【ブルーノ・マーズ 】東京公演も熱狂! ブルーノの「お祭り」哲学

2024年1月、ブルーノ・マーズは、東京をお祭り気分に染めあげた。来日早々、ピカチュウの帽子をかぶってハローキティを手にする「日本まみれ」をアップするサービス精神を見せ、7日間にわたるドーム公演を終えると、日本酒やうどんをたしなむ観光ムービーとともに「日本の美しい人々」へと感謝を捧げた。

なにより熱狂を巻き起こしたのは、35万人動員を達成したライブ本番。とくに、AKB48「ヘビーローテション」をカバーしたことはファンの垣根を越えて話題になった。噂によると、日本の観客を盛りあげる方法を熱心に探し、丹念にリハーサルもしていたそう。

エンタメ大国アメリカ随一のショーマンであるブルーノは、かつてカバー選曲について語ったことがある。「酒場で歌っていた経歴があるんだ。ニルヴァーナとかマイケル・ジャクソンで場を盛り上げてた。その頃は、ショーの一環としてやっていたから、お金を稼がなきゃいけなかった。カバーするには、絶対にうまく歌えるようにしておかないといけない。いろんな曲を聴いて育ったから、今カバーしたいのは演奏して楽しい曲だね」。

 

4歳からプロの歌い手

本人が語るように、ブルーノ・マーズは幼いころからプロのショーマンだった。1985年ミュージシャンの両親のもとハワイに生まれ、4歳のころには観光客向けのナイトショーでエルヴィス・プレスリーのものまねをしていたという。しかし、12歳になるころには両親が離婚。母親と4人姉妹とは別れ、父、兄と車上生活をする苦労を重ねた

音楽の夢のため10代後半で移り住んだLAではなかなか芽がでなかったが、友人とつくった曲を人気アーティストに提供するうちに、シンガーソングライターとして脚光を浴びていった。芸名のブルーノは、子どものころからの愛称。マーズの由来は何気ないジョークだったという。「俺はこの世界の出身じゃない!火星から来たブルーノ・マーズ!」。

異星から舞い降りたようなパフォーマーたるブルーノは、2010年にメジャーデビューして以来、瞬く間に地球中で愛されるスーパースターになった。音楽以外で話題になることを好んでいないため深い取材を受けることは少ないが、「アルバムを聴けば俺のことはすべてわかる」と豪語するだけあり、彼がつくる音楽は彼の人生、そして哲学と結びついている。

「お祭り」音楽に人生を捧げた理由

ブルーノが得意とするのは、懐かしく新しいR&Bやドゥーワップサウンド。そしてなんといっても人気なのはパーティアンセム、いわばお祭りソングだ。逆に、社会派な曲をつくる気はないと明言したこともある。

お祭り番長スタンスのルーツは、子ども時代の原体験にある。ナイトクラブのみならず小学校でも女子にモテるため歌っていたブルーノにとって、人々を楽しませる高揚感こそ、音楽に恋した理由だったのだ。「俺にとって、音楽の95パーセントは愛。だからこそ、はるか昔の原始人は、石を叩いて、仲間を火のまわりに呼び寄せた仲間をセクシーな気分にさせていたんじゃないかな。(自分も)これとまったく同じ原理で、同じことをやってる。ダンスフロアでみんなを盛り上げて、みんなを笑顔にするのさ」。

もちろん、聴く者を問わず踊らせるアンセムを作るのは至難の業だ。アメリカの音楽界では古風とされるブルーノは、コンピュータをつかわず、楽器演奏をしながら盛り上がれる音づくりを行っている。

くわえて、敬愛するプリンスのようにバンド単位で活動しているため、スタジアムからカフェまで、どこでもライブできる体制を維持しているそうだ(つねに明るいブルーノだが、イギリスで口パク疑惑をとなえられた際には「プロとして65度の高熱でもステージに立って歌う」と怒りを表明したことがある)。

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photo:Getty Images

「音楽に人生を捧げた理由は、マイクを持ってお祭りの主になることが大好きだったからだ。そして、観衆の反応を見る……そこまでが芸術だ! 会場のバイブを感じることにやみつきなんだよ。人々に忘れられない一夜を捧げられる力が自分にはあるんだという、言いようもない感覚に」。

キャリア初期、ブルーノが目標に掲げていたのは「イベントとなる楽曲」を作ることだった。たった一曲で世界を揺るがしてみせた大曲を指すようで、例にあげられたのは、クイーン「Bohemian Rhapsody」、マイケル・ジャクソン「Billie Jean」、ニルヴァーナ「Smells Like Teen Spirit」。当時、インタビュアーから「あなたは世界を揺らしたいの?」と問われたブルーノは、高揚した様子で答えた。「もちろん! ほかにやることがないからね」。

それから10年あまり経って、世界中を熱狂させるお祭り番長となったブルーノ。次回の公演でも、日本を大いに揺らしてくれるはずだ。

辰己JUNKプロフィール画像
辰己JUNK

セレブリティや音楽、映画、ドラマなど、アメリカのポップカルチャー情報をメディアに多数寄稿。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)

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