香料のトレンドやマーケティング的観点、リテールの立場からフレグランスを語るプロが集結。現在のブームの裏の裏を知る3人にビューティエディターを加え、フレグランスの今とこれからを分析した
香料のトレンドやマーケティング的観点、リテールの立場からフレグランスを語るプロが集結。現在のブームの裏の裏を知る3人にビューティエディターを加え、フレグランスの今とこれからを分析した
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香料メーカー、フィルメニッヒ社で約20年キャリアを積み、現在はパフューマリースクール「サンキエムソンス ジャポン」を運営。
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日本フレグランス協会常任理事講師。香水のイベントやセミナーのほか、カウンセリングも行う。膨大な嗅覚のリファレンスの持ち主。

ニッチかつラグジュアリーなフレグランス専門のセレクトショップ「NOSE SHOP」を創業。現在の日本のニッチフレグランスブームの立役者。

取材歴30年。フレグランス企画を数多く手がける中で香水沼へ。現在、SPUR.JPで好評の連載「フレグランススクール」の執筆も担当。
Topic 1 食べ物を連想させる〝エディブル〟な香りが人気
平 2024年もたくさんのフレグランスが登場しました。創刊当初から香水をファッションの一部としてフォーカスしてきたSPURとしては最近の盛り上がりは本当にうれしい限り。2024年、特に印象に残ったものって何ですか。
小泉 たくさんありますが、メゾン クリスチャン ディオールの「ニュールック」はインパクトがありました。アルデヒドを主役にガツンときかせた調香は「こう来たか……」と。
MAHO 私は〝香りの編集者〟であるフレデリック・マルがエスティ ローダーの名香を再構築したザ レガシー コレクション。いいものは時を経てもやっぱり素晴らしい!
中森 MAHOさんが2023年は柑橘系が来ると言ってたら、やっぱりブームが来ましたよね。ほかにも2024年は、お茶をきかせたものが目立っていた印象があります。あとは桃のトレンド! KーPOPアイドルの台頭で世界的にアジアの文化に人気が集まっている。軽やかなピーチフレグランスはライトユーザーの香水入門にぴったりですね。
MAHO 口にできる食べ物や飲み物からインスパイアされている香りは想像しやすいし、安心感もありますから。ティーノートは今もマーケットが広がっていますね。
平 2025年の発売ですが、ゲランから「ペッシェ ミラージュ」(6)という桃の香りが出ます。
Topic 2 軽くても存在感はマスト、持続性はグローバルでもカギ
小泉 2004年に強い香りの柔軟剤のブームがあって、その香りの中で育ったのが今のZ世代。彼らの影響かグローバルで見ても、より強く香り立つものが増えていますね。
MAHO その証拠に既存の香りの賦香率を高めたインテンスやエクストレといった製品が増えていますね。
平 そんな影響が20年後に出るとは……。香りの影響力、おそるべし!(笑)
小泉 甘い香りの代表的な香料としてバニラやトンカビーンなどをふんだんに取り入れて、グルマンノートを提案するブランドが増えてきました。
平 ディプティックの新シリーズの「ボワ コルセ」(8)はコーヒーにトンカビーンのきいた、まさに甘重グルマン!
Topic 3 香り・ストーリー・ビジュアル・空間で世界観を徹底訴求
平 2025年、フレグランスのトレンドはどうなっていくと思われますか。
中森 小さくても歴史や実力あるフレグランスブランドがファンドの投資を受けて、大きく成長すると思います。今注目しているのは、アメリカの「ディーエス・アンド・ダーガ」(11)。バイレードやディプティックを成功させたファンドが、本格的に投資予定です。
Topic 4 新しい合成香料と新世代が作り出すネクストトレンド
小泉 2024年の夏、ジュネーブで開かれたワールドパフューマリーコングレスでは、新しい合成香料が続々と登場。パフォーマンスをさらに向上させた香料や、「自然環境との共生」という時代のニーズにこたえる香料が盛んに研究開発されていました。
平 先に出したゲランの「ペッシェ ミラージュ」も新たな合成分子、メルバトーンを使用していますよね。
小泉 日本では2000年頃からニッチブランドの輸入が広がり、直営店舗も一気に増えました。消費者が簡単に触れることができる香りの幅が大きく広がったことも、マーケットを押し上げる要因に。トレンドをつかむスピード感も重要視されています。
MAHO 日本市場ではボディケアやシャンプーなどから〝香りもの〟をスタートする人が多いので、ドラッグストアなどのプチプラ香水がハイブランドを押し上げていくかも。
小泉 ZARAのフレグランスも売れていますよね。クオリティの高い香りが揃っていますから、日本でも成長を期待できそうです。
中森 ビーディーケーもそうですが、若い調香師の活躍が目覚ましいです。オランダ発の「フガッジ」(10)の創業者ブラムは、香水を作り始めたのが22歳。現在6年目にして、アムステルダムに旗艦店を構えるまでに成長。
平 新世代が革新的なフレグランスを生み出していくのに期待したいですね。
Topic 5 レイヤードすることで立体的に〝自分の〟香りをまとう
中森 香水が盛り上がっている流れはありますが、20〜50代を対象にNOSE SHOPで取ったアンケートでは、「毎日でなく、たまにつける」という人を含めても香水使用者はまだ3割しかいない。ブームで終わらせたくないですよね。
MAHO 本当に。もっと日常的に使う楽しみ方を見つけられるといいですね。
中森 まずはボディウォッシュ、ボディクリーム、ハンドクリームから始めて。全アイテムに香りがあるものを選び、それらを少しずつレイヤード。さらにフレグランスを重ね、肌の匂いとなじませて、自分のものにしてほしい。ファッションのスタイルとマッチさせるのも、また一興ですね。たとえば、どこかにレトロなフゼアの香りを合わせて、ファッションで言うところのグランパコア×グランパセントを楽しんでみるのもいいですね。