今回韓ドラナビゲーターが選んだのは、“私たちをエンパワメントする韓国ドラマ”4作品。 シングルマザーを取り巻く環境やその生きにくさから、さまざまな偏見に立ち向かう女性たちを、パワフルに、ポップに、爽快に描いている『椿の花咲く頃』。そして韓国ドラマの一つのジャンルとして確立されている“メロ”の言葉を原題(『メロが体質』)に用いて、30歳の3人の女性を軸とし、日常をコメディありでドラマティックに表現した『恋愛体質〜30歳になれば大丈夫』など、エネルギッシュなパワーが漲る4作品をチェック!
【韓国ドラマ ナビゲーター】
さすらいのライター 山崎敦子
『最高の愛 〜恋はドゥグンドゥグン〜』より韓国ドラマに魅せられ、日々最新ドラマをリサーチするさすらいのライター。さまざまなジャンルを渡り歩き、今では美容記事に携わること多し。サバイバルオーディションも大好物で、今の推しはENHYPEN。推しの俳優は絞りきれないほど多数。エクラwebでも韓流連載執筆中。
韓ドラ追っかけ班/エディターK
母の影響により第1次韓流ブームの火付け役となった『冬のソナタ』から韓国ドラマの世界にどっぷり浸かり、気付けば韓流ドラマ歴18年。ドラマに加え、アイドル、コスメ、ファッションなど、日々韓国まわりの情報をキャッチアップ。永遠の推しは俳優ソン・ジュンギ。若手女優&俳優の発掘が趣味の領域に。
椿の花咲く頃/物語を通して、ドンベクと一緒に成長できる
シングルマザーで居酒屋を営む女性。これだけで、どんなイメージを思い浮かべますか。このドラマは、私の韓ドラトップ5に入る溺愛作品で、ドンベク(椿)という名のシングルマザーの物語です。7歳で母に捨てられ、成人しても彼に振られ、ひとりで産んだ息子を育てるために移り住んだ港町オンサンで「カメリア」という居酒屋を始めるドンベク。店はドンベク目当てに通う男たちで大繁盛するものの、町の女たちのドンベクを見る目は偏見バリバリ。そんな針のむしろ状態で、自分に自信が持てないドンベクは、ウジウジとただ影を潜めるだけ。そんなドンベクの前に、町の熱血警察官ヨンシクが現れます。
ありのままのドンベクを誇りとし、周囲の視線もものともせず、ド直球の愛を注ぐヨンシク。ドラマは、そんなドンベクとヨンシクのヒーリングラブを中心に、連続殺人というサスペンスの緊張感をピリリと絡めながら、町の人々をめぐる愛と絆をユーモラスにハートフルに映し出していきます。興味深いのは、自分の不遇をただ受け入れるだけの湿っぽい女だったドンベクがまっさらな目線のヨンシクの愛を受けて、どんどん強くたくましくしなやかな女性へと変わっていくところ。そして、変わっていくドンベクを見る周囲の視線も変わっていく……。そのつながりがつながりを呼び込んで奇跡を起こす最終回にじ〜ん。大いなる偏見も立ちはだかる壁も、実は人が作り出すもので、そしてそれを打ち破るのもまた人。じんわりと心温められ、そして勇気と元気をもらえる傑作です。(さすらいのライター山崎)
恋愛体質~30歳になれば大丈夫/おいしく食べて、おいしく語って、おいしく愛し合う
いつの間にか自分も“身内ネタ”の輪の中に引きずり込まれている! これが新時代の気鋭監督イ・ビョンホンの手法なのかと驚かされました。邦題の印象から“恋愛”メインと捉えられがちですが、日常こそドラマなんだと思えるような脚本の仕掛けが詰まっている本作。
物語の軸となるのは、同級生で一つ屋根の下に暮らす30歳のドラマ脚本家ジンジュ、ドキュメンタリー監督ウンジョン、制作会社のマーケティングチーム長ハンジュ。後輩からは「立派な大人」としての視線を向けられ、人生の先輩たちには「大人になったばかりの子供」という印象を持たれるアンバランスな年齢。仕事での苦悩はもちろん、恋愛でも安泰な道はなし。シングルマザーの葛藤、7年来の恋人との別れ、そして最愛の人との死別。毎日の生活の中で起こる様々なハプニングに翻弄されながら、8割コメディ、2割シリアスのさじ加減で、自分の人生と向き合う女性たち。