【エルメス】【ロエベ】【フレデリック マル】など、愛用香水をおしゃれな9人が厳選!

香りは一瞬にして、私たちを記憶の旅へと誘う。それは感情が揺さぶられた遠い日の思い出だったり、つい最近の何げない日常の瞬間かもしれない。人生に欠かせない一本を、フレグランスを愛する9人が語る。

香りは一瞬にして、私たちを記憶の旅へと誘う。それは感情が揺さぶられた遠い日の思い出だったり、つい最近の何げない日常の瞬間かもしれない。人生に欠かせない一本を、フレグランスを愛する9人が語る。

Versatile Paris(ヴェルサティル パリ)「キュロテ」

Versatile Paris  「キュロテ」
レモンを搾ったジャスミンティーのような香り立ちを、ワサビがピリリと引き締めるロールオンタイプの香水。パリの調香師集団Flair Parisが調香を手がけた。(15㎖)¥9,790/ART EAU

萬波ユカさん(モデル)

まんなみ ゆか●1991年、三重県生まれ。パリコレクションをはじめ数多くのランウェイを歩き、世界が注目するトップ日本人モデル。

小学生の頃から母親に憧れて、せっけん水に色をつけてオリジナル香水を作ったりしていた。思い入れが強い分、ほかの人と香りがかぶるのを避けたいなと思っていたとき、知人が突然「あなたに似合いそう」とプレゼントしてくれたのが、このフレグランスとの出合い。好みのど真ん中に刺さったのも初めてだったし、今のところ周囲の誰もこれをつけていないところも、お気に入り。ミステリアスで、ついつい「どこの?」と聞きたくなるような特別感がある。"ティータイム"というコンセプトから広がるのは、爽やかさもありながらどこかホッとする雰囲気。甘さがほとんどなく、ピリッとしたスパイシーさもあって、いつの間にか楽しい気分にさせてくれる。ロールオンタイプで、爪の先や毛先につけられるところも好き。私にとって香水は、思い出を閉じ込めて、ずっと大切に持っていたいもの。この香りから思い出すのは、雨続きだったロンドンの日々。古着店を巡ろうと帽子をかぶり、さっと肌に香水をまとう。石畳から立ち上る湿気をはらむ土の匂いと混じり合って、なんとも言えない余韻が残った。一度訪れた場所の印象が変わったり、また新しい場所に出かけたくなるのが、このパフュームの特別なところ。だから、日常生活でも旅行中も、いつも一緒に連れて行きたくなるのだ。

PARLE MOI DE PARFUM(パルル モア ドゥ パルファム)「フラビア バニラ」

PARLE MOI DE PARFUM 「フラビア バニラ」
ジューシーなピーチが弾け、バニラが甘やかにとろけていく。肌から心に忍び込むように、官能が匂い立つ。(100㎖)¥25,300/ブルーベル・ジャパン

ヒコロヒーさん(芸人)

ひころひー●1989年生まれ。バラエティ番組への出演のほかにコラムや小説の執筆など、幅広く活躍している。

20代の頃から香りに興味を持っていたけれど、香水は持っていなかった。芸人として稼げるようになったときに、「ずっと使えるようなものが欲しい」と思い購入したのが、パルル モア ドゥ パルファムの「フラビア バニラ」だ。特にお目当てだったわけではないけれど、買い物をしていたときに偶然出合い、直感的に惹かれた。引き続き頑張っていこうと、自分を鼓舞するために奮発したところもあったかもしれない。甘すぎずさっぱりしていて、使いやすくていいなと思ったのが最初の印象。数々のメゾンフレグランスを手がけていた調香師ミシェル・アルメラック専属のブランドで、一つひとつに物語があるところにも惹かれる。この香りのテーマは、誰をも虜にしてしまうような女性の残り香。キラキラと輝く黒い瞳を持つ彼女は、すれ違う人の視線を奪いながら颯爽と歩き去る。嫌みがなくて、男女問わずやわらかな人物像が思い浮かぶ、そんな香りだ。5年ほど前に手にしてから何本かリピートしていて、つい手が伸びてしまうお気に入り。休みの日に気分を上げるために身にまとったり、仕事から帰宅して癒やされたいときに、空間にシュッとひと吹きしたり。寝る直前につけて楽しんでも、リラックスできる。フレグランスはほかにも10本以上のコレクションがあるけど、これはずっと使い続けているひとつだ。

COMME des GARÇONS PARFUMS(コム デ ギャルソン パルファム) 「オードパルファム」

COMME des GARÇONS PARFUMS   「オードパルファム」
世界中のスパイスが鼻孔から脳天へと駆け上がる、一度嗅いだら忘れられない中毒的な香り立ち。(50㎖)¥16,500/コム デ ギャルソン

