【2022-‘23AW パリコレクション放談・後編】オフ-ホワイトからリック オウエンス、マリーン・セルまで!パリコレのベスト5!

2022-23年秋冬パリコレクションについて、パリ在住のジャーナリスト・乗松美奈子さんにお電話で見聞き感じたことをお話しいただく本記事。前編のテーマは、全体的な「次の次」のモードについて。192030年代の空気感や、デカダンなムード、子供たちの反乱、といったキーワードを散りばめながら、トレンド総括を行いました。後編の今回は、乗松さんの心に残ったコレクション6ブランドについて語っていただきます。


ストリートとラグジュアリー、ここに極まれり。 Off-White c/o Virgil Abloh™

SPUR編集部: 早速ですが、202223年秋冬シーズンにおけるベストコレクションについてお聞かせください。

乗松さん: まずはヴァージル・アブロー最後のオフ-ホワイトから。インビテーションがきたところからびっくりしました。大きな、とても重い箱が家に届いて「なんだろう?」と思って開けると……。青いセーフティボックスだったの!「2030年までは開けないでね」と書いてあって。

photography: Minako Norimatsu
photography: Minako Norimatsu

SPUR編集部: 結局開けたんですか?

乗松さん: そう、だってそのセーフティボックスを開けないとインビテーションが取り出せなかったんだもの(笑)。会場には、リアーナとエイサップロッキー、ファレル・ウィリアムス一家、デザイナーに関してはジョナサン・アンダーソンにオリヴィエ・ルスタンな面々が一同に会しました。「ヴァージルの追悼」という意味でいうと、すでにルイ・ヴィトンで2回行われていたから、今回は追悼っていうより、「セレブレーション」っていうムード。ショー自体は三部構成でした。第一部はひねったストリートなニットがあったり、荷物梱包用の持ち手をジャケットの肩につけた、ユーモアをきかせたルックがあったり。ヴァージルらしいお茶目なアイテムがいっぱいありました。

SPUR編集部: 第一部の最後では 「Question Everything」というヴァージルのメッセージが書かれた旗を掲げたモデルが出てきましたね。その後第二部へ。

乗松さん: オートクチュールという呼び方はできないけど、クチュールのようなものすごい手の込んだライン「High Fashion」のコレクション。ヴァージルらしく、上がTシャツで下がボリューミーなチュールのスカートだったり。「SATC新章 AND JUST LIKE THAT」のキャリー・ブラットショーへのオマージュを捧げるルックもありました。ヴァージルとサラ・ジェシカパーカーは親交があったようで。

SPUR編集部: 第二部は往年のトップモデルがいっぱい出てきましたね!

courtesy of Off-White
courtesy of Off-White

乗松さん: シンディ・クロフォード、ナオミ・キャンベル、ヘレナ・クリステンセン、カレン・ウェルソンまで! 薬がたっぷり詰まったバッグや、「MORE LIFE」のメッセージがプリントされたバッグなど、切実に訴えてくる内容なのに、ちょっとジョークっぽく仕上げているのが彼らしいですよね。第三部は一人だけで、デブラ・ショーが出て締めくくり。

courtesy of Off-White
courtesy of Off-White

SPUR編集部: 壮大なブライダルドレスですね。今回はプレス向けというよりは、彼と生前親しくしていた関係者に向けたショーだったということで。そんな中ご招待いただけてありがたいことです。

乗松さん: スペクタクルなショーでしたね。ヴァージルが去ったあとも、彼が築き上げた大切なコミュニティがこうやって受け継がれ、続いていくんだなぁと。

SPUR編集部: ストリートとラグジュアリーの融合という一つの時代を築き上げた人ですもんね。2010年代を代表するその大きなムードが一段落し、エッセンスは継続されながらも、また新たな時代の幕が上がる予感がしました。


レトロ回帰する若者を象徴するよう  LOUIS VUITTON 

乗松さん: 今季のルイ・ヴィトン、とても好きでした。テディ・ボーイなスタイルから、アールデコのような複雑なルックへの移行が成熟していて大変レベルが高い。「若者の移ろい、気まぐれさ」みたいなものを感じました。レザーブルゾンにストライプのパンタロン、ネクタイという、チョン・ホヨンがまとったファーストルック、特に良い。ジェームズ・ディーンの50年代のスタイルも思い出します。

courtesy of LOUIS VUITTON
courtesy of LOUIS VUITTON

SPUR編集部: このルック、私も見た瞬間ときめきました! 肩が大きくて、80年代のムードもありますね。「答えのない青春時代の詩的な世界を保ち続けられるように」という願いが込められたコレクションだったようです。

乗松さん: ティーンがお父さんのネクタイとか家にあるものを勝手に使っちゃってるみたいなスタイル。腰にセーターを巻いていたりね。

SPUR編集部: 今のティーンエイジャーってレトロ回帰していますものね。Thrift ShopやTikTok、YouTubeで、昔のものをディグって縦横無尽にミックスを楽しんでいる。

courtesy of LOUIS VUITTON
courtesy of LOUIS VUITTON

乗松さん: 大きめのラガーシャツをドレスの上に着てみたりと、ある種ラフなマインドが良いなと。そういえば7年前に、クロエでクレア・ワイトケラーがトラックスーツを流行らせたことがあったじゃない。その時インタビューでクレアが「若者が、身の回りにあるものをコーチェラとかに適当に着ていっちゃう感じをイメージした」と言っていたて、そのマインドを思い出しました。


細くて長〜〜〜〜いシルエット THE ROW 

 

