【エルメス】が紡ぐ”眼差し”の物語。光と色彩が織りなすハーモニー 

エルメスのビューティ コレクション、美を探求する旅の最終章。メゾンは唇に始まり、頰、指先や肌と、唯一無二の色を創り上げてきた。3年の旅路でたどり着いたのは、視線をも彩るアイメイクアップ コレクション。"見つめる"という仕草に光を当てた新作は、色と陰影を繊細に重ね、眼差しを輝かせる。

「何年もの歳月をかけ、メゾンの考える美しさについて物語ることがいかに贅沢か」とグレゴリス・ピルピリスは言う。その答えが、今ここに誕生した。

エルメス オンブル ドゥ エルメス パレット クワテュール

1 冴えわたるグレーシェード。嵐が過ぎたあとの星空のように、力強い輝きに満ちている。《オンブル ドゥ エルメス パレット クワテュール》 05 オンブル・フュメ 

2 ギリシャの海の波のように、 紺碧のシャドウ。ミステリアスな目もとに。同 04 オンブル・マリン 

3 ピンクとプラムの純な色合いで、舞い散る花々を描いた。フェミニンで優美な魅力にあふれる。同 01 オンプル・ペタル 

4 豊かな自然に満ちた庭園をイメージ。フレッシュなグリーンがまぶしい。同 02 オンブル・ヴェジェタル 

5 あたたかなオレンジが、シルクのようになめらかな質感を与える。肌なじみのよいカラー。同 03 オンブル・フォーヴ 

6 光り輝くゴールドと、濃厚なボルドー。まるで沈みゆく夕日のような美しさ。同 06 オンブル・モルドレ 各¥14,300 (予定価格)/エルメスジャポン

4色からなるパレットは、自然の陰影に着想を得てつくられた。スクエア部分はベース色、左下にはアクセントカラー、右上には繊細なラメを。メゾンの美学を踏襲した色合いは、鮮やかなカレの図柄も思わせる。

トレ ドゥ エルメス マスカラ ボリューム

1 セピアがかったように、あたたかく淡いカッパーブラウン。《トレ ドゥ エルメス マスカラ ボリューム》 02 ブラウン・ビーストル 

2 絵画のように美しい明暗を目もとに与える、鮮やかなパープル。同 06 ヴィオレ・インディゴ 

3 夜空の深い色合いを思わせる、鮮烈なブルー。同 04 ブルー・アンクル 

4 チェリーブラウンと赤みを帯びたバーガンディーを融合した、メゾンに受け継がれる伝統のカラー。同 03 ルージュH 

5 神話の中の植物のように、輝きに満ちたグリーン。同 05 ヴェール・ティツィアン 

6 神秘的なブラックは、一本は持っておきたい必需品。同 01 ノワール・フュザン 各¥8,800 (予定価格)/エルメスジャポン

まつ毛一本一本に、繊細で、くっきりとしたラインを与えるマスカラ。大胆で遊び心あふれる6色の展開だ。こだわりは、ブラシの形。くしのように薄く、密着しやすいように先端部分がHの形に凹んでいる。それは機能性を追求した先の、美しい偶然だった。濃厚なテクスチャーが、豊かなボリューム感を出し、97%天然由来成分で構成されている。

エルメスのブラシ

1 アイブロウにも使いやすい、ブラシ型。《レ パンソー エルメス ラ ブロス》¥12,320 

2 丸筆タイプは、アイシャドウをブレンドしたり、細かいところにラメをのせたり、汎用性の高さも魅力。《レ パンソー エルメス レストンパー》¥13,750 

3 平筆型のブラシはベースカラーに。まぶた全体にふんわり色を重ねて。《レ パンソー エルメス ロンブルール》¥13,750

4 きれいなラインを引くことができるアイライナーブラシ。好きなシャドウを目もとのきわにのせてみて。《レ パンソー エルメス ル トラッサー》 ¥12,320 (予定価格)/エルメスジャポン

職人が一本ずつ手仕事で仕上げた木製のブラシ。ピエール・アルディがデザインした細身で端正なフォルムと、ユニークなカラーはエルメスならでは。機能性とオブジェとしての美しさを両立した姿に惚れぼれする。

【グレゴリス・ピルピリス インタビュー】見つめるということ

「美しさは、記憶の中に宿るのです」。今回〈ルガール エルメス〉を手がけたグレゴリス・ピルピリスは、パレットに自然の風景を映し出した。どれも繊細で、こちらに語りかけてくるようなぬくもりに満ちた色の数々。それはまるで、この世界の移ろいゆく一瞬を、愛しむかのよう。その視線の先には、いったい何が見えているのだろう。

