新世代スター、ティモシー・シャラメの「無頓着」処世術 【辰巳JUNKのセレブリティ・カルチャー】

ティモシー・シャラメは、ハリウッドの王子様だ。プレミア試写に来場した際、あまりに多くのファンが押し寄せたため警察がカーペットを閉鎖した事案もある。欧米でここまでの熱狂を生んだ男性の映画スターは、1990年代のレオナルド・ディカプリオやブラッド・ピット以来とも言われている。

とらえどころがない新時代スター

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Photo:Getty Image

1995年に生まれたティモシー・シャラメは、芸術一家のもとニューヨークとフランスで育った。名門芸術高校を卒業して大学にも通ったが、演技の仕事をこなすために中退している。ブレイクスルーは、二十歳のとき撮影した主演映画『君の名前で僕を呼んで』(2017)。同性に恋する少年を演じたティモシーは、繊細で脆い演技によって、史上三番目に若いアカデミー賞主演男優候補となった。

「美しき脆弱性」表現を得意とするティモシーは、「強い男らしさ」に固執せず自らの弱さを開示する「新世代男子」の象徴とも評されている。ユニークなのは、本人自体はとらえどころがない人柄であることだ。取材者から「時空を超えていくような世間話をする」と形容されるほど、テキパキと喋る一般的ハリウッドスター像から離れている。たとえば、気候変動問題に関心は持っているものの、声高に正義を主張したりはしない。逆に目立つ態度は、ゆるくユーモラスな謙遜。主演映画『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021)が劇場公開と配信同時リリースされて議論を呼んだことについて問われた際には、肩をすくめて応答した。「その質問は、僕のギャラ水準を超えてるね」「きっと、僕は世間知らずなんだ。でも、そうであることの力を信じてる。映画が公開されてただ嬉しいよ」。

「無頓着」の処世術

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Photo:Getty Image

とはいえ、ミステリアスな「変わり者」というわけでもない。SNSの更新は少ないながら、カップヌードルの写真を投稿するなど、親しみやすい自然体の持ち主だ。演技以外でも注目を浴びつづける「名声」の地位にも文句を言わず、恵まれた身として受け入れる姿勢を公言している。

むしろ現実的な人柄と言えるティモシーは、意図的にとらえどころのないイメージを形成した向きがある。「自分がどう見られているか」、つまりスターなら必須なはずの風評チェックに集中しない方針を、処世術として明かしているのだ。

「クリエイティブな仕事をつづけていくには、ある程度、自分の消費のされ方に無頓着でいる必要がある」

ティモシー・シャラメの強みは、この「意図的な無頓着」だ。Netflix映画『ドント・ルック・アップ』(2021)で共演したディカプリオやジェニファー・ローレンスをお手本とする彼は、SNS投稿を控え、ファッションブランドの広告仕事も避けたという。結果、とらえどころがない彼のパブリックイメージは、演技以外の「色」がついていない。

若者に憧れられる「王子様」

一方、ハリウッドスターらしく「芸術で社会的メッセージを伝える責任感」は持っている。前出『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督との再タッグとなった最新作『ボーンズ アンド オール』(日本公開2023年2月17日)は、人喰いの若者の物語で、現実とはほど遠い。しかし、ティモシーは、社会から疎外された主人公の苦悩を現代の若者と重ね合わせた。

「デジタル社会では、多くの若者が「自分がどう見られているか」、他者評価と自己評価の恐怖にさいなまれる。『ボーンズ アンド オール』は、残酷な呪いを受けた二人についての物語だ。ありがたいことに現実世界ではありえない設定なんだけど、主人公たちは(現実で重圧を受ける若者と同じように)その呪いとの闘争を強いられる」

この作品評には、ティモシー・シャラメがデジタル社会の「王子様」になれたヒントがあるかもしれない。他者評価に晒されつづける多くの若者たちにとって、「自分がどう見られているか」問題に「意図的な無頓着」を貫いてみせる彼の存在は、ある面で理想的なファンタジーであり、勇敢なヒーローにもうつるだろう。つまり、映画スターのわりにとらえどころがないイメージだからこそ、新世代にとっての憧れなのだ。

なによりティモシーが新世代らしいのは「映画スター」という呼称への反応かもしれない。「ムービースターって言葉は“死”って感じだ……1990年代ノスタルジーの魅力が投稿されたInstagramフィードしか思い浮かばないよ(笑)」。本人いわく、ティモシー・シャラメとは「ただの役者」だ。

辰己JUNKプロフィール画像
辰己JUNK

セレブリティや音楽、映画、ドラマなど、アメリカのポップカルチャー情報をメディアに多数寄稿。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)

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