春、トレンドはどう変わる? 現地を取材したプロが語る、【2024 S/S コレクション】サマリー

2024年春夏シーズンを読み解くキーワードは、"日常の服"。再解釈されたベーシックアイテム、モードに更新したデイリーウェアは、まさに私たちが「着たい!」と思うもの。ニューヨーク、ミラノ、パリを取材したエディターたちが、 春夏シーズンのランウェイを徹底分析

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座談会メンバー

本誌編集長 N - PARIS
パリのストリートで目撃したブルマスタイルに、ミュウミュウの影響力を実感。ミニ丈をどう着こなすかが目下の課題。

本誌編集 H - MILAN
ミラノ取材を担当。プラダのショーで見た、ショート丈のボトムにジャケットをインするスタイルがお気に入り。

森 光世さん - NEW YORK
NY在住のファッションジャーナリスト。今季は久々にショーを開催したブランドもあり、フレッシュな勢いを感じている。

進化するミニマリズムとミウッチャ・プラダの影響力

編集H(以下H) 「クワイエット・ラグジュアリー」が打ち出された先シーズン。今季はそこをベースにしつつ、ブランドの個性や哲学をどう反映させるかに意識が向いているように感じました。

編集長N(以下N) これまで装飾主義だったところも、昨今のミニマリズムの潮流によって、ちょうどいい塩梅に引き算された印象。着やすさにつながっているブランドが多かったように思います。

森(以下M) NYでは、今季も引き続き90年代のムードを強く感じました。特に、当時のプラダのミニマリズムの影響が色濃く出ていましたね。

 ミウッチャ・プラダの影響力は、ミラノでもひしひしと感じました。中にはプラダやミュウミュウと似たムードが多すぎるというジャーナリストも。森さんが印象に残っているのはどのブランドですか?

 今季のNYで一番好きだったのは、プロエンザ スクーラーですね。彼らにしては珍しく、軽くてシアーな素材を多用していて、それこそプラダっぽさを感じたのですが、クリーンで知的な透け感がとても素敵でした。繊細なプリーツをあしらったドレス(1)の美しさは感動的でしたよ。

 ミニマリズムの流れでいうと、ミラノで存在感を示していたのはやはり、サバト・デ・サルノによるグッチのデビューコレクション(2)。90年代のトム・フォード期のアーカイブスに着想を得た、普遍的なデイウェアが数多く登場しました。ショーでは控えめな印象を受けましたが、展示会でアイテムを間近で見たら、素材や仕立てのよさが際立っていたんです。前職のヴァレンティノ時代に培った技術がいかんなく発揮されていて、興奮しました。

シースルーとミニボトムが席巻。 軽やかさがキーワードに

 パリでは、今季はミニマリズムを軸に、軽やかさやフェミニンな要素を足していく流れがあったと思います。これまで力強いスタイルを提案してきたニコラ・ジェスキエール率いるルイ・ヴィトンが、エアリーなムード(4)に方向転換したのは驚きました。シャープな印象の強いジバンシイも、いつもよりやわらかなカラーパレット(5)だったし、透け感のある素材使いが目立ちました。

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 2023-’24 年秋冬のミュウミュウのような、シースルーにミニボトムのフレッシュな組み合わせもたくさん目撃しました。

 パリのストリートでは、ミニスカートにシアーなカラータイツをはいている人がいっぱいいましたよ。シャネルのコレクションもミニ丈が多かったのですが、素足にフラットシューズの提案(6)が新鮮だった。若々しくてヘルシーで。

 NYでは、トリー バーチがエフォートレスなミニ丈のルック(7)をいっぱい出していて、すごく可愛かったです。ユニークなカッティングのフラットシューズはリアルに欲しい。コマーシャル的にも成功しそうな予感がします。

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服に加えて総合演出で魅せるブランドの動きが加速

 ショー全般としては、服以外でもスタイルを確立しようとするブランドの動きも目立ったシーズンでした。「旅」をテーマにしたボッテガ・ヴェネタの会場には、いろんな動物のモチーフを描いたタイルが敷き詰められていて、幻想的なアート空間になっていました。会場をマルシェに見立てたステラ マッカートニーのショーも、かなり盛況だったようですね。

 晴天下に、ヴィンテージのレコードやブランドのアーカイブスを売る屋台が並んでいて、ヴィーガンレザーや土に還るスパンコールなども展示されていました。堅苦しくなりがちなサステイナビリティを、オプティミスティックに伝えているのがよかったですね。あと、イギリス人アーティストのアンドリュー・ローガンによる、リサイクルガラスを使った一点もののビジューも売られていて、キッチュで可愛かったんですよ。実際のプレゼンテーションでも彼の作品が使われていて、スタイリングにウィットをきかせていました(8)。

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 ロエベも、彫刻家のリンダ・ベングリスとコラボレーションしたジュエリーを発表していましたね。

 アートをジュエリーとしてまとう、ジョナサン・アンダーソンらしいクリエーション。服も独自路線で、ブレザーとパンツの「おじ可愛い」スタイルを、超ハイウエストで見せる提案が面白かった(3)。プロポーションを変えることで、マニッシュなアイテムを女性が素敵に着こなすということに挑戦したんだと思います。

服作りにじっくり向き合う新時代のラグジュアリーに期待大

 クラフツマンシップや上質さに目を向ける流れも出てきていますね。ボッテガ・ヴェネタの超絶技巧は今季も圧巻で、よりマニアックに深化していました(9)。

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 プラダもクラフト押しでしたよね。

 ビーズ刺しゅうや繊細なフリンジ使いなど、手仕事がふんだんに盛り込まれていて、唯一無二の世界観に魅了されました(10)。ミウッチャの右腕だった、デザインディレクターのファビオ・ザンベルナルディのラストショーでもあったので、フィナーレは盛大なスタンディングオベーション。それもすごく感動的でした。モード界ではデザイナー交代が続いていますが、来季に注目したいブランドはありますか?

 個人的には新生クロエかな。新クリエイティブ・ディレクターのシェミナ・カマリは、フィービー・ファイロ時代からクロエに携わってきた人なので、昔のクロエのフェミニニティに原点回帰するという方向性もあるかもしれません。

 フィービーのブランド始動も、世界的に大絶賛されていますからね。新たなフェミニニティの流れが、いっそう洗練されていくことに期待したいです。

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