いくつになっても輝く力 Part.2

奈良橋陽子さん/Yoko Narahashi

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コート¥59,000・プルオーバー¥26,000・パンツ¥39,000・ピアス(セットで)¥15,000/トーガ・アーカイヴス(トーガプルラ) イヤーカフ〈WG、ダイヤモンド〉¥68,000/ショールーム セッション(Hirotaka) バングル〈シルバー〉¥201,000/ミスイ 伊勢丹新宿店(MISUI)

女優になりたかった私が今の仕事をしているのも運命!?

「私はもともと自分が女優になりたかったんです。でも日本では若尾文子さんのような、いわゆる美人でないとなれないみたいだし(笑)、そうかといってアメリカで活躍したいと思っても、『サヨナラ』のナンシー梅木さんぐらいしか成功例はなくて」

 ゴダイゴのヒット曲などの作詞、演出、そしてキャスティング・ディレクターとして活躍する奈良橋陽子さんにこんな過去があったとは……。

強さは足りなくても内に秘めたものがある日本人俳優

「きっかけは、5、6歳のときに観た映画『風と共に去りぬ』。こんなにキラキラした世界があるなんて、と驚いた。子どもの頃は外交官だった父の赴任先のカナダで暮らしていたから、日本に帰ってきてからも日本語がおぼつかない。でもアメリカで演劇を学び、早い時期に既存のものではなくて、自分がやりたいことをやるべきだと気づいて。西武劇場(現在のPARCO劇場)で上演した『ヘアー』の演出などはまさにそのいい例で、アメリカにいたときにベトナム戦争反対といった若者のムーブメントとか、爆発寸前の葛藤とかを肌で感じていましたからね。それを作品に投影できたのだと思います」

 一方、アメリカのショービズ界を知る奈良橋さんの心の中に生まれたモヤモヤ。それは、「アメリカ映画に登場する日本人は、なぜあんなに変なの?」という疑問だ。

「オードリー・ヘプバーンの『ティファニーで朝食を』ではミッキー・ルーニーが日本人役をやっているけど、さすがにあれはアメリカ人も“恥ずかしい”と今では言っています。背が低くて、歯が出ていて、眼鏡をかけていて。多様性の意識が高まった現代では考えられない、と。もっとも、日本人俳優が世界に出ていこうとするときは、まだまだハードルは高いんです。『SAYURI』のヒロインをなぜ日本の女優ではなく中国のチャン・ツィイーがやったのか? 英語力なら大して変わりはないはずなのに」

 実はチャン・ツィイーは事前に監督と会っていたという裏事情があったようだが、「それでも日本の俳優は"強さ”が足りないのかもしれない。それでいて渡辺謙さんがまさにそうなのですが、"自分が自分が”と主張するのではなく、心の中に何かを抱えているような演技は向こうの人たちから絶賛されていますから。『ラスト サムライ』など、まさにそうでしょう」

 ハリウッド俳優、アメリカ人になるのではなく、日本のよさを内包しながらも世界に打って出ることはできるはず。双方の文化を知っている奈良橋さんならではの、的確な指摘だ。

作品には未来への思いを込めてバトンタッチ

「以前から一緒に仕事をしてきた別所哲也主演で『リターン・トゥ・アフリカ』という、ちょっと『ターザン』のような(笑)作品を作ったことがあるのですが、私が訴えたかったのは環境問題なんです。今のままでいたらオーストラリアやカリフォルニアの大火事のように、自然が破壊されて大変なことになってしまう。私には、子どもだけでなく孫もいますから、彼ら彼女たちに対しての責任というか、自分ができる何かをしなくてはいけないと思うんです。それも説教くさくならずに、エンターテインメント性をキープしながら、なんとか観てくださる方たちの心に届けられないかな、と。トランプ大統領は“温暖化などフェイクだ!”と言っているけれど、世界の状況を見ればどっちがフェイクかわかるでしょう」

 環境問題をエンターテインメント性を絡めて作品化したい、という奈良橋さんの言葉に対して「それなら動物を主人公にした作品にしたら?」と水を向けると、「オー、ザッツ・ア・グッドアイデア!」と両手で握手してくれた。ものを創ることに関して、とことんピュアな人だと感じさせられた。

「本当は50歳くらいでリタイアしたかったんです。一口にキャスティング・ディレクターと言っても『ラスト サムライ』のときなど2年間はかかりっきりだったし。ただ、アイデアを思いつくと、ついのめり込んでしまう。『ヒート』のマイケル・マン監督のTV映画に、刑務所に入れられたアスリートが、外界で行われるレースの時間に合わせて一人黙々と走る、『ジェリコ・マイル/獄中のランナー』という作品があるんだけど、それを川平慈英などを使って『ムショ』という芝居にしたの。そうしたら今、そのマイケル・マン監督と仕事をする機会がめぐってきて。人生って何があるかわからないから面白いんですね(笑)」

 奈良橋さん主宰の演劇クラス内ではスマホは極力見ないように、と言っているそう。

「電車に乗ってもほとんどの人がスマホやタブレットを見ていて、窓の外はおろか、居合わせた乗客にも関心がない。私、生徒たちに言うの。“自分がなんのために俳優をやるのか考えろ”と。お金のためでも名声のためでもない。自分の思いを、演技や作品を通して伝えようとする生徒が一人でも増えてくれたら。それも私の夢です」

奈良橋陽子/ならはしようこ1947年生まれ。作詞家、キャスティング・ディレクター、演出家。俳優養成所アップスアカデミー主宰。日本・アジア圏のキャスティング・ディレクターとして多数のハリウッド映画に参加。英BBCとNetflix共同制作のドラマ「GIRI/HAJI」のキャスティングでは、SPUR2月号表紙を飾った奥山葵さんを見いだす。

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