アクセルさん、エルメスの“夢”ってどうやって作るのですか?

Interview with Axel de Beaufort

エルメスの社外から、あるいは社内で生まれた“夢”を形にするスペシャルオーダー部門でデザインを手がける、アクセル・ドゥ・ボーフォール氏。アイデアの尽きない彼が、ルールにとらわれないルールを語ってくれた。

アクセルさん、エルメスの“夢”ってどうやの画像_1

「驚くべきリクエストがたくさん寄せられるんですよ。ここで作るものは、単なる美しいオブジェではありません。その背後には大変な時間と労力が費やされており、そして何よりも気持ちが込められています。それぞれのアイテムは、一つのストーリーなのです」

こう語るのは、エルメス社のスペシャルオーダー部門、いわば、“夢”実行委員会のデザイン責任者であるアクセル・ドゥ・ボーフォール氏。“ここ”とはパリ郊外パンタンにある、元映画スタジオを改装した広々とした工房だ。この日、ある職人はスポーツカー「ブガッティ・シロン」の座席の革張りに取りかかり、また別の職人は、日本で展示するターンテーブルの仕上げに奮闘していた。


パッションを顧客とシェアし、どんな夢をも形にしていく

さて、スペシャルオーダーの受注からデザイン、制作まではどんなふうに進むのか? まずは、二つのカテゴリーに分けて説明しよう。一つは、顧客からの特注。受注では、ルールがないのがルール。「ご要望が具体的な場合にはそれを傾聴し、よりよいご提案をします。受注はわれわれではなく、各店舗の担当者が受けるんですが。一方オリジナリティがありつつ素材やデザインの詳細が漠然としている場合は、アイデアが生まれた経緯を理解し、お客さまのスタイルや人柄を知ることに努めます。ですから服装を描写し、写真を撮らせていただくこともあるのです」。そして、エルメス社側のアイデアを提案し、デザイン画を描き、模型やサンプルを作る。レザーやトワルもストックの流用ではなく、それぞれのニーズに合わせた特別な仕上げ。こうしてエルメスのスペシャルオーダー部門では、顧客とパッションを共有し、どんな“夢”をも少しずつ形にしていく。彼自身のバックグラウンドもものづくりに役立っているという。「以前私が手がけていた船舶デザインは複雑な構造で多くの実用的なオブジェが必要でした。そのメカニズムを学び、作っていた経験は今とても役に立っています」

もう一つはエルメス社の世界中の店舗から寄せられたアイデア。「4年前から2度にわたり、私たちは『エルメスの夢』と題して世界中のエルメス店舗にアイデアを募りました。つまり、今年のエルメスの年間テーマ“夢を追いかけて”に先んじた、“夢”企画。店舗スタッフたちのアイデアから実現化したものの一つが、33回転のレコードを内包するジュークボックスです。スピーカー自体はやっと探し当てたイギリスの専門職人に依頼し、表面は「メゾン・ド・ラジオ」の協力を経て、音質重視でエルメス特有のキャンバス地『トワルH』を進化させた素材で覆いました。これはまさに、イマジネーションとサヴォワールフェール(職人技術)の融合です。そして“夢”は、限界という壁を突き破るための原動力。私たちに、不可能なことはありません」と、ドゥ・ボーフォール氏。こんなポリシーから、サーフボードを作った際は、併せてメンテナンス用のアイテムも考案。それが、エルメス社香水クリエーション・ディレクターのクリスティーヌ・ナジェルとのコラボレーションによる、ボード用の香るワックスである。

こんなふうにして数が増えたスペシャルアイテムが、この秋東京で一堂に集められる。「われわれの仕事の仕方は“フラヌリー”。この言葉は数年前にはわが社の年間テーマにもなりましたが、ぶらぶらと散歩することです。私は船舶デザインからオブジェの制作、友人との会話から工房のリサーチまで、いろいろなシチュエーションを渡り歩いてきました。この展覧会も散歩する感覚で見てください」

 

Profile
幼い頃から海を愛し、船舶デザイナーとしてスタート。ヨットの内装のスペシャルオーダーにおけるアドバイスを請け負ったのが、エルメスとの関わりのきっかけ。8年ほど前よりエルメス社スペシャルオーダー部門のデザイン&エンジニアリングディレクターに。

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毎朝りんごを一つ持って散歩に出かける友人へプレゼントしたい、という注文に、エルメス傘下のメゾンであるピュイフォルカとのコラボレーションでこたえた。まるで彫刻のようにりんごをかたどったシルバーのケースを、レザーで覆ったもの。ストラップには携帯ナイフも収納可。15年前の作品だが、氏いわく「エルメスのアイデアの斬新さを象徴した、インスパイアリングな一点」

 

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