年、キャラメリゼしたスイーツの香りの誕生とともにグルマンノートという新しい概念がフレグランス界に持ち込まれた。”おいしい”香リは人々を魅了し続け、そのバリエーションを増やし続けている
日本フレグランス協会常任講師。香水のイベントやセミナーのほか、パーソナルカウンセリングを行なっている。
料理とフレグランスのおいしいマッチング
レストランでフレグランスがNGというのは今や昔の常識。香りが強くなりすぎないようにつけこなし、料理に使われる素材をキーにしたグルマンノートを合わせれば、食事の場が華やかに
おいしい食事のお供こそグルマンノートを。つけ方と香りの相性を考えれば問題なし
食事の場にフレグランスをつけて行くのはNGとよく言われているが、最近は様子が変わってきているとフレグランスアドバイザーのMAHOさん。
「星つきの高級な寿司店などでも香りのついたおしぼりを出すところもありますし、レストランにフレグランスをつけて行くことが全面的にNGというわけではなくなってきたと思います。もちろん、上半身をプンプンと香らせすぎるのはいけませんが、腰から下にさりげなく香らせるぐらいであれば問題ありません。出かける1時間ほど前につければ、より安心です。
カジュアルな和食ならユズなどの爽やかな柑橘系、イタリアンならバジルなどのハーブ、中国料理なら幸せの花として中国で人気の高い金木犀、フレンチならワインと、各国の料理によく使われている素材を意識して選ぶと失敗がありません。ドレスアップする際に個性を演出するフレグランスは欠かせないものですから、華やかなディナーの席であればなおさら、供されるお料理に合わせたグルマンノートをコーディネートするといった遊び心があってもいいのではないでしょうか?」
嗅覚は記憶と密接な関係を持つという。TPOに合わせてうまくつけこなすことで、楽しかったひと時がより鮮明な記憶として刻まれるはず。