AYANAさん(ビューティライター)

あやな●SPURでも活躍しているビューティライター。コラムやエッセイの執筆のほか、化粧品のディレクターとしても活動。

コム デ ギャルソンが香水を発売する。1994年、当時読み耽っていたSPURでその記事を目撃した私は、横浜そごうに駆け出していた。"可愛いか、可愛くないか"の選択肢が主だった時代、川久保玲さんの姿勢はとにかく衝撃的だった。常識にとらわれず、反骨心にあふれる精神そのものが、自分の進むべき方向を教えてくれたような気がした。もともと外見に自信がなく、いわゆる「モテ」ではない「かっこいい」という生き方がしたいと、音楽やアート、インド文化、モードファッションに傾倒していた学生時代の自分。当時の理想が、このフレグランスには詰まっている。「スパイシー、ブラック、スパークリング、ヴォイド、ピュア」。この5つのキーワードをもとに、川久保玲さんが「自分自身のため」に調香を依頼したという香りは、クローブやカルダモン、シナモンなどのスパイスで、陶酔的に幕を開ける。その後ローズやサンダルウッド、ラブダナムが複雑に主張しはじめる。一筋縄ではいかない強烈な個性に、「憧れのブランドがこんな香水を!」と衝撃を受けた。自分が好きなものが融合していて、体現したい空気感そのものだったから。「私はこれでいい」と教えてもらった恩師のようであり、自分を肯定するための手段でもある。18歳で手にしてから欠かさず手もとにある、命綱のような存在だ。

EDITIONS DE PARFUMS FREDERIC MALLE「ポートレイト オブ ア レディー」

EDITIONS DE PARFUMS FREDERIC MALLE 「ポートレイト オブ ア レディー」
貴婦人の肖像という名にふさわしい、気品あふれるローズ。ラズベリーが甘酸っぱさを添え、サンダルウッドが重厚感を醸す。(100㎖)¥53,130/ブルーベル・ジャパン

中野香織さん(服飾史家)

なかの かおり●ファッションの中でも、ラグジュアリー領域やイギリスのロイヤル文化を中心に研究。香水の歴史にも明るい。

400本以上のターキッシュローズを贅沢に使った、まるで大輪の花束のような香水。もともと薔薇が大好きな私にこの一本を選んだのは、ほかでもない調香師のフレデリック・マルだった。彼が来日した際のイベントで、瞳をチラッと見て「あなたにはこれ」とすすめてもらったのだ。父親のものを仕立て直したというスーツを着こなす彼は、まさにパリの紳士そのもの。穏やかな口調の中に毒っけのあるユーモアが見え隠れし、チラリとのぞく黄色のカフスボタンがとてもチャーミングだった。時折店頭で接客し、会話を通してフレグランスをすすめるという彼。いわく、パリの本店はまるで教会の告解室なのだという。フランスらしい赤裸々な恋愛模様も語られるといい、「だから僕はパリの女性の秘密を全部知っているんだよ」とウインクをして教えてくれた。そんな彼が創り出す香水には、やはり人間の奥底まで踏み込んでいくような底力がある。薔薇がただきれいなだけでなく棘があるように、忘れがたい深みのある香り立ち。何周かしてようやく"薔薇色"になった人生のようだ。ローズ特有の王道感、ゴージャス感がありながら親しみやすく、時間がたつと温かい抱擁に包まれる。自分に自信を与えてくれる香りだ。まるで、私を守り、明るいところへ導いてくれる守護天使のように。

FRAMA(フラマ) 「St. Pauls オードパルファン」

FRAMA  「St. Pauls オードパルファン」
レモングラスやベルガモット、ラベンダーの軽やかな調べに、ウッディノートが重低音を奏でるハーモニー。(50㎖)¥19,800/doinel

築地雅人さん(doinelディレクター)

