アカデミー賞候補!【アリアナ・グランデ】「世界一幸運で不運」。歌でのりこえてきた波乱の人生 #ウィキッド #WICKED

「子どものころから活動してきたけど、31歳にもなって『新星』扱いされるとは思ってもみなかった」。アリアナ・グランデが新たに足を踏み入れたのは映画業界だ。初の本格的な映画進出となった『ウィキッド ふたりの魔女』(2025年3月7日日本公開)の演技によって、数々の賞を受賞し、アカデミー助演女優賞候補になるまでの喝采を浴びている。そんな彼女が演じた役柄は、人生と重なるとも評されている。

「子どものころから活動してきたけど、31歳にもなって『新星』扱いされるとは思ってもみなかった」。アリアナ・グランデが新たに足を踏み入れたのは映画業界だ。初の本格的な映画進出となった『ウィキッド ふたりの魔女』(2025年3月7日日本公開)の演技によって、数々の賞を受賞し、アカデミー助演女優賞候補になるまでの喝采を浴びている。そんな彼女が演じた役柄は、人生と重なるとも評されている。

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歌に捧げた人生

1993年フロリダ州に生まれたアリアナ・グランデ=ブテーラは、お嬢様だった。母は海軍向けの電子機器をつくる会社のCEOで、のちに疎遠になった父もデザイナー事務所を経営していた。

娘が8歳のころシングルマザーになった母は芸術教育を惜しまなかった。舞台版『ウィキッド』を筆頭に音楽が大好きだったアリアナのブロードウェイデビューは14歳。その後、テレビ子役として活躍し、二十歳になるころには人気歌手への道を拓いた。

日本でも人気を博したアリアナの武器は、かわいらしいルックス、そして「バイオリンのよう」とたとえられる歌唱力だ。

天性の声の持ち主というだけでなく、業界屈指のプロフェッショナルでもある。ハリウッドに越してからのボイストレーニングは週五回。喉をまもるため、夜遊びもあまりしない。トレードマークになったポニーテールにしても、子どものころから染めつづけて傷んだ髪への対処として始まったものだった。

世界一幸運で不運

セレブリティとしては物議をかもす場面も少なくなかった。2015年にお店に陳列されたドーナツを舐めた騒動が最初のスキャンダルとなり、その後も恋多き女子としてプライベートに注目されつづけていく。

それでも歌手としてのキャリアはうなぎのぼりだった。ただし、本人が「世界一幸運で世界一不運」 と称したように、波乱万丈で悲痛な人生をたどってきたスターでもある。彼女のキャリアは、悲劇やスキャンダルを才能によって乗りこえてきた10年とも定義づけられる。

2017年、イギリスのマンチェスターで行われた公演でテロ事件が発生し、20名以上が亡くなった。打ちのめされたアリアナは、それでもすぐにマンチェスターへと戻り、チャリティコンサートを開催。被害者や遺族への支援、そしてテロの恐怖に負けない希望を示した。

翌年には、前進を示す4thアルバム『Sweetener』を発表した直後、元恋人のラッパー、マック・ミラーが急逝。ふたたび悲劇に見舞われたアリアナは、芸人のピート・デヴィッドソンと結んでいた婚約を解消した。

まだ20代だったアリアナに、世間は深く同情していった。当人が言うところの「立派な英雄であり可哀想な犠牲者」になったのだが、音楽家として重要なのは、そのイメージに従わなかったことだ。

緊急リリースされた5thアルバム『thank u,next』は、元恋人たちへ追悼や感謝を捧げる歌もありながら、リスナーに自信を伝染させるようなアリアナらしい強気なアティチュードもそなえていた。

悲しみだけが人生でないことを示した本作こそ、世界一のスターダムを決定づけた。友人である歌手マイリー・サイラスの言葉を借りれば「ポップカルチャーに愛されし幻想と個人の実体験の融合」 、その美しさが与える癒やしこそ、アリアナ・グランデの作家性になったのだ。

その後も、不動産業者と結婚後に挑んだ『ウィキッド』の共演者イーサン・スレイターとのダブル不倫疑惑がかけられたりもしたが、歌をやめることはなかった。むしろ、スキャンダルと離婚を踏まえた7thアルバム『eternal sunshine』を制作し、またもやナンバーワンヒットを複数出してみせている。

『ウィキッド』に込めた想い

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『オズの魔法使い』を下敷きにした『ウィキッド』では、あらたな才能を証明した。これまでとは異なるオペラ歌唱や演技を猛特訓したことで、アカデミー賞の会員のみならず、舞台版のファンにも認められたのだ。

とくに喝采を呼んだのは、オープニングの「No One Mourns the Wicked」。「善い魔女」グリンダとして、学生時代の親友であった「悪い魔女」の訃報を大衆と祝う難曲だ。この場面では、歌詞に見合わない複雑な心情も感じとれる。

アリアナが役に込めたのは「ショー・マスト・ゴー・オン」の精神。劇中世界の人気者であるグリンダは、いくらつらくても、大衆のため、そして自分のために歌わなければいけない……というのが彼女の解釈。幼いころから憧れてきた役を演じてみて、自分の人生と重なることに気づいたという。

舞台ファンPodcasterであるケヴィン・ビアンキが語ったように、アリアナ・グランデとは、現代のグリンダだ。残酷で不条理な目に遭っても、あるいは過ちを犯しても、天性の才能を持つ者として歌いつづけてきた。そして、どんなことがあろうと、人々は彼女の歌声を愛している。

辰己JUNKプロフィール画像
辰己JUNK

セレブリティや音楽、映画、ドラマなど、アメリカのポップカルチャー情報をメディアに多数寄稿。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)

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