世界のKayakoが誕生するまで、そしてこれから。モデル、樋口可弥子に独占インタビュー

往年のスーパーモデル、リンダ・エヴァンジェリスタには、ある伝説がある。1988年、ヘアスタイリストのジュリアン・ディスの提案により、肩まであった髪の毛をばっさりとカット。それによって一躍注目を集めた彼女は、その後もブロンドやジンジャーなど、コロコロとヘアスタイルや髪の色を変え、「カメレオン」と呼ばれた。

Zoomの画面越しにモデルの樋口可弥子と話をしながら、そんなことを考えていた。特徴的な黒髪のバズカットから一転、プラチナブロンドのショートヘアにチェンジした彼女。聞くと、バーバリーの2021-22年秋冬コレクションのためにブリーチしたという。

183cmの長身に、均整のとれたプロポーション。シャープな眼差しと、それを裏切るように肉感的な "ポーティ・リップ"。彼女のアンドロジナスな容姿は、アジア人モデル全盛の昨今においても異彩を放っている。今をときめく彼女のこれまでの軌跡、そして今後の展望について話を聞いた。

バーバリー2021-22年秋冬コレクションで、ブロンドヘアを披露したKayako。
バーバリー2021-22年秋冬コレクションで、ブロンドヘアを披露したKayako。

コンプレックスだった長身を武器に飛び込んだモデルの世界。そこで待ち受けていた苦節の十代

神奈川県出身、高校時代に所属したデザイン部の活動で、ファッションショーに出会ったという可弥子。それまでコンプレックスだったという身長が、武器になると気付いたのもこの時だ。

「デザイン部では、年に4回コレクション制作をしていました。自分の身長を生かせばコレクションモデルになれるかもしれない。そう思い、モデル事務所に履歴書を送ったのが16歳の時。今考えると、もともと目立つことは好きだったのかもしれません。表現をする仕事に就きたい。そう思い、モデルの世界に飛び込みました」。

当時はミニスカートに厚底ブーツを履いていたという彼女。デビューして間もなく東京コレクションでミントデザインズのショーで初めてのランウェイを経験。順調なスタートを切ったように見えたが、その後の十代は思うような成果が出せず、辛酸をなめたという。

モデルとして初めて登場したコレクション、ミントデザインズの2016年春夏コレクション。Photo courtesy of brand
モデルとして初めて登場したコレクション、ミントデザインズの2016年春夏コレクション。Photo courtesy of brand

スタバでスカウトされ、新天地スペインにて活動。挫折を経て飛び込んできた一本の電話

モデルとしてのキャリアに転機が訪れたのは19歳の時。六本木ヒルズのスターバックスにいたところ、スペインのモデル事務所のスカウトから声をかけられる。

「正直、最初は怪しいと思いました。なんでスペインから日本でモデル発掘に?と思い。一応名刺のウェブサイトとSNSを見て、ちゃんとした事務所だということが分かり、一念発起して海外渡航を決意しました」。

インターナショナルモデル、Kayakoの誕生だ。スペインの事務所に所属してからは、バルセロナと日本を行き来しながらモデルとしての経験を積んだ。

「現地ではECやコマーシャルなどの仕事をしました。ただ、やっぱりコレクションに挑戦したいという思いを捨てきれず、ジレンマを抱えていました」。

海外での生活の苦労、そして自分の中の理想と現実の乖離。ついには、モデルを辞めることを決心し、2020年の7月に帰国。そんな彼女のもとに、思いがけない連絡が入る。

「スペインの事務所には辞めることを伝えていたのですが、ロンドンの事務所に伝わっていなかったらしく、仕事のオプション(キャスティングの最終候補に残ること)があるからロンドンに来れるかと電話がありました。案件は、バーバリーのビューティー広告。千載一遇のチャンスと思い、飛行機に飛び乗りました」。

苦節を乗り越えたKayakoに、その後再びチャンスが舞い込む。モデル人生におけるブレイクスルーとなった、2021年春夏のバーバリーのランウェイだ。

「キャスティングはものの一瞬で終わりました。一周歩いて、『オッケーありがとう』みたいな。正直あまり期待せず会場を出たのですが、当日の夜に事務所から連絡があり、バズカット(坊主)にできるかと聞かれました。髪型を変えることにはそこまで抵抗がなかったので、大丈夫だと答えると、すぐさまバーバリーのショーが確定したと。事務所からは後から聞かされたのですが、もしバズカットにできるならファーストルックで決定すると言ってくれていたようです」。

鮮烈なデビューを飾ったバーバリー2021年秋冬コレクションのファーストルック。Photo by iMAXTREE/AFLO
鮮烈なデビューを飾ったバーバリー2021年秋冬コレクションのファーストルック。Photo by iMAXTREE/AFLO

ロンドン、ミラノ、パリを経験したKayakoのアンビション

バーバリーのコレクションで鮮烈なデビューを飾って以降の活躍は、モデルウォッチャーなら誰もが知るところ。10月にはミラノ、パリでもディオールやヴェルサーチェ、ミュウミュウなど名だたるメゾンブランドに登場。今年の1月には、ついにモデルにとっての最難関であるオートクチュールにも挑戦。ヴァレンティノとフェンディのショーに抜擢される。

「バーバリーのショーによってモデル人生が一変し、ロンドン、ミラノ、パリで数々の刺激的な仕事に携わらせて頂きました。デビューしてからはオンライン形式ばかりだったので、早く本物のファッションウィークを経験したい。アジア人モデルがこれだけ増えて競争率が高い今だからこそ、地に足をつけてステップアップしていきたいです」。

Photo courtesy of brand
Photo courtesy of brand

ファッションウィーク期間中のパリでの生活を、スナップ写真と共にプレイバック

飛行場をモチーフにしたステージセットのバルマンのショー。バックステージでシルバーのルックを着てセルフィータイム。

フェンディの秋冬は、キム・ジョーンズによるデビューコレクション。バックステージでは、同じ事務所のハナカとセルフィー。

バーバリーの秋冬コレクション撮影のために、プラチナブロンドにチェンジ。来シーズンはどんなヘアでランウェイに登場するのか、今から楽しみだ。

Instagram @ka.ya.ko

text:Shunsuke Okabe

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