つきじ まさと●外苑前のショップdoinelのディレクター。工芸品からニッチフレグランスまで、感度の高いアイテムを扱う。

出合いは、コペンハーゲンにあるFRAMAのショップだった。もともと、家具や照明を手がけるブランド。古い薬局をリノベーションした店内は、クラシックな木目調の薬棚とモダンなインテリアが融合する場所だ。そこをテーマにつくられた「St. Pauls」は、シダーウッドやサンダルウッドのウッディノートにレモンがフレッシュな息吹を吹き込む。スタンダードでありながら新鮮さもあり、まさにその場に溶け合っていた。オーナーであるニルス・ストライヤー・クリストファーセンは、リック・オウエンスを着るような服好きで、気取らない自由な精神を持つ人だ。また、FRAMAのショップには、ワインバーやカフェを併設。インテリアから食、香りまで、ライフスタイルにまつわるすべてがリンクし、刺激し合う。そのシームレスなつながりが、新たなカルチャーを生み出しているのだ。そんなセンスを持つ彼が生み出す香りは、空間に溶け込むような穏やかさの中に、どこかファッション性が感じられる。癖のあるシトラスで変調を加えたり、今までのハーバルな香水にはない意外性があった。家にいるかのような落ち着きがありながらも、どこか遠くに行きたい気持ちにさせる。それが今の気分にマッチするから、最近の自分にとっての"オールタイム・ベスト"はこの一本だ。

LOEWE(ロエベ) 「001 マン」

LOEWE  「001 マン」
新しい一日を告げる、朝の光に着想を得た001シリーズ。森の中の陽だまりにいるかのように、心が澄み渡る。(100㎖)¥21,120/ロエベ パルファム

菅原美裕さん(ジュエリーデザイナー)

すがわら みひろ●シンプルでつけ心地がよく、世代を超えて愛せるジュエリー「LORO」「1117」のディレクター兼デザイナー。

もともと、ジュエリーデザインのインスピレーションを得るために香水瓶の収集を始めたのが、フレグランスに興味を持ったきっかけ。自分が勉強していたこととは違う世界を見てみたいと、ルネ・ラリックなどガラス作家の手がけたヴィンテージの作品に夢中になっていた。たとえばこのロエベ「001 マン」は、直線的でエッジのきいた外側のラインに対し、内側はソフトで丸い。メンズジュエリーを制作する際、女性デザイナーとして個性を出したいと思ったときのヒントになった一本でもある。そうして生まれたブレスレットは私のブランドの青山店限定で販売しており、この香水も、店舗のオープンという節目で購入したものだ。やわらかなムスクをベースに、イトスギの爽やかなウッディノートが溶け合う香りが広がると、今でもそのときの初心に帰るような気持ちになる。コロナ禍でのオープンという不安やプレッシャーと闘いながら、ジュエリーで生きていく道を模索している時期に、自分を鼓舞するためにつけていた。フレッシュでモダンで、オーラや個性を引き立ててくれる存在。それはまるで私にとって、ジュエリーのようなものでもある。コーディネートにエッジをきかせたいとき、そして今でも自分の気持ちを奮い立たせたいとき、そばにいてくれる力強い味方なのだ。

HERMÈS(エルメス) 「ナイルの庭」

HERMÈS  「ナイルの庭」
グリーンマンゴーやロータスが織りなすグリーンノートが肌になじみ、しっとりとまろやかに匂い立つ。(100㎖)¥20,350/エルメスジャポン

齋藤智子さん(アロマ調香デザイナー)

さいとう ともこ●天然精油にこだわり、国内外のホテルやブランドのアロマ空間演出や、美術館での創香など幅広く活躍。

「香りは言葉であり、香水は文学である」。調香をする上で大切にしているのが、この香りを手がけた調香師ジャン=クロード・エレナの言葉だ。本格的にアロマの勉強をしはじめて、思わずハッとさせられたのがこの一節だった。「自分だけの特徴を活かした強みを持ちたい」と模索していたとき、彼の香りづくりのあり方は、まさに自分の進むべき方向に感じられた。昔から本を読むことが好きで、小説からも香調のインスピレーションを受けていたので、深く共感したのだ。それから、自分でブレンドしたアロマを写真と文章で綴る活動を始めた。"香りを言葉で組み立てて表現する"ことは、今でも自分の原点だ。彼のつくるフレグランスはその意味でとても大切な存在だが、特に「ナイルの庭」は格別。情景を描いたパルファムというコンセプトも衝撃的で、その香り立ちにも一瞬にして心奪われた。湿度の高い熱帯の空気感そのもので、川から流れてきた風が庭の中に混ざり合っていくような景色が浮かぶ。心をスッと解き放ち、のびやかに呼吸できるような気持ちになるのだ。巡り巡ってもやっぱり戻ってきてしまう、自分にとってのバイブル。定点観測をするように、いつまでも持っておきたい作品だ。

THREE(スリー) 「エッセンシャルセンツ 05 AFTER THE RAIN」

THREE 「エッセンシャルセンツ 05 AFTER THE RAIN」
6月の、雨に濡れた大地を表現。スモーキーなウッドに、柑橘がほろ苦い爽快感を添える。まるで森林浴をしているようなすがすがしさ。(9㎖)¥5,390/THREE

