ビリーが有名になったのは弱冠13歳のとき。2015年、ダンス用に兄フィニアスと共作した楽曲「Ocean Eyes」をインターネットに投稿するやいなやバズっていったのだ。そこから人気を稼いでいき、2019年のデビューアルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』によって大成功。18歳にしてグラミー賞を制覇した「天才少女」として世界的成功を果たした。
ビリーは、本音を演劇的な曲に込めた。映画『バービー』に提供した「What Was I Made For?」では、劇中のストーリーをなぞりながら「偽った像にお金を払われる存在」たる語り手が、自分の存在意義を問いかけていく。ミュージックビデオは、本当の自分を探す決意をくだしたビリーが、画面の外へと去って終わる。これと同じく、現実の彼女も、意識的に外の世界にふれるようになっていった。
「ただの女子」へ戻る新作
2024年に発表された3rdアルバム『HIT ME HARD AND SOFT』のコンセプトは、ずばり「2019年の本当の自分に戻る」試み。同年といえば狂騒を巻き起こしたころだが、同時に、まだ一人の少女としての心が残っていたころでもあった。
「天才少女」像から脱皮した「ただの女子」としてのアルバム『HIT ME HARD AND SOFT』は、ビリー・アイリッシュのあらたな代表作となるだろう。少なくないリスナーが、かつて誘いを断られていたゾーイ・クラヴィッツと同じ感想を抱くはずだ。「あれから、ビリーと本当の友だちになった。本人は仲良くなったら嫌われるって言ってたけど、実際は反対だったの。彼女を知れば知るほど好きになった」。