LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン) 「eLVes ルイ・ヴィトン オードゥ パルファン」

eLVes ルイ・ヴィトン オードゥ パルファン(100㎖)¥48,400/ルイ・ヴィトン クライアントサービス(ルイ・ヴィトン)
誇り高く、自由に、そして勇敢に──、古い常識や自分を縛るものから解き放たれた女性に訪れる人生の瞬間に。自らの道を己の力で切り拓く人たちにエールを送る香りがeLVesだ。澄みきったスズランの香りとルイ・ヴィトン独自のかぐわしい2種のバラのフローラルノート。そこに最高級のシナモンとジンジャーがエネルギーを注ぎ、アンブロキサンが光り輝く。
江南さんの一冊

明石書店 ¥1,870
『誰もが別れる一日』 ソ・ユミ著 金みんじょん、宮里綾羽訳
さまざまな年齢と立場の女性たちが描かれる、切れ味のよい短編集として評価を得た本書から、「後ろ姿の発見」の一篇を紹介したい。結婚10周年を記念する旅行先で、夫が突如失踪する。心と身体がざわざわと落ち着かない時間のなか、周囲に事情を打ち明け、妻はこれまでの夫婦関係をたどり直すことになるのだ。妻が至った心情はこう描かれる。
〈背後からか足元からか誰かが呼んだみたいだったが、女は振り返らなかった。代わりに息を大きく吸い込んだ。このままビルが風に吹き飛ばされても、大雨が降り注ぎ世界が水に沈んでも構わないと思った。〉(p.129より)
寄る辺なき心情から脱し、新たな人生の局面を受け入れようとする主人公は気高い。「生」を力強く肯定するソ・ユミの作品は、誰かの背中をそっと後押しするだろう。
PRADA BEAUTY (プラダ ビューティ)「インフュージョン ドゥ プラダ ルバーブ オーデパルファム」

インフュージョン ドゥ プラダ ルバーブ オーデパルファム(100㎖)¥30,800/プラダ ビューティ
独特の酸味とフレッシュさをもつルバーブは野菜でありながら、フルーツを思わせる意外性が魅力。熱を加えるととろっと溶ける性質が、突然の恋に落ちて変わってしまう主人公の心情に重なる。ルバーブをメインノートにジューシーなグリーンマンダリンやシトラスを合わせた、すっきりとすがすがしいフローラルフルーティ。
江南さんの一冊

左右社 ¥2,530
『オープン・ウォーター』 ケイレブ・アズマー・ネルソン著 下田明子訳
ガーナ系イギリス人の若き作家のデビュー長編小説は、恋する青年の心情を繊細に、詩的に描く。主人公を「きみ」という二人称でとらえる語りは、読者との親密圏を作り出すのに有効だ。友人のガールフレンドをひと目見たときから、恋に落ちた写真家の「きみ」。恋に突き進むのを躊躇させる臆病さと相手ヘの優しさは表裏一体のものながら、香りはときに理性の緊張を緩めてしまう。
〈あたしってどんなにおいがするのと訊かれ、きみはどぎまぎする。だってきみ自身、前に考えたことがあったから。そのときの答えがつい口をついて出る。甘くて、咲いたばっかりの花みたいだよ。甘ったるくはない、思わず顔がほころぶような甘さ。〉(p.150より)
恋の顛末と、社会の理不尽さと戦う主人公の日々の成長が読みどころとなる。みずみずしく、スタイリッシュな物語だ。
Maison Kitsuné(メゾン キツネ) 「ノート ドゥ ヒノキ オードパルファム」

キツネ ビアン エートル ノートドゥヒノキ オードパルファム(100㎖)¥24,200/メゾン キツネ カスタマーセンター(メゾン キツネ)
国土の約3分の2が森林で覆われている日本。都会にいると忘れがちだが、木のぬくもりに癒やされるのは日本人のDNAに木々への憧憬が刻まれているのかもしれない。今年発表されたメゾン キツネ初のフレグランスラインは日本とフランスにルーツを持つ調香師、バーナベ・フィリオンが手がけた。すがすがしいヒノキとまろやかなサンダルウッドが調和する穏やかなウッディノート。
江南さんの一冊

新潮文庫 ¥605
『木』 幸田 文著
日本の近代小説の草創期に活躍した父・幸田露伴の死後、回想録の発表により文才が評価され、随筆家・小説家として名をなした幸田文。自由な精神と、心地のよさを愛する気風が感じられる独自の文章には、いまなおファンが多い。
エッセイ集『木』は、樹木を愛する心を露伴から継承した著者が、日本各地のさまざまな木々をめぐる思いを類いまれな観察力とともに書き表した作品だ。たとえば、傾斜地に立つヒノキを見て、〈傾斜の軀幹のどこかには忍耐が要求され、バランスを崩すまいとつとめているのだろう。木はものをいわずに生きている。かしいで生きていても、なにもいわない。立派だと思った。が、せつなかった。〉(p.43より)と記す作家の目は慈愛に満ちている。本書から、人間の尊厳や生死の崇高さにまで思いを馳せることができる。
GUCCI BEAUTY (グッチ ビューティ)「オスマンサス ネクター オードパルファム」