「ギリシャを離れて初めて気づいたのだけれど」

生まれも育ちもギリシャ。フランスに住んで11年になるというグレゴリスは、こう語り始めた。

「ギリシャの太陽には、特有の輝度と色彩がある。すべてを超越し、より高い次元に到達させるような、黄金色に近い暖かな光のアクセントがある。夏場、ギリシャの女性はお化粧をする必要がないと私が思う理由は、太陽がメイクアップをしてくれるから」

そうほほえんで指さしたのが、オンブル ドゥ エルメス 03。「ミロス島の高台に佇んでいた夕暮れ時、空がオレンジに染まった瞬間がありました。逆光の中で反射した海は濃いオレンジを帯びたブラウンになり、私の記憶に強く刻まれたのです」

肉眼で見える色ではなく 想いを巡らせる眼差しを探して

自分の仕事は、ビューティを通して色彩の宇宙を創造すること。そう断言するビューティ部門のクリエイティブ・ディレクター、グレゴリス・ピルピリスは、古代ギリシャ神話を愛するアーティストだ。今も昔も変わらない太陽の光にインスパイアされ、物語は書かれたと信じている。「古代ギリシャでは、色名としての青は存在しなかった。ホメーロスが海について語るとき、茄子紺色と表現した逸話を興味深く感じて、描き移したいと思ったのです」。そう言って、オンブル ドゥ エルメス 04を手に取った。

バウハウスに着想を得た、四角と円形の色彩。美的かつ機能的なデザインだ。正方形のカラーはベースとなり、円形はハイライトとアクセントにもなる。特に左下のアクセントカラーは、エルメスの軽やかな遊び心と力強い大胆さを物語りながら、しかも使いやすい。メゾンが重んじる「用の美」を、私たちは発見する。

「指針になったのは、クロード・モネの言葉です。美とは、色とかたちの微妙な調和であり、光の終焉も大切だと」

変容よりも、昇華。 内なる力を見つめる「眼差し」

光の終わり。透明感とも表現できるだろう。グレゴリスのメイクアップを見て感じるのは、「やさしい」という印象だ。色を重ねてもその人を覆い隠すのではなく、内面から本質的な魅力を見出し、輝く糸を手繰り寄せてみずみずしいタペストリーを紡ぎ出す。その視座に共通点を見出し、かつてアシスタントに彼を選出したのがトム・ペシューだった。

「メイクアップを始めるとき、大切なのは会話です。美的なアプローチとは別に、目の前にいる人と理解し合う。なぜなら、時に強い色彩を取り入れながらも、私はその人自身の美を変容することはしないからです。内なる美しさを高めて昇華させる、その意味でトムからの影響は大きかったと思います」

 

好奇心に磨きをかけて その美は時空を超える

3代目のエミール・エルメスが大戦後に事業を変革し、妻や娘たちが使うオブジェについて考え始める——その愛情が地続きになり、誕生したのがエルメスのビューティだ。娘たちは、成長する過程で山歩きやスポーツに挑戦し、活躍の幅を自由に広げる。旅も、車の運転もする自立した女性像を念頭に、機能的で心地よく使えるオブジェが、無数に生まれてきた。4人の娘たちが今、〈ルガール エルメス〉を手にしたら、どんな表情を見せるだろう?

「機能性や美しさに驚いたり、感動したりするために世界中からオブジェを集め、新しいオブジェを創り出すという好奇心からすべては始まりました。彼女たちであれば、このコレクションに心を動かされるはず。そう願っています」

「美とは/見る者の眼差しの中にあるのです」。2023年9月にパリのフォーブル・サントノーレの、ブティック階上にある博物館で開催された〈ルガール エルメス〉の発表会では、こんなサウンドインスタレーションが流された。展示物は、エミール・エルメスが収集した馬や旅にまつわるオブジェのみならず、のぞきからくりに幻灯機、アナモルフォーシスまで。楽しくて小さなミュゼは、私たちにシンプルな真実を教えてくれた。森羅万象には、肉眼で見えるものを凌駕する本質と美があるということを。そしてエミールの娘たちは、現代を生きる私たち自身であることも。

「37歳になった今でも、誠実さと愛情を胸に、無垢だった頃と同じ好奇心と無邪気さをもって、私は世界を見ています。世界は美しい、そこにある美しさを見つけてゆきたい」

ギリシャから現れたアーティストの類いまれな眼差しが、価値観をともにするエルメスというメゾンに出合って、その好奇心を本物にした。〈ルガール エルメス〉は、即物的に美を授けるツールではない。そこにある美を、眠っている美を見出す方法を、私たちに教えてくれるのだ。

Gregoris Pyrpylisプロフィール画像
Gregoris Pyrpylis

ギリシャに生まれ育ち、フランスでメイクアップを学ぶ。トム・ペシューの第1アシスタントを務めた経歴も知られ、2022年から、エルメス ビューティ部門のクリエイティブ・ディレクターに就任。

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