それは、まさしく絶望の瞬間だった。パリコレでも屈指の注目度のハイブランド、そのショーのエクスクルーシブ(独占出演)候補に選ばれた新人モデルのハナカは、右も左もわからないまま初めてのパリへ飛んだ。モデル人生を懸けるくらいの意気込みで挑んだ現地キャスティングの結果は、まさかの不合格。このショーに出れば、売れっ子としてのスターダムは約束されたようなもの。その栄光への扉は、彼女の目の前で閉ざされてしまった。
そのときのことを思い出すと、日本に帰ってきた今でもハナカは涙ぐんでしまう。ファッションウィーク直前のパリには、有名ブランドのエクスクルーシブの座を得ようと、世界中から彼女のような新人モデルがやってくる。そして選ばれるのは、たったの数人。そういう厳しい世界の真っただ中に、モデルになって間もない19歳のハナカはいきなり飛び込んだ。
嫌な予感は確かにあった。生まれて初めてのキャスティングで、目の前にはずっと憧れていたカルト的人気を誇るクリエイティブ・ディレクターがいる。キャリアの長いモデルだって舞い上がってしまいそうな状況に、彼女はまったくの未経験で挑んだ。彼の前を一度歩き、着替えてみてと渡された衣装は、彼女の思う「そのブランドらしさ」とは対極的なデザインで、緊張に拍車をかけた。「この瞬間のためにすべてを懸けてきたのに、憧れの彼の前で少し戸惑ってしまったんです。不合格の知らせを聞いたときは、道ばたでワーッと思いきり泣きました」と涙ながらに語るハナカ。こうして、彼女の初めてのパリコレ挑戦は、どん底の状態から幕を開けた。