今年も残すところ1カ月と少し。そこで今回は、まだ紹介できてない話題作のなかから、今年観ておくべき、傑作3作品を紹介します。2022年のエミー賞において、作品賞(リミテッドシリーズ部門)ほか、最多受賞作品の『ホワイト・ロータス / 諸事情だらけのリゾートホテル シーズン1』、A24×ドレイク×ゼンデイヤがタッグを組みZ世代をセンセーショナルに描いた『ユーフォリア/EUPHORIA シーズン2』、配信時はNetflixのランキングに常時ランクイン、謎解きに世界が夢中になった『令嬢アンナの真実』の3作品を紹介します。
どれも、エミー賞での受賞やノミネートをなしとげた、実力派揃い。次のシーズンの配信がはじまっているものもあるので、今年のうちにぜひウォッチを!
エミー賞「作品賞」受賞のコメディ×ミステリー/『ホワイト・ロータス / 諸事情だらけのリゾートホテル シーズン1』
2022年のエミー賞において、作品賞(リミテッドシリーズ部門)ほか、最多受賞したのがこちらの作品。当初は全6話のリミテッドシリーズとして制作されたものの、あまりの人気ぶりにシーズン2の制作が決定したという、面白さを裏付ける逸話も、作品を盛り上げています。
舞台は、ハワイのリゾートホテル「ホワイト・ロータス」。ハネムーンできた新婚夫婦、キャリアで成功したビジネスウーマンとその夫、引きこもりの息子に、隠し事のある娘とその友人。母親の遺灰を抱えたメンタル不安定のマダム。といったホテルに訪れた客に加え、従業員の各々が抱えている事情が絡み引き起こす事件を描いた、コメディ×ミステリーです。アガサ・クリスティの『オリエント急行の殺人』、『そして誰もいなくなった』のような群像劇、サプライズエンディングの類いが好物なら、イッキ観確定。再生ボタンをおすのがノンストップになるのを保証します(笑)。
ともすれば予定調和、台本ありきの展開になりがちな設定ですが、自然な流れで事件が起こるので、すっと物語のなかに入っていけます。また、トラブルをきっかけに、登場人物各々が自分にとって大切なものに気付く伏線回収への流れと演出も素晴らしく、引きこもりの息子クインのカヌーのシーンは、ほろっときました。青い海、碧い空、波音、サンセットといったハワイの美しい自然の映像美も見所。壮大な自然美の前で、人間のやりとりはなんて滑稽なのかと、コントラストを強めます。
そして、焦点をあてていただきたいキャストが、今回紹介する他の作品『ユーフォリア/EUPHORIA』に出演しているキャシー役でも人気急上昇のシドニー・スウィーニー。『ユーフォリア/EUPHORIA』でドラマシリーズ部門の助演女優賞にノミネートされました。本作品では、ビジネスウーマンの娘として登場します。スポーツで鍛え上げたというヘルシーな美ボディが眩しい! 『ユーフォリア/EUPHORIA』同様、表情、とりわけ目の演技が素晴らしく、本作品でも印象的。すっかりファンになってしまいました。ぜひチェックしてみてください。
STORY
ハワイのとある空港で、一体の死体が運び出される。ときは一週間前、ハワイの高級リゾートホテル「ホワイト・ロータス」には、新婚夫婦、ビジネスウーマンとその家族、母親の遺灰と抱えた傷心気味の女性が訪れる。そんななか、従業員の一人が産気づいて……。
A24×ドレイク×ゼンデイヤがタッグ! Z世代の葛藤を激しく描く/『ユーフォリア/EUPHORIA シーズン2』
HBOの看板作品『ゲーム・オブ・スローンズ』に次ぐ、史上第2位の視聴者数の記録を樹立した、Z世代の激しい日常を描く青春群像劇がこちら。
それもそのはず。制作は、映画『ミッドサマー』など革新的な映像表現や演出で飛ぶ鳥を落とす勢いの「A24」。製作総指揮は、超人気ラッパーのドレイク、今をときめくZ世代のアイコニックなスターであるゼンデイヤが主演と、インパクトのある布陣です。
内容は想像以上の激しさです。シーズン1も、遠慮なくかっ飛ばしていましたが、シーズン2はそのうえをいく攻めっぷり。1話目から、過激なシーンのカウンターパンチをくらいました。しかし、ここで再生を止めては損をするというのは、シーズン1で実証済み。失敗の先で見つける真実や愛。不器用で切なくて、激しくて。そんな、憎めない十代の青春群像劇を楽しむ作品なのです。
ドラッグ、セックス、バイオレンス、アイデンティティ、トラウマ、SNS、恋愛、友情、etc. 。ハードモード全開で「それ、あかんやつ!」のメガ盛りのなかで生きる主人公を見事に演じきったゼンデイヤ。史上最年少でエミー賞最優秀主演女優賞の快挙もなしとげました。なお、音楽賞、メイクアップ賞を含む3部門も受賞。エッジでセンスあふれる映像や劇伴も唯一無二の世界観で見逃せません。本特集で紹介した、『ホワイト・ロータス / 諸事情だらけのリゾートホテル シーズン1』にも出演している、シドニー・スウィーニーの迫真に迫る演技も必見です。
題名のユーフォリアとは、ドラッグを“キメた”直後におとずれる、ほんのわずかな多幸感のこと。その一瞬のために、心身ともに傷つき、友情や恋人など大切なものを失ったりする様は、世代の問題だからと見て見ぬ振りをしてしまうのは安直だなとも感じました。いろいろ考えさせられる本作品、年末年始のイッキ観にいかがでしょうか。
STORY(シーズン2)
幼少期より不安障害を抱え、ドラッグをやめることのできない、17歳の高校生ルー・ベネット。転校生のジュールズとの出会いをきっかけに、ドラッグと決別しようとするが……。
批判されるべきはアンナか、それとも!?/『令嬢アンナの真実』
エミー賞の作品賞(リミテッドシリーズ部門)にノミネートされたこちらは、実話に基づいた作品。ドイツの大富豪の令嬢と見せかけ、NYの上流階級のセレブリティをあざむきお金を巻き上げたアンナ・デルヴェイとは何者か。アンナの正体を暴くべく、取材を進める身重の記者とのあいだには複雑な感情が入り乱れ、気がつけば妙な絆まで生まれてしまう始末。
話が進むにつれ、アンナの様々な側面が顔を出します。アンナは詐欺師か、もしくは野心的な起業家か。それともまわりに利用された被害者? 芸術への造詣があるから生まれはやはりお嬢様? それとも努力の人? アンナが社交界の中にいても違和感のない教養と佇まいを身に付けているのですが、それにいたる経緯がなかなか明かされません。謎がすっきり解決されないのでじれったく、それが視聴者のアンナの正体を知りたいという気持ちに燃料を注ぎます。
観ている側は、「むむぅ」となりますが、よくできた手法だと感心します。アンナに対する解釈の余白があるゆえに、さまざまなレビューサイトでも、アンナに対する見解や賛否について意見がわれており、そのコメントを見ることで作品を多角的に捉える過程がとても面白かったです。その過程で気がつきました。人間は本来多面性をもっているのに、「こういう人」と決めつけることの危険性を。
ひとつ残念なのは、アンナの衣装を筆頭に美術全般の派手さ、華麗さがイマイチだったこと。ニューヨークの社交界を描くなら、浮世離れした世界観を見たかったです。『ブリジャートン家』でプロデューサーをつとめたションダ・ライムズが製作だったのに、もったいない限り。
なお、原題は『Inventing Anna』。この意味を紐解くのが、この作品の醍醐味のような気がします。まだ自信をもって言える答えに辿りついないので、年末年始を使って、2巡目のイッキ観をしようと思います。
STORY
ドイツの大富豪の令嬢になりすまし、NYの社交シーンで富みを築き上げたアンナ・デルヴェイが逮捕された。そんなアンナの真の姿を探るべく、記者ヴィヴィアン・ケントは、接触を試みるが……。
【海外ドラマ ナビゲーター】
エディターR
一日の終わりを、ワインとショコラとドラマで締めくくるのが愉悦のとき。“SATC”よりゴシップガール派。映像美と緻密な脚本ものが好物。最近は動画配信サービスのオリジナル作品のチェックに余念がない。作品でいうと、Netflix『ザ・クラウン』、Apple TV+ 『ザ・モーニングショー』などがお気に入り。ドラマに出てきた名台詞をコツコツとしたためていて、いつかどこかでアウトプットするのがささやかな目標。