菅原 敏さん(詩人)

すがわら びん●詩作や朗読を中心に活動するほか、アロマディフューザーやインセンスなども制作。国内外で高い評価を得ている。

もともとフレグランスはつけていたけれど、年を重ねるうちに、より自然を感じるものに惹かれるようになっていった。そのきっかけとなったのが、燃やすとレモンの香気が広がる詩集をつくったとき。尾道までレモンを収穫に行き、香りは本来、土に根差したものだと気づいた。そんな自分の最近のお気に入りは、まるで雨をまとうような感覚で身につけられる香水。雨にまつわる詩を朗読していたときにつけていたので、今も身にまとうと記憶の中のさまざまな情景を連れてきてくれる。バリ島でスコールに降られたときの、森に囲まれたプールの水に波紋が広がっていく様子や、雨上がりの鮮やかな空。幼い頃、祖父母の家の縁側で眺めたザアザア降り。都会の街中、傘の上で跳ねる雨粒の音。香りと言葉に導かれ、ぽつぽつと滴る雨のように、思い出の断片が蘇ってくる。まるで日々のいろいろを洗い流して、自分自身も浄化してくれるようなこの香りがそばにあると、心が深呼吸したような感覚になる。シダーウッドのウッディな気配と、ベチバーが醸す濡れた土のニュアンス。精油のみでつくられているゆえの軽やかさが、雨上がりの余韻のようにすっと空気に溶け込んで消えてゆく。日常に句読点を打つような感覚で生活になじんでくれるから、今の自分に一番寄り添うように感じられる。

Liquides Imaginaires(リキッド イマジネール) 「フルール ドゥ サーブル」、 OBVIOUS(オブヴィアス) 「アン ムスク」

Liquides Imaginaires   「フルール ドゥ サーブル」 OBVIOUS   「アン ムスク」
(左)ピリッとしたスパイスに、ミルラが神秘的なベールをかける。蠱惑的なローズ。(100㎖)¥28,600/NOSE SHOP(右)まるで洗いたてのふわふわのシーツに包まれるような、ピュアなフローラルムスク。(100㎖)¥19,800/NOSE SHOP

Flair Paris(調香師集団)

フレア パリ●アメリ・ブルジョワと、アン・ソフィー・ベヘゲルのふたりを中心とした、女性パフューマー5人による香りのクリエイティブスタジオ。勢いのあるニッチフレグランスブランドの調香を数多く手がけている。

アメリ・ブルジョワさん(左)

訪れたことのある土地を香水で再現したいと強く思っている。その点、調香を担当したこのフレグランスは特別だ。香りを作る上で表現したのは、「砂漠の薔薇」。果てしない時の流れの中でミネラルが結晶化し、燦然と輝く鉱石のことだ。石の香りや砂の音をどう表現しようか。私はいつも調香するときに、色や音色、質感をイメージしたり、さまざまな国の本や、自分自身の記憶をたどって空想を膨らませる。当時思い出していたのは、モロッコの砂漠の強い風や、中東の土地。砂の匂いや、砂粒がとても強い風でキラキラと体に当たる感覚を想像していた。地平線を照らす太陽のような色のボトルからほとばしるのは、スパイシーなペッパー。その灼熱の余韻を、パウダリーなアイリスが中心となり甘やかにまとめ上げる。色にたとえるならばゴールド。黄金に輝く砂漠のイメージそのものなのだ。砂時計の中に流れているような音、砂漠の交響曲。私にとっては、まるで旅を共にするような相棒だ。

アン・ソフィー・べヘゲルさん(右)

香料の中でもムスクは特別に大好きで、創作意欲を揺さぶられる存在。OBVIOUSのディレクターから「アン ムスク」の調香依頼が舞い込んだときに思い浮かべたのは、ふんわりとそこはかとなくミステリアスで、白い雲の中を歩いているようなイメージだ。ムスクをどこまでもシンプルでエレガントに表現しながら、リネンのようにピュアな温かさがある。試作を提出したときに、一度でOKが出たから、運命的なものを感じたことをよく覚えている。日常をいつも一緒に過ごしていたい、特別なソウルメイトのような一作。朝につけて、街中でも海辺でも、いろんなシーンで身にまとっている。軽くてゆったりとした、コットン素材のファッションと合わせるのがお気に入り。夜はフランス流に、シャワーを浴びたあと、服を着る前につけて。仕上げのアクセサリーとしてまとえば、いつもの通り道も、まるで夜空を散歩しているような夢見心地な世界へと連れて行ってくれるかもしれない。

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