グッチ ザ アルケミスト ガーデン オスマンサス ネクター オードパルファム(100㎖)¥50,050/グッチ ビューティ
物質変容を探究する学問と実践の技術、錬金術。それはふたりの人間が交わす感情の変容、濃密な愛の時間にも似ている。オスマンサス=金木犀がもつ、アプリコットのような風合いを際立たせたフローラルフルーティノート。金木犀が咲く瞬間の香り分子を採取し、サンダルウッドは分子蒸留で抽出。現代の最新調香技術を駆使して生まれたアロマが、五感を刺激する。
江南さんの一冊

河出書房新社 ¥2,640
『水の流れ』 クラリッセ・リスペクトル著 福嶋伸洋訳
生前は知る人ぞ知る作家としてコアなファンの心をつかみ、「ブラジルのヴァージニア・ウルフ」と呼ばれたリスペクトル。近年日本でも優れた訳者を得て邦訳が進む彼女は、小説作品で人間の存在やその幸福について深い洞察を展開してきた。なかでも『水の流れ』には、ものを書く「わたし」と読者をも含む「あなた」との間の、濃密で抽象的な「愛の時間」が描かれていく。味わいたいのは、その美しい文体だ。
〈生けるもの固有のエロティシズムは、空中に、海に、植物に、わたしたちのなかに散在している。わたしの声の生気に散在していて、わたしはその自分の声であなたに向けて書いている。〉(p.63より)
実体のない快感や痛みについて、じっくりと言葉を与える作家の営み。イメージの横溢。五感が刺激される読書体験が待っている。
Maison Francis Kurkdjian(メゾン フランシス クルジャン) 「クルキー オードパルファム」

メゾン フランシス クルジャン クルキー オードパルファム(70㎖)¥39,600/ブルーベル・ジャパン
一瞬で時を超える香りに連れ出してもらうなら、過去? 未来? 現代の天才調香師、フランシス・クルジャンが手がけたのは屈託ない子ども時代を彷彿とさせるキュートな作品。ミックスフルーツのキャンディを思わせる、トゥッティフルッティアコードにほのかにバニラを感じるムスクを重ねて。子どものように夢見る大人のための香水をどうぞ。
江南さんの一冊

集英社 ¥1,760
『赤い月の香り』 千早 茜著
嗅覚は、脳内の記憶への回路を開く。本作は、超人的な鼻のよさと調香師としての再現能力を生かし、香水のオーダーメイドをなりわいとする小川朔を主人公とする物語だ。完全紹介制のサロンを訪れる依頼者は、ひと癖もふた癖もある人ばかり。サロンで働き始めた朝倉満は、朔にいざなわれるようにして、香りで幼少期の記憶を手繰りよせていく。朔はいう。
〈昔のことを思いだせないのなら玉手箱をあげるよ。知ってる? 浦島太郎の玉手箱からでてきたのは煙ではないという説があるんだよ。あれはね、香りなんだって。香りを嗅いで記憶がよみがえって、彼は歳をとったんだ。香りはね、一瞬で時を超える。〉(p.190より)
ミステリアスな朔の人物造形とエレガントな文体で好評を博した『透明な夜の香り』の続編として発表された『赤い月の香り』。読者を官能的に刺激する小説作品だ。
BVLGARI(ブルガリ) 「オ・パフメ テ ヴェール オードトワレ」

ブルガリ オ・パフメ テ ヴェール オードトワレ(150㎖)¥32,780/ブルガリ パルファン カスタマーサービス
1992年ブルガリのハイジュエリーの顧客向けギフトとして登場。緑茶の香りを再現するという斬新なアイデアは瞬く間に評判となり、世界的ロングセラーに。今年、オリジナルのオーデコロンの処方から、初めて本物の茶エキスを配合したバージョンに刷新。フレッシュなベルガモットとすっきりとした緑茶の若葉をブレンドし、活気あふれるニュアンスをプラスした。
江南さんの一冊

『日本の名随筆24 茶』 中里恒子編 作品社 ¥1,980(現在欠品中)
『新茶』 岡本かの子著
世間の目や常識の物差しからはたとえ外れたとしても、奔放に恋に生き、のちに高名な芸術家となる息子・太郎を愛し抜いた岡本かの子は、 小説家として活躍する以前は仏教研究家でもあった。包容力に満ちた随筆のことばは、いまも人々を魅了している。「新茶」と題された短いエッセイでは、日本文化に欠かせないお茶がもたらす清涼感とかぐわしさを、「若葉の雫を啜る」と表現。さらに、誘惑し合う精霊たちの髪の青さにたとえるところに彼女のユーモアのセンスが光る。
〈色がいゝ。白磁の茶椀の半を満してゆらめく青湖の水。さなりき、誘ふニンフも誘はるゝ男妖精も共に髪ぞ青かりし〉(p.11より)
お茶が人々にもたらすのは、心を静めるリラックス効果だけではない。フレッシュな生命力の躍動を本作は確かにとらえている。