SPUR編集部: 乗松さんは今回はザ・ロウがとにかくよかったと絶賛されてましたね。

乗松さん: そうなんです。引きで見るとミニマルなんだけど、ディテールを見ていくと遊びがあって面白かった。たとえばものすごく長い襟とか、後ろでツイストしているニットだとか。肌見せがトレンドであるけれど、ザ・ロウでは肌を覆っているんですよ。クロップト丈だけど、下にきちんとシャツを着ていたりとかね。それがかえってセンシュアルなんです。

courtesy of THE ROW
courtesy of THE ROW

SPUR編集部: 今の肌見せトレンドに対して「困ったな〜これ」と思っている大人たちにとってはありがたいですね。

乗松さん: 今はランウェイでも体型のダイバーシティがずいぶん広まったけど、ザ・ロウは今回は一貫して「リーンなシルエット」を強調していました。ネック部分がすごく長いタートルネックに、襟が高いシャツなど、首も袖もとにかくロング。ジャコメッティの彫刻とか、前編でも触れたけど、エルテの絵を想起させるような細長いかたちね。シルエットの美しさで勝負したコレクションでした。

courtesy of THE ROW
courtesy of THE ROW

SPUR編集部: ジャコメッティ! 言われてみれば、確かに……。

 

不穏だが美しく、幻想的 Rick Owens

乗松さん: 今回、リック オウエンスもロマンがあって素敵だったんです! 会場でスモークを炊いていて、モデルの数人がスモークマシーンを携えていたのね。それをシュッシュと吹くと、ふわ〜っと煙が漂ってくる。その香りが、イソップとコラボレーションで発売するリック オウエンスの新パルファンだったんです。ちょっとスパイシーな、いいにおい。

SPUR編集部: おお、その香水は売れそうですね! リックもすごい細長いシルエットでしたね。

courtesy of Rick Owens
courtesy of Rick Owens

乗松さん: そうそう、袖が長く、肩がビュンと盛り上がっている。煙のなかを歩いて行くモデルの姿はとても幻想的で、まるで絵画の中のようでした。映画マトリックスのようなSF的なムードと、アールデコのミックスのような。そういえば、リックも1930年代のアールデコの映画監督、セシル・B・デミルを言及していましたね。

SPUR編集部: こう見ていくと、パンデミックが落ち着いてきたからといって、「ハッピー全開!元の世界に戻れる!」というふうにはならないようですね。

乗松さん: 手放しには喜べない、一歩引いたシニカルさを感じるムード。戦争の予兆も反映されている気がしました。



 ハイファッションが元気だった時代を思い出したショー  Marine Serre

SPUR編集部: 最後にマリーン・セルです。SDGsや多様性がこれだけファッションを席巻するずいぶん前から、一貫して人のため、地球のための物作りを行なっているブランドですよね。シュプール編集部にもその姿勢に共鳴するファンが多いです。

乗松さん: そうですね。でも服のことを話す前に、まず会場の様子について話しますね。今回はラファイエット・アンティシパシオンというギャラリーで「ハードドライブ」という展覧会を3日間行なっていて、そこでショーも開催したんです。で、夜の21時からがショーがスタートだったんだけど、その前にあったヴェトモンのショーから来たジャーナリストたちが結構遅れて着いてしまったの。そしたら会場整備が割とラフだったからか、ショー後に予定されていた展覧会のオープニングパーティに招待されている若者を、受付の人がガンガン先に入れてしまっていて。結果、わりと著名なジャーナリストが何人か中に入れなかったみたい。私自身もヴェトモンから急いで駆けつけたんだけど、ショー会場に着いた時には、もうカオス。通りはゴッタ返しているし、会場も鮨詰めで将棋倒し寸前のような感じで。それを見て「90年代のゴルチエや00年代のガリアーノのショーを思い出したよ」と言っている人もいた(笑) 

SPUR 編集部: ハイファッションが元気だった時代のショー会場っていう光景だったのでしょうか! 日本では今はまだそんな混雑した会場は想像できない……。

乗松さん: そうなの。で、その「ハードドライブ」という展覧会では、ブランドがずっと真摯に取り組んできたアップサイクルのプロセスを見せていたんです。例えば集めた古着をどんなふうに仕分けしているかなどを工場の一部を切り取って見せたり、アトリエスタッフがミシン踏んでいたり。それとは別に、アップサイクル素材を用いた花柄の布団、ソファ、ベッドなどのインスタレーションもありました。

courtesy of Marine Serre
courtesy of Marine Serre

courtesy of Marine Serre
courtesy of Marine Serre

SPUR編集部: ショー会場の壁に飾られている絵は何だったのですか?

乗松さん: この絵は名画のオマージュで、よく見ると描かれている肖像画のモデルがマリーン・セルの服を着ているんです。服自体は、さらに成熟した気がします。70年代風のパッチワークがあったり、グァテマラ地方を思わせるニットがあったり、曼荼羅を表したようなタトゥ風ストッキングがあったりとか。タータンチェックがあったり、トワルドゥジュイ、アーガイルもあった。

courtesy of Marine Serre
courtesy of Marine Serre

courtesy of Marine Serre
courtesy of Marine Serre

SPUR編集部: あらゆる民族が共生するという無言のスタンスが感じとれますね。やはりマリーンセルというブランドを通して「新しい共同体」を作ろうとしているように思えます。

乗松さん: そうですね。キャスティングも言わずもがな、多様でした。

SPUR編集部: ハイファッションが盛り上がっている様子がこうやって見られると、やっぱりすごく元気が出ます。乗松さん、貴重なお話をありがとうございました!

乗松さん: サンローランもすごく良くて、「着たい」と思えるコレクションだったんだけど……

SPUR編集部: まだまだ話し足りないですね!

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エディターITAGAKI

ファッション、ビューティ担当。音楽担当になったので耳を鍛えてます。好きなものは、色石、茄子、牧歌的な風景。

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