その姿を観ていると不思議と笑顔になれたり、パワーが漲ったり、切なくなったり。随所にちりばめられた名言が心の糧となる。そんなイメージです。個人的に印象に残っているのはジンジュの元彼の言葉。「人は争うために生きているのか? 地下鉄では肩で争い、職場では口で争い、ネットでは指で争う。地球は格闘技場なのか?」。ふとした瞬間に放たれる言葉が社会問題に通ずるものも多く、脳裏に焼き付いて、リフレインして、深く深く考えさせられる。かと思ったら次の瞬間には、大量のネギを花束のように渡す監督とジンジュの予想外のやり取りに笑わされたり、巧妙な演出テクにまんまと沼落ち。にくい!(エディターK)
恋愛ワードを入力してください〜Search WWW〜/エンパワメントな女性3人の物語
「眦(まなじり)を決して」という言葉、最近使ったことありますか? 軽やかに生きることがカッコいいとされる今の時代では、もはや死語? 広辞苑によると「目を見開く。怒ったり決意したりするさま」という意味で、私的には“覚悟を決めて、突き進む”みたいなイメージがあり、泥臭くはあるものの結構嫌いじゃないのですが……。で、このドラマは、まさにそんな眦を決して働くエンパワメントな女性3人の物語。舞台となるのは生き馬の目を抜くポータルサイト業界。業界1位のユニコーンで働くペ・タミは、戦友のように慕っていた代表理事ソン・ガギョンから解雇を言い渡され、業界2位のバロに転職。部下となったチャ・ヒョンに6か月以内に1位にならなければ退職すべきと言われ、その条件を飲むのですが……。
業界トップの座を勝ち取るために、持てる叡智をフル回転させ、降りかかる難題に潰されそうになりながらも、その誇りをかけて闘うのが、男性ではなく女性だというところがミソ。めちゃアグレッシブなのにクールだし、泥臭さ満々なのになぜかスマートで、社会を動かすのは、もはや男性だけじゃないと確信させる眦を決した女性の描かれ方がスタイリッシュでカッコよく、胸すく印象です。しかも、タミの10歳下設定の恋の相手は、独身主義のタミと衝突しながらも、影になり日向になり心の支えとなってくれる存在(私もほしいぞ、そんなパートナー)。恋も仕事も主導権を握るのは、もはや女性。それを違和感なくナチュラルに展開させる演出も今っぽく洒落てます。(さすらいのライター山崎)
ラケット少年団/垣根を越えて、あらゆる世代をエンパワメント!
バドミントンのコーチである父ユン・ヒョンジョンの仕事の都合により、想像を絶する田舎に引っ越すことになった運動神経抜群の野球少年ユン・へガン。「勝ったら自宅にWi-Fi接続」を条件に、へガンは海南西中学校の弱小バドミントン部の助っ人を引き受けます。そこで新たな仲間たちと出会い、へガン自身も忘れていた過去の思い出や気持ちと向き合っていくことに。で、本作はここが違う!というポイントは、少年少女のスポーツの世界を題材に置きながら、従来の男性社会、女性社会ならではの生きづらさを両方の視点から、決して重すぎずユーモアを交えて描いていること。それぞれの世代が抱えている思いが台詞や表情から伝わってきて、全キャラクターに感情移入してしまう。
バドミントン界の生きる伝説と言われたヘガンの母ラ・ヨンジャが、現役時代に受けた偏見の数々や、引退した理由などに切なさを覚えつつ、監督として部員たちに自分と同じ思いをさせまいと“派閥”から守る姿は最高にクール。ヒョンジョンもお茶目なパパ&監督っぷりからは想像できないけれど、過去の痛みを背負いながら大人になっていて、それを子供たちに感じさせない強さを持っている。日常のふとしたシーンに共感ポイントが潜んでいて、そのトラップに引っかかっては、ほろりと感動させられる日々です。若い世代の声を誠実に受け止める大人たち、自分の意見を発する勇気を持つ学生たちの姿が描かれていて、とても胸が熱くなるんです。背中をそっと優しく押してくれるようなエンパワメントのポイントが随所に隠されたドラマだと思います。(エディターK)