キャスティングに駆け回る日々。支えてくれたのは母の強さ

 翌日から、多くの新人モデルが直面するパリコレの洗礼が彼女を襲う。グーグルマップとスケジュール表を頼りに、たったひとりで見知らぬパリの街を駆け巡り、次から次へとキャスティングを受ける。道に迷ったり、メトロに乗り間違えたりすることもしょっちゅうだ。1時間以上も歩いて、やっとのことでたどり着いたキャスティング会場で、簡単にウォーキングだけしてものの数十秒であっさり帰されたこともあった。「ひと目見て興味を引かないモデルのことは、見向きもしてくれないんです。『歩いてみて』と言われてウォーキングしても、明らかに誰も私を見ていなかったり。本当に厳しい世界だと思いました。何度もめげそうになったけれど、鏡に向かって強い表情をつくり、『私はプロだ、大丈夫、行ける!』と言い聞かせて気持ちを上げていました。でもやっぱり、キャスティング会場に向かいながら何度も『もう無理!』と泣いたし、宿でも毎晩泣いていました」

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1 「忙しくて観光は全然できませんでした」とハナカ。タクシーでルーヴル美術館の前を通ったとき、初めての観光地に思わず「パリだ……」とつぶやいた
2 中国発のブランド、ピースバードのショーに出演

 こうして受けたキャスティングは30を超えた。一日中キャスティングを回り歩くも、手ごたえを感じられないまま心身ともに疲弊していたハナカを救ったのは、応援してくれる周囲の人のやさしさだった。ハナカが落ち込んでいた夜に夕飯を一緒に食べてくれたのは、同じ事務所の大先輩、チハル。ハナカの気持ちを察してか、あえてキャスティングの話には触れず、楽しい話題で和ませてくれた。メンズモデルのアキトは、過酷な状況でポジティブな気持ちを保つ方法を伝授。そして何より彼女を支えたのは、日本から応援する家族の存在だ。「いちばんつらかったときに母に電話をしたら、『あなたなら絶対にできる、自信を持って!』と力強く励ましてくれた。そのおかげで、前へ進むことができたんです。母の強さを改めて知りました」

 そんな中で受けたニナ リッチのキャスティングで、ハナカは今までにない手ごたえを感じた。「最初にウォーキングをしたときから、周囲にいるブランドのスタッフの反応がよかった。そして衣装のフィッティングをした瞬間、ものすごくしっくりきたんです。『この服を着てランウェイを歩きたい!』と強く思いました。衣装に着替えて出てきた私を見て、デザイナーデュオのひとり、ルシェミー・ボッターが『アメージング!』と言ってくれた。これですごく自信がつきました」。こうして、見事ニナ リッチのショーへの出演が決定。「ショーに出られるという知らせを聞いたときは、事務所のマネジャーとも両親とも、泣きながら喜びを分かち合いました。それまで本当につらい気持ちでいたので、『これで日本に胸を張って帰れる!』と、心の底からうれしかったです」

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“折れそうなときは鏡に向かって、「行ける!」「やれる!」と唱え続けた”

3 同ショーでのメイクアップをセルフィーで撮影4 ビオショップで大好物のニンジンを発見! 生のままかじり、甘みを味わうのが好きなのだとか

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“心強い存在の先輩モデルたち。大舞台の後には思わず涙も……”

5 同じ事務所の先輩モデル、江原美希(右)と道でバッタリ
6 アキト(右)も同じ事務所の先輩。カフェでアドバイスをもらう。「実績ある先輩の言葉は勉強